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三章 Renewal

六月 <課題> 7

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ようやく熱が下がって俺は三日ぶりに登校した。

この日は朝から晴れていて、
昼休みが始まると子供達は
一斉に校庭へ駆け出していった。
そんな中、
教室に残っていたのは俺達少年探偵団と
机で本を読んでいる相馬、
そして
何もせずぼぅっと机に座っている池田だった。

「ちょっと上に行って話そうぜ」
洋の提案に翔太は一度室内を見回してから
「そうだね」と同意した。
二人は俺と茜の返事を待たずに
さっさと教室を出ていった。
茜も二人に続いて教室を出た。
俺も三人の後を追った。
おそらく翔太と洋が気にしたのは、
相馬ではなく、
ぼぅっとしているが
実際は何を考えているかわからない
池田の方だろうと思った。

屋上には数人の女子生徒がいた。
俺の目がフェンスに手をかけて
寂しそうに校庭を眺めている一人の少女を捉えた。
葉山実果だった。
そこにはあの日、
元気にドッジボールをしていた
少女の面影はなかった。

「あっくん、こっちだよ」
翔太に呼ばれて俺は三人のもとへ駆けた。
「どうしたんだ?
 わざわざこんなところに来るなんて」
「念には念をって言うだろ。ひひひ」
洋が意味深な視線を翔太と茜に向けると
二人は大きく頷いた。
「あっくんが休んでる間にね、
 私達すごい場面を目撃したのよ」
「あれはすごかったね」
しかし誰もその続きを話し出そうとしなかった。
三人は俺の方へ視線を向けてニヤニヤしていた。

「わかったよ降参だ。
 お前達が何を見たのか教えてくれ」
「探偵団たるもの少しは自分で考えないと
 ダメだぜ」
「たしかに洋の言い分も一理あるね。
 探偵は推理してこそだからね」
無理難題とはこのことだ。
推理しようにも情報がなさすぎる。
これで正解を導き出せる人間がいるのなら、
それは探偵ではなく超能力者だ。
それに今の俺は三人の話よりも、
視線の端に見える葉山の方が気になっていた。

「何だかあっくん、
 私達の話にあまり興味がなさそうだわ」
茜の指摘に俺は
「そ、そんなことはないさ。
 ただ何のことか本当にわからないんだ」
と慌てて誤魔化した。
「へへ。
 実は僕達、ボス猿の弱点を見つけたんだよね」
俺は翔太の言葉の「ボス猿」というキーワードに
少しだけ興味を覚えた。
「一昨日、すごい雨だったでしょ?
 あの日の放課後、
 私達少しだけ学校に残ってたの」
茜が言うには、
三人は校内で煙草が吸えそうな場所を
探していたらしい。
梅雨に入って
「楽園」で過ごす機会が減ったせいで、
ニコチンと刺激に飢えていた
と三人は悪びれることなく言った。
時に子供は恐ろしいことを考える。
学校で喫煙など、
それこそボス猿に見つかったら
ただでは済まないだろうに。

校内をウロウロと歩き回った挙句、
三人が出した結論は屋上だった。
傘を隠れ蓑に屋上の端で煙を嗜んでいると、
ドアが開いてナカマイ先生が現れた。
三人は急いでフェンスから煙草を投げ捨てて
ナカマイ先生の元へ駆け寄った。

「あら、みんなまだ残っていたのね」
「もう帰るところだよ」
三人は口を揃えて言った。
「雨だから気を付けて帰るのよ」
「はーい」
三人とナカマイ先生が
一緒に靴箱へ向かっていると、
途中でボス猿と出くわした。
「畑中先生、探しましたよ」
ボス猿はナカマイ先生を見るなり
鼻の下を伸ばした。
そして三人の存在に気付くと険しい表情になり、
「お前達は早く帰れ」と三人を追い払った。

「しかし、そこで素直に帰る俺達じゃないぜ」
洋が胸を張った。
「私達は帰るフリをして
 廊下の角から様子を窺ったのよ」
その時のことを思い出したのか
茜は口に手を当てて「うふふ」と笑った。

その直後、
三人はこれまでに見たこともない
ボス猿の姿を目にした。

「畑中先生、
 もしよろしければ
 今晩どこかでお食事でも如何ですか?」
洋がその時のボス猿を真似て大袈裟に頭を下げた。
「今日は私、
 実家に寄らないといけないのですみません」
今度は茜がナカマイ先生の声音を演じた。
「そ、それなら私が実家までお送り致しますよ」
「・・それは結構です」
茜の言葉に洋はがくりと膝から崩れ落ちた。
翔太が「そっくり!」と手を叩いて笑った。

「ボス猿の顔ときたらさ、面白かったよね」
「間抜けな面してたな。ひひひ」
「あんなに落ち込んでた猿田先生、初めて見たわ」
三人はボス猿がフラれたと喜んでいたが、
俺にはナカマイ先生が
ボス猿の誘いを断った理由に心当たりがあった。
おそらく、
ナカマイ先生は実家の事情を
ボス猿に話していないのではないか。
そう考えるとこの時点で
二人はまだ交際に発展していない可能性が高いが、
実際のところはわからない。
もしかしたら、
ナカマイ先生は
三人が盗み聞きをしているのを知っていて、
自分達の関係を隠すために
咄嗟に演技をしたのかもしれない。
「張り込みしてるみたいで面白かったよね」
「探偵には尾行と張り込みが付き物だからな」
「猿田先生って
 自分の顔を鏡で見たことがあるのかしら?」
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