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三章 Renewal
六月 <遺品> 14
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俺には塾の前に
寄らなければならない場所があった。
今日こそきちんとけじめをつけよう。
俺は自転車に跨ると重い足でペダルを踏み込んだ。
途中、公衆電話から連絡をするか迷ったが、
結局俺はそのまま目的地に向かった。
門の前で自転車をとめた。
家の明かりは二階の窓から漏れる光だけだった。
どうやら今日も家には奥川一人のようだ。
俺は大きく深呼吸をしてから門扉を押した。
玄関の前でもう一度深呼吸をしてから
呼び鈴を鳴らした。
玄関から顔を出した奥川はちょっと怒ったような、
でも嬉しそうな表情をみせた。
その笑顔に俺は胸がズキッと痛んだ。
「どうしたの?上がって」
「奥川、話があるんだ」
俺はその場に立ったまま言った。
「うん。だから上がって。中で話しましょ」
「いや、ここで」
家に上がると決心が揺らぐ気がした。
そしてまた俺の黒い欲望が顔を出したら。
おそらく今度は自分を抑えられないだろう。
俺は奥川を。
嫌がる奥川の服を引き裂いて、
その頬を平手打ちして、
泣き出す奥川の体内に強引に押し入り、
激しく腰を動かしながら、
その両の乳房を乱暴に揉みしだき、
乳首に噛みつく。
奥川の悲鳴と涙が、
俺をより興奮させるのだ。
俺は頭を振った。
「どうしたの?」
「・・奥川に。
きちんと話さないといけないことがある」
奥川の表情が固くなった。
「聞きたくないな、その話」
奥川は視線をそらすとポツリと呟いた。
「私のこと、嫌いになった?」
俺は首を振った。
「ほかに好きな子ができた?」
「それは絶対に違う」
俺は即座に否定した。
「じゃあ何で?」
「奥川は悪くない。俺が悪いんだ」
「理由になってないよ、それ」
どんな理由を並べたところで
今の奥川を納得させるのは無理だろう。
「ごめん、奥川」
だから俺は素直に頭を下げた。
「そんな勝手なこと。許さないよ、あっくん」
その声は僅かに震えていた。
俺はゆっくりと顔を上げた。
奥川が真っ直ぐ俺を睨んでいた。
その目は涙で滲んでいて、
今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
「ごめん」
俺はもう一度、さっきよりも深く頭を下げた。
ただ謝ることしかできなかった。
奥川に罵倒されてもいい。
いや罵倒された方が気持ちが楽だった。
しかし奥川は俺を責めなかった。
無言の時間が無限に続くかと思われた。
「・・あっくん、今日は塾でしょ。
早く行かないと遅刻するよ」
その言葉に俺は顔をあげた。
奥川は必死に笑顔を作っていた。
「奥川・・」
その時、奥川の右目から一筋の涙が頬を垂れた。
俺はくるりと背を向けた。
「ごめん、奥川」
もう一度、俺は謝った。
そして走り出した。
門扉を開けて自転車に跨ると
勢いよくペダルを踏んだ。
無我夢中で自転車を走らせた。
自分でもどこに向かっているのかわからなかった。
気付くと辺りは暗くなっていた。
気付いたら俺は
「Tombstone in 城之三崎」
の前にいた。
自転車をマンションの駐輪場にとめてから、
丁度、帰宅してきた住民に紛れて
俺はマンションへ侵入した。
俺はエレベーターを避けて階段を利用した。
二階、三階と無心に階段を駆け上がって、
ようやく俺の前に鉄格子がその姿を現した。
俺が破った所には新しい金網が貼られていた。
俺は階段から身を乗り出して下を見た。
マンションの駐車場に微かな明かりが見えた。
大吾は落ちている間に何を思っただろう。
怖かっただろうか。
天を仰いだ姿勢のまま落ちたことで
迫ってくる地面の恐怖を
感じることがなかったのは
せめてもの救いだっただろう。
その時、不意に大吾の声が頭の中で木霊した。
「転校生、お前の渾名が決まったぜ。
お前は悪魔の子だから『あっくん』だ」
俺は階段を駆け下りた。
寄らなければならない場所があった。
今日こそきちんとけじめをつけよう。
俺は自転車に跨ると重い足でペダルを踏み込んだ。
途中、公衆電話から連絡をするか迷ったが、
結局俺はそのまま目的地に向かった。
門の前で自転車をとめた。
家の明かりは二階の窓から漏れる光だけだった。
どうやら今日も家には奥川一人のようだ。
俺は大きく深呼吸をしてから門扉を押した。
玄関の前でもう一度深呼吸をしてから
呼び鈴を鳴らした。
玄関から顔を出した奥川はちょっと怒ったような、
でも嬉しそうな表情をみせた。
その笑顔に俺は胸がズキッと痛んだ。
「どうしたの?上がって」
「奥川、話があるんだ」
俺はその場に立ったまま言った。
「うん。だから上がって。中で話しましょ」
「いや、ここで」
家に上がると決心が揺らぐ気がした。
そしてまた俺の黒い欲望が顔を出したら。
おそらく今度は自分を抑えられないだろう。
俺は奥川を。
嫌がる奥川の服を引き裂いて、
その頬を平手打ちして、
泣き出す奥川の体内に強引に押し入り、
激しく腰を動かしながら、
その両の乳房を乱暴に揉みしだき、
乳首に噛みつく。
奥川の悲鳴と涙が、
俺をより興奮させるのだ。
俺は頭を振った。
「どうしたの?」
「・・奥川に。
きちんと話さないといけないことがある」
奥川の表情が固くなった。
「聞きたくないな、その話」
奥川は視線をそらすとポツリと呟いた。
「私のこと、嫌いになった?」
俺は首を振った。
「ほかに好きな子ができた?」
「それは絶対に違う」
俺は即座に否定した。
「じゃあ何で?」
「奥川は悪くない。俺が悪いんだ」
「理由になってないよ、それ」
どんな理由を並べたところで
今の奥川を納得させるのは無理だろう。
「ごめん、奥川」
だから俺は素直に頭を下げた。
「そんな勝手なこと。許さないよ、あっくん」
その声は僅かに震えていた。
俺はゆっくりと顔を上げた。
奥川が真っ直ぐ俺を睨んでいた。
その目は涙で滲んでいて、
今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
「ごめん」
俺はもう一度、さっきよりも深く頭を下げた。
ただ謝ることしかできなかった。
奥川に罵倒されてもいい。
いや罵倒された方が気持ちが楽だった。
しかし奥川は俺を責めなかった。
無言の時間が無限に続くかと思われた。
「・・あっくん、今日は塾でしょ。
早く行かないと遅刻するよ」
その言葉に俺は顔をあげた。
奥川は必死に笑顔を作っていた。
「奥川・・」
その時、奥川の右目から一筋の涙が頬を垂れた。
俺はくるりと背を向けた。
「ごめん、奥川」
もう一度、俺は謝った。
そして走り出した。
門扉を開けて自転車に跨ると
勢いよくペダルを踏んだ。
無我夢中で自転車を走らせた。
自分でもどこに向かっているのかわからなかった。
気付くと辺りは暗くなっていた。
気付いたら俺は
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丁度、帰宅してきた住民に紛れて
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ようやく俺の前に鉄格子がその姿を現した。
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俺は階段から身を乗り出して下を見た。
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怖かっただろうか。
天を仰いだ姿勢のまま落ちたことで
迫ってくる地面の恐怖を
感じることがなかったのは
せめてもの救いだっただろう。
その時、不意に大吾の声が頭の中で木霊した。
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