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三章 Renewal

六月 <遺品> 10

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翌朝、
俺は母に急き立てられるようにして家を出た。
手のかからない俺の唯一の欠点が朝だった。

歩きながら俺は大吾の遺品について
考えを巡らせた。

洋からビデオカメラを取り上げた大吾は、
他人の秘密を盗み撮りしていた。
ある時、
大吾はその秘密を利用することを思い付く。
つまり強請だ。
強請の相手は茜と校長だ。
茜には従順な手下を強要し、
校長からは金を引っ張り出した。
これであの大金の説明もつく。
ビデオテープは大吾にとってまさに金の卵だった。
そう考えたら大吾がテープに映った秘密を
誰にも話さなかったことも頷ける。

秘密は秘密だからこそ価値がある。

そしてナカマイ先生の秘密に関しては
強請の材料にはならないだろう。
それに仮に強請ろうと考えたところで相手が悪い。
小学生が本職の極道相手に喧嘩はできない。

遠くでチャイムの鳴る音が聞こえた。
一瞬、走ろうか迷ったが
結局俺はそのまま歩き続けた。


教室に入ると室内はざわついていた。
ナカマイ先生は
「ギリギリセーフ!」と言ったが、
実際は五分の遅刻だった。

「では今から席替えをします!」
ナカマイ先生は
俺が席に着いたことを確認してからそう宣言した。
すぐに歓声があがった。
子供達にとって
席替えは定期的に開かれる一大イベントだった。

周りを見回すと、
興奮している子供達の中で
相馬だけは普段通り
机の上の本に目を落としていた。
いや、もう一人。
窓際の一番後ろの席で誰とも話さずに
外を眺めている男がいた。
だが、
池田の場合は話す相手がいないだけで
相馬とはまた違った意味で孤独だった。
その存在が希薄すぎて、
大吾のいじめの標的にすらならなかったのも
当然といえば当然のことかもしれない。
池田圭は単に友達のいない大人しい子供だった。
そんな男が大吾の死に関して
俺に声をかけてきたことは意外だった。
悪趣味か。
それとも。
好奇心は人並み以上ということか。

席替えは
目の悪い生徒が優先的に前の席を選んでから、
あとは平等にくじ引きをした。
そして俺は運良く
窓際の一番後ろの席を引き当てた。
これまで池田が座っていた席だった。


この日、
俺達喫煙仲間は放課後一度家に帰ってから
「Riverside Doom 春日」
に集合することになっていた。

帰り際、靴箱で俺は茜に声をかけた。
「どうしたの?あっくん」
「帰る前に渡しておこうと思ってさ」
俺は鞄からビデオテープを出して茜に渡した。
「これは?」
茜は手に取ったビデオテープを
不思議そうに眺めていた。
「大吾が隠し撮りしていたテープだ」
「えっ、本当?」
茜の顔がパッと明るくなった。
「これで安心だろ?」
「うん!ありがとう、あっくん」
茜は受け取ったテープをすぐに鞄に入れた。

「・・あっくん、これ見た?」
「一応中身は確認した」
俺は正直に答えた。
「・・そう」
茜は恥ずかしそうに俯いた。
「でも茜が心配するような映像は映ってなかった。
 あの映像なら誰も茜とはわからないはずだ。
 茜の顔すら映ってなかったんだ」
「ありがと、あっくん」
顔を上げた茜は安堵の表情を浮かべていた。
「よし、俺達も急いで帰って
 『Riverside Doom』に集合だ。
 二人を待たせたら悪いからな」
「うん!」
茜は元気よく頷いた。
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