残春はさ迷える子羊達のコンチェルト

第16楽章

第107話 騙し合い 鈴木洋？の視点

応接室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。

「・・菅野さんが。
　六条さんを殺していたんですね・・」
茜が誰にともなく呟いた。
「どうしたんだい？
　何か・・気になることでもあるのかい？」
「い、いえ・・。
　結局。
　私の推理は外れていたわけですね」
茜が溜息を吐いた。
「そんなに落ち込むことはないよ。
　君は【探偵】ではないし、
　いやたとえ【探偵】であったとしても。
　このゲームにおいては
　生き残ることこそが最優先なんだから」
美しい処女に探偵役は似合わない。

応接室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。

「まだ何か気になることがあるのかい？」
暗い表情のままカップを両手で抱えていた茜に
僕は声をかけた。
「結局。
　『狼』とは誰のことだったんでしょうか？
　西岡さんはその『狼』こそが元凶だと。
　そう話していました。
　私もそう思います。
　郷田さんの死体がなければ。
　こんな結末にはならなかったのではと」
そこで彼女は口を噤んだ。
その表情は微かに強張っていた。
僕は小さく息を吐き出した。
「彼は頭も切れるし弁も立つ。
　あの時、
　彼は君に『少年A』であることを指摘され
　動揺していた。
　それを誤魔化すために
　口から出まかせを並べたんだろう。
　彼は郷田さん殺しの罪を僕に着せようとした。
　彼のしたたかな所は
　郷田さん殺しの容疑者の中に
　敢えて自分も加えていたことだよ」
そして僕は自然な笑顔を作った。