106 / 117
第16楽章
第106話 ダリア 茜の視点
しおりを挟む
厨房を出た私は慎重に車椅子を進めた。
膝の上のトレイにはティーカップが2つ
並んでいた。
静まり返った廊下の光景は
ここへ来た時とまったく変わっていなかった。
今が昼なのか夜なのか、
それとも夜が明けたのか。
窓のない1階ではその判断は困難だった。
応接室の前で
私は大きく息を吸ってから
ゆっくりと息を吐き出した。
心がだいぶ落ち着いた・・気がした。
私はそっとドアを開けた。
ソファーに体を沈めて
天井を見上げていた男が
体を起こして前屈みになった。
それからやや大袈裟にテーブルに肘をつくと
頭を抱えた。
「ハーブティーを淹れてきました・・」
そう言いながら
私はカップをテーブルに並べた。
男がカップを手に取ると
香ばしい香りがふんわりと漂ってきた。
それは草花のような、
強いて言えば
暖かな春の日差しのような匂いだった。
「これは・・?」
男がカップに鼻を近づけて
ヒクヒクとその香りを嗅いでいた。
「ダリアです。
ダリアの香りは
ドーパミンやセロトニンなどの
神経伝達物質の分泌を促進する
と言われています。
そしてそれらは脳を活性化し、
集中力や思考力を高める効果があるそうです」
男は口をつけずにそっとカップを置いた。
「・・彼女・・菅野さんが。
六条さん殺しを告白した後、
僕達は2人で牢屋を出ようとしたんだ。
その時。
突然、彼女が襲ってきて・・。
それで仕方なく・・」
そう言って男はふたたび頭を抱えた。
男は精神的に
かなり追い込まれているようだった。
ひどく疲弊しているように見えた。
2人の人間を殺したという事実が
男の心に重く圧し掛かっているに違いない。
「・・大丈夫・・ですか・・?」
私はできるだけ優しく言葉をかけた。
「う、うん・・」
男の声は僅かに震えていた。
応接室の柱時計が
チッチッチッと時を刻んでいた。
「髪が・・」
その時、
私は男の髪が濡れていることに気付いた。
「えっ?」
男が顔を上げた。
「・・こ、これはね。
返り血で汚れたから・・ね。
シャワーを浴びたんだ」
そして男は体を震わせた。
膝の上のトレイにはティーカップが2つ
並んでいた。
静まり返った廊下の光景は
ここへ来た時とまったく変わっていなかった。
今が昼なのか夜なのか、
それとも夜が明けたのか。
窓のない1階ではその判断は困難だった。
応接室の前で
私は大きく息を吸ってから
ゆっくりと息を吐き出した。
心がだいぶ落ち着いた・・気がした。
私はそっとドアを開けた。
ソファーに体を沈めて
天井を見上げていた男が
体を起こして前屈みになった。
それからやや大袈裟にテーブルに肘をつくと
頭を抱えた。
「ハーブティーを淹れてきました・・」
そう言いながら
私はカップをテーブルに並べた。
男がカップを手に取ると
香ばしい香りがふんわりと漂ってきた。
それは草花のような、
強いて言えば
暖かな春の日差しのような匂いだった。
「これは・・?」
男がカップに鼻を近づけて
ヒクヒクとその香りを嗅いでいた。
「ダリアです。
ダリアの香りは
ドーパミンやセロトニンなどの
神経伝達物質の分泌を促進する
と言われています。
そしてそれらは脳を活性化し、
集中力や思考力を高める効果があるそうです」
男は口をつけずにそっとカップを置いた。
「・・彼女・・菅野さんが。
六条さん殺しを告白した後、
僕達は2人で牢屋を出ようとしたんだ。
その時。
突然、彼女が襲ってきて・・。
それで仕方なく・・」
そう言って男はふたたび頭を抱えた。
男は精神的に
かなり追い込まれているようだった。
ひどく疲弊しているように見えた。
2人の人間を殺したという事実が
男の心に重く圧し掛かっているに違いない。
「・・大丈夫・・ですか・・?」
私はできるだけ優しく言葉をかけた。
「う、うん・・」
男の声は僅かに震えていた。
応接室の柱時計が
チッチッチッと時を刻んでいた。
「髪が・・」
その時、
私は男の髪が濡れていることに気付いた。
「えっ?」
男が顔を上げた。
「・・こ、これはね。
返り血で汚れたから・・ね。
シャワーを浴びたんだ」
そして男は体を震わせた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。



クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる