104 / 117
楽章間
第104話 狼
しおりを挟む
廊下を歩きながら
僕は左手に持った小さなトートバッグから
はみ出ている包丁の柄へ目を落とした。
それは
カードを引いた後、
男装の麗人から手渡された支給品だった。
「ゲームで使うことがあるかもしれません」
彼女は無表情でそう言った。
僕は訳がわからないまま
その物騒な支給品をバッグに突っ込んだ。
廊下の突き当りに階段があった。
僕はその階段を上った。
廊下が真っ直ぐ伸びていた。
その廊下の右側にドアが並んでいた。
それぞれのドアの対面の壁には
大きな窓があった。
部屋の数と同じで窓も5つ。
窓から射し込む陽光で
2階の廊下は1階に比べて明るかった。
僕は廊下を奥へと進んだ。
静かだった。
物音一つ聞こえなかった。
男装の麗人は
招待客が何人なのか言わなかったが、
僕も敢えて聞かなかった。
変に勘繰られて
僕が『鈴木洋』ではないことが
バレると面倒なことになると考えたからだ。
兎に角。
しばらくの間。
ここに身を隠しておくことに決めた。
朝臣市の山奥。
周囲には人家もない。
これほど身を隠すのに適した場所は無い。
僕は何気なく一番奥の部屋のドアを開けた。
部屋の奥に立っていた男が振り向いた。
「な、何だよ、ノックくらいしろよ」
男の表情には驚きが広がっていたが、
それは僕も同じだった。
てっきり招待客は全員応接室に集まっている
と思っていたのだが。
「お前も参加者か?
・・にしては。
随分と大人しそうな顔をしてるな。
ま、どうでもいいけどよ。
俺はこの部屋を使わせてもらうぞ、
文句はねえよな?」
男に近づきながら僕は頷いた。
「で。
何人集まってるんだ?」
僕は無言で首を振った。
「何だよ、まだ誰も来てねえのか?
俺としては門の所にいた女でいいんだがな。
で、お前はどんな女が好みなんだ?」
男はニタァと口元を歪めると
「ひっひっひ」
と下卑た笑い声をあげた。
男との距離が2メートルまで迫ったところで
僕は足をとめた。
「何だ?
ノリの悪ぃ奴だな」
男が煙草を咥えた。
そして。
火を点けようと視線をそらしたその瞬間、
僕は男との距離を一気に詰めた。
左手のバッグから包丁を取り出すと、
刃を横に倒して男の心臓目掛けて突き刺した。
「ぐぶぉ、お・・おい・・」
男の目が大きく見開かれて
その口から呻き声が漏れた。
男の左手が僕の肩を掴んだ。
僕は体重をかけて
さらに包丁を男の体の奥へと刺しこんだ。
男が苦悶の表情で後ずさりして、
そのままベッドの上に倒れ込んだ。
僕は両手で包丁の柄を持ったまま
男の体に圧し掛かった。
徐々に
男の体から力が抜けていくのがわかった。
僕は立ちあがって男を見下ろした。
男の目は真っ直ぐ天井を見ていたが、
その輝きは失われていた。
男の胸元に突き立っている包丁を
引き抜こうか迷ったが、
僕はそのままにして洗面所に入った。
右手に付いた僅かな返り血を綺麗に洗った。
それから鏡に映った自分の体を隅々まで観察して
服に目立った汚れがないことを確認した。
いきなり殺したのは拙かったか。
ある程度の情報を聞き出してから
殺すべきだったか。
せめてこの集まりの目的とその人数くらいは。
僕は乱れた服を整えてから部屋を出た。
僕は左手に持った小さなトートバッグから
はみ出ている包丁の柄へ目を落とした。
それは
カードを引いた後、
男装の麗人から手渡された支給品だった。
「ゲームで使うことがあるかもしれません」
彼女は無表情でそう言った。
僕は訳がわからないまま
その物騒な支給品をバッグに突っ込んだ。
廊下の突き当りに階段があった。
僕はその階段を上った。
廊下が真っ直ぐ伸びていた。
その廊下の右側にドアが並んでいた。
それぞれのドアの対面の壁には
大きな窓があった。
部屋の数と同じで窓も5つ。
窓から射し込む陽光で
2階の廊下は1階に比べて明るかった。
僕は廊下を奥へと進んだ。
静かだった。
物音一つ聞こえなかった。
男装の麗人は
招待客が何人なのか言わなかったが、
僕も敢えて聞かなかった。
変に勘繰られて
僕が『鈴木洋』ではないことが
バレると面倒なことになると考えたからだ。
兎に角。
しばらくの間。
ここに身を隠しておくことに決めた。
朝臣市の山奥。
周囲には人家もない。
これほど身を隠すのに適した場所は無い。
僕は何気なく一番奥の部屋のドアを開けた。
部屋の奥に立っていた男が振り向いた。
「な、何だよ、ノックくらいしろよ」
男の表情には驚きが広がっていたが、
それは僕も同じだった。
てっきり招待客は全員応接室に集まっている
と思っていたのだが。
「お前も参加者か?
・・にしては。
随分と大人しそうな顔をしてるな。
ま、どうでもいいけどよ。
俺はこの部屋を使わせてもらうぞ、
文句はねえよな?」
男に近づきながら僕は頷いた。
「で。
何人集まってるんだ?」
僕は無言で首を振った。
「何だよ、まだ誰も来てねえのか?
俺としては門の所にいた女でいいんだがな。
で、お前はどんな女が好みなんだ?」
男はニタァと口元を歪めると
「ひっひっひ」
と下卑た笑い声をあげた。
男との距離が2メートルまで迫ったところで
僕は足をとめた。
「何だ?
ノリの悪ぃ奴だな」
男が煙草を咥えた。
そして。
火を点けようと視線をそらしたその瞬間、
僕は男との距離を一気に詰めた。
左手のバッグから包丁を取り出すと、
刃を横に倒して男の心臓目掛けて突き刺した。
「ぐぶぉ、お・・おい・・」
男の目が大きく見開かれて
その口から呻き声が漏れた。
男の左手が僕の肩を掴んだ。
僕は体重をかけて
さらに包丁を男の体の奥へと刺しこんだ。
男が苦悶の表情で後ずさりして、
そのままベッドの上に倒れ込んだ。
僕は両手で包丁の柄を持ったまま
男の体に圧し掛かった。
徐々に
男の体から力が抜けていくのがわかった。
僕は立ちあがって男を見下ろした。
男の目は真っ直ぐ天井を見ていたが、
その輝きは失われていた。
男の胸元に突き立っている包丁を
引き抜こうか迷ったが、
僕はそのままにして洗面所に入った。
右手に付いた僅かな返り血を綺麗に洗った。
それから鏡に映った自分の体を隅々まで観察して
服に目立った汚れがないことを確認した。
いきなり殺したのは拙かったか。
ある程度の情報を聞き出してから
殺すべきだったか。
せめてこの集まりの目的とその人数くらいは。
僕は乱れた服を整えてから部屋を出た。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。



クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる