残春はさ迷える子羊達のコンチェルト

第13楽章

第85話 3枚のカード

遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。

僕は冷蔵庫からジンジャーエールの瓶を出して
西岡の前に置いた。
「グラスは？」
「必要ない」
そう言うと西岡は直接瓶に口をつけて、
ごくごくと流し込んだ。


「・・私の考えは違います」
その時、
不意に茜が口を開いた。
「鈴木さん、
　お手数ですがそこにある『クラブの2』を
　こちらに持ってきてもらえませんか？」
「う、うん」
僕は『クラブの2』を
茜の前の小さな丸いテーブルに運んだ。
「ありがとうございます。
　それと。
　鈴木さんの『クラブの6』も貸して下さい」
「えっ？」
茜の意図がわからなかったが、
僕は言われるがままに
『クラブの2』の隣に『クラブの6』を置いた。

茜は2枚のカードを手に取ると、
先ほど六条の部屋で拾っていた『クラブの8』を
重ね合わせた。
「やっぱり・・」
そして茜はぽつりと呟いた。
「やっぱり？」
僕が首を傾げると彼女は大きく頷いた。
「恐らく。
　【犯人】は六条さんです」
「へっ！」
予想外の言葉に、
図らずも間の抜けた声が出た。
「証拠はこれです」
そう言って茜は3枚のカードを掲げた。
僕は意味がわからずに首を傾げた。
「このカードですが。
　『クラブの2』と『クラブの6』は
　ブリッジサイズですが、
　『クラブの8』はポーカーサイズです。
　つまり。
　六条さんのカードは偽物です」