66 / 117
第10楽章
第66話 松平の推理①
しおりを挟む
「『スペードの2』が【犯人】という
お嬢ちゃんの推理は正しい」
そう言って松平はジャケットの内ポケットから
葉巻を取り出した。
「はっ、馬鹿馬鹿しい。
それならアタシは【犯人】じゃないわね。
アタシは『クラブの4』だから」
菅野はグラスに残った酒を飲み干すと
「ふぅぅ」と溜息を吐いた。
松平はそんな菅野にチラリと視線を投げてから
改めて口を開いた。
「嘘吐きの言葉は信用できんな。
お前さん、本当は何歳だ?」
僅かに菅野の顔色が変わった。
「女狐が随分うまく化けたが、
20代を騙るのはさすがに無理があるなぁ。
わっはっは」
松平が大きく口を開けて笑った。
「お代わり!」
菅野は顔を真っ赤にすると
グラスをドンッと置いた。
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「最初に六条が『クラブの8』を出した。
あの時点で
儂は犯人のカードが『スペードの2』だと
わかっていた。
これは当然のことだろう。
ゲームのルールには
”すべてのカードの数字は連続している。
同じ役職のカードについても同様である”
と書かれていたからのぅ。
儂の数字がAである以上、
最大の数字は8であることは必然。
とすれば【市民】の数字は3~8の6つ。
つまり残った数字の2が【犯人】のカードだ。
一方、
【犯人】にも同じような推理が可能だが
【犯人】には【探偵】のカードが
Aなのかそれとも3なのかもしくは9なのか
わからないということだ」
そこまで話すと
松平は葉巻を咥えてゆっくりと火を点けた。
「続いて平原が『クラブの5』を宣言した。
そして西岡が『クラブの3』を宣言したことで
【市民】のカードが
3~8であることが判明する。
蛇足だが。
この時点で【犯人】は【探偵】のカードが
Aか9のどちらかだとわかる。
一方【市民】は
【犯人】と【探偵】の数字に関しては
Aと2。2と9。9と10。
この3つのパターンがあって絞り込めない」
松平はパッパと葉巻を吸って
「ふぅぅ」と煙を吐き出した。
僕はそっと菅野の前にグラスを置いた。
「それを踏まえて。
『クラブの3』が宣言された時点で、
まだ数字を公表していなかったのは
菅野、鈴木、塚本、死んだ郷田、そして儂」
松平はそこでふたたび口を閉じて
皆の顔を見回した。
そしてその視線が茜を捉えると
徐に口を開いた。
「ここで【犯人】は考えた。
騙るなら今しかないと。
初めに六条がカードを見せて以降、
2人続けてカードを破棄していたことも
【犯人】が騙るきっかけとなった。
おそらく他の者も
カードは破棄しているはずだと。
空いている【市民】の数字は4.6.7の3つ。
敢えて平原と西岡の数字に
被せてもよかったが
それをするなら死んだ郷田の数字を
引き当てる博打をした方が
分が良いと判断したんだろう。
それにこの後、
もし数字が誰かと被った場合でも、
先に宣言した方が
周囲への心証が良いと考えたのか?」
松平の視線に耐え切れなくなったのか、
茜はやや怯えたように俯いた。
松平は視線を茜から菅野に移した。
菅野はカウンターに背を預けて
グラスを揺らしていた。
「そしてそこの女狐は『クラブの4』を騙った。
結果、数字が被っている者は現れず、
見事博打に勝ったんだ。
つまり。
『クラブの4』は死んだ郷田の数字だった。
その女狐のカードは『スペードの2』だ」
松平は勝ち誇ったようにそう言うと
ビリヤード台の横の小さなテーブルの上にある
ガラスの灰皿で葉巻の火を消した。
お嬢ちゃんの推理は正しい」
そう言って松平はジャケットの内ポケットから
葉巻を取り出した。
「はっ、馬鹿馬鹿しい。
それならアタシは【犯人】じゃないわね。
アタシは『クラブの4』だから」
菅野はグラスに残った酒を飲み干すと
「ふぅぅ」と溜息を吐いた。
松平はそんな菅野にチラリと視線を投げてから
改めて口を開いた。
「嘘吐きの言葉は信用できんな。
お前さん、本当は何歳だ?」
僅かに菅野の顔色が変わった。
「女狐が随分うまく化けたが、
20代を騙るのはさすがに無理があるなぁ。
わっはっは」
松平が大きく口を開けて笑った。
「お代わり!」
菅野は顔を真っ赤にすると
グラスをドンッと置いた。
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「最初に六条が『クラブの8』を出した。
あの時点で
儂は犯人のカードが『スペードの2』だと
わかっていた。
これは当然のことだろう。
ゲームのルールには
”すべてのカードの数字は連続している。
同じ役職のカードについても同様である”
と書かれていたからのぅ。
儂の数字がAである以上、
最大の数字は8であることは必然。
とすれば【市民】の数字は3~8の6つ。
つまり残った数字の2が【犯人】のカードだ。
一方、
【犯人】にも同じような推理が可能だが
【犯人】には【探偵】のカードが
Aなのかそれとも3なのかもしくは9なのか
わからないということだ」
そこまで話すと
松平は葉巻を咥えてゆっくりと火を点けた。
「続いて平原が『クラブの5』を宣言した。
そして西岡が『クラブの3』を宣言したことで
【市民】のカードが
3~8であることが判明する。
蛇足だが。
この時点で【犯人】は【探偵】のカードが
Aか9のどちらかだとわかる。
一方【市民】は
【犯人】と【探偵】の数字に関しては
Aと2。2と9。9と10。
この3つのパターンがあって絞り込めない」
松平はパッパと葉巻を吸って
「ふぅぅ」と煙を吐き出した。
僕はそっと菅野の前にグラスを置いた。
「それを踏まえて。
『クラブの3』が宣言された時点で、
まだ数字を公表していなかったのは
菅野、鈴木、塚本、死んだ郷田、そして儂」
松平はそこでふたたび口を閉じて
皆の顔を見回した。
そしてその視線が茜を捉えると
徐に口を開いた。
「ここで【犯人】は考えた。
騙るなら今しかないと。
初めに六条がカードを見せて以降、
2人続けてカードを破棄していたことも
【犯人】が騙るきっかけとなった。
おそらく他の者も
カードは破棄しているはずだと。
空いている【市民】の数字は4.6.7の3つ。
敢えて平原と西岡の数字に
被せてもよかったが
それをするなら死んだ郷田の数字を
引き当てる博打をした方が
分が良いと判断したんだろう。
それにこの後、
もし数字が誰かと被った場合でも、
先に宣言した方が
周囲への心証が良いと考えたのか?」
松平の視線に耐え切れなくなったのか、
茜はやや怯えたように俯いた。
松平は視線を茜から菅野に移した。
菅野はカウンターに背を預けて
グラスを揺らしていた。
「そしてそこの女狐は『クラブの4』を騙った。
結果、数字が被っている者は現れず、
見事博打に勝ったんだ。
つまり。
『クラブの4』は死んだ郷田の数字だった。
その女狐のカードは『スペードの2』だ」
松平は勝ち誇ったようにそう言うと
ビリヤード台の横の小さなテーブルの上にある
ガラスの灰皿で葉巻の火を消した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。



クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる