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五章 神無月
十月十八日(火曜日)5
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雨脚が強くなり、
それと共に窓ガラスを叩く音も大きくなった。
男は時折チラチラと女の様子を窺っていた。
女はテレビに目を向けたまま、
男が淹れなおした紅茶の香りを楽しんでいた。
「八木についてなんですが、
目さんからの情報だと、
彼は女性恐怖症だったようです。
女性と面と向かって会話をすることすら
ままならなかったとか。
あれほどのイケメンなのに勿体ないですよね」
女はすでに男の話に興味を失っていた。
その時、男が何かを思い出したように手を叩いた。
驚いた女が男の方を睨んだ。
「そうそう、忘れてました!
さっき目さんから動画が送られてきたんですよ。
八木が安倍を殺そうとした場面を
大烏が撮影していたそうです」
「え?
そんな映像があるなら早く言いなさいよ」
男は「すみません」と謝って部屋から出ていった。
しばらくすると男はタブレットを持って
戻ってきた。
「画面は大きいほうがいいでしょうから、
これで見られるようにしています」
そう言って男はタブレットを女に渡した。
動画は暗闇の中、
一人の男がうつ伏せになった全裸の女の体を
弄ぶところから始まっていた。
時折男の顔がアップになり、
男の興奮が画面からはっきりと伝わってきた。
男はしばらくの間、
女の体を愛撫していた。
それから膝立ちになった男が
突然自分の下着を下ろした。
固くなった男のモノが夜空に向かって
屹立していた。
男はその大きく屹立したモノを
右手で力強く握りしめた。
そして男の手がゆっくりと動き始めた。
ふたたび男の顔がアップになった。
激しい息遣いが聞こえてきそうだった。
カメラが引いて広く全体を捉えた。
男の手の動きが一段と速くなっていることは
その体の振動から判断できた。
不意に男が絶頂に達したのがわかった。
同時に男の欲望が女の体へ解き放たれた。
男は放心状態だった。
そこで映像が切れた。
「どうですか?
これを見る限り、
先ほどの実果さんの推理は
間違いということになりませんか?」
部屋にはテレビの雑音と
窓を叩く雨音がBGMとして流れていた。
女は画面に目を落としたまま首を傾げた。
「ねえ?
これってどういうこと?」
「この映像からもわかるように、
八木は女性と普通に
性交渉ができなかったらしいですよ。
過去の暴行事件でも、
八木は意識を失った女性達を全裸にして
自慰行為に耽っていたようです。
二件の殺人事件の死体に絞殺の跡以外、
乱暴された形跡がなかったのは
こういうことだったんですね」
女はもう一度動画を初めから再生した。
男はそんな女の様子を紅茶を片手に眺めていた。
三度目の再生が終わると
女は映像を止めて男に話しかけた。
「ねえ。
この映像、ここで終わってるけど、
この後で八木明人が彼女を殺そうとしたのよね?」
「そうらしいですね。
そこで危険と判断した大烏が飛び出して、
取り押さえたと聞いています」
「でも。
この映像からは、
危険と判断したという行動が
どこなのかわからないんだけど?
そもそも全裸にしてる段階で
助けるべきなんじゃないの?
この段階まで我慢したのなら、
せめて八木明人が
彼女の首に手をかけるところまでを
映像に残さないと意味がないでしょう?」
「それはたしかにそうですけど・・。
ですが万が一にも遅れたら
被害者の命に関わりますからね。
結果として彼女は助かったわけですから、
大烏の行動は適切だったのではないでしょうか」
男の答えに女は不満げに頬を膨らませた。
「ふーん。
随分と都合のいい解釈ね。
それと。
この映像おかしいわよ。
たしか、八木明人が逮捕された場所って
野分岬だったわよね?」
「それが何か?」
男は首を傾げた。
女はカップをテーブルに置くと
窓の方へ目を向けた。
男も釣られて視線を移した。
窓の外は雨脚が弱くなったこと以外には
特に変わった様子はなかった。
それと共に窓ガラスを叩く音も大きくなった。
男は時折チラチラと女の様子を窺っていた。
女はテレビに目を向けたまま、
男が淹れなおした紅茶の香りを楽しんでいた。
「八木についてなんですが、
目さんからの情報だと、
彼は女性恐怖症だったようです。
女性と面と向かって会話をすることすら
ままならなかったとか。
あれほどのイケメンなのに勿体ないですよね」
女はすでに男の話に興味を失っていた。
その時、男が何かを思い出したように手を叩いた。
驚いた女が男の方を睨んだ。
「そうそう、忘れてました!
さっき目さんから動画が送られてきたんですよ。
八木が安倍を殺そうとした場面を
大烏が撮影していたそうです」
「え?
そんな映像があるなら早く言いなさいよ」
男は「すみません」と謝って部屋から出ていった。
しばらくすると男はタブレットを持って
戻ってきた。
「画面は大きいほうがいいでしょうから、
これで見られるようにしています」
そう言って男はタブレットを女に渡した。
動画は暗闇の中、
一人の男がうつ伏せになった全裸の女の体を
弄ぶところから始まっていた。
時折男の顔がアップになり、
男の興奮が画面からはっきりと伝わってきた。
男はしばらくの間、
女の体を愛撫していた。
それから膝立ちになった男が
突然自分の下着を下ろした。
固くなった男のモノが夜空に向かって
屹立していた。
男はその大きく屹立したモノを
右手で力強く握りしめた。
そして男の手がゆっくりと動き始めた。
ふたたび男の顔がアップになった。
激しい息遣いが聞こえてきそうだった。
カメラが引いて広く全体を捉えた。
男の手の動きが一段と速くなっていることは
その体の振動から判断できた。
不意に男が絶頂に達したのがわかった。
同時に男の欲望が女の体へ解き放たれた。
男は放心状態だった。
そこで映像が切れた。
「どうですか?
これを見る限り、
先ほどの実果さんの推理は
間違いということになりませんか?」
部屋にはテレビの雑音と
窓を叩く雨音がBGMとして流れていた。
女は画面に目を落としたまま首を傾げた。
「ねえ?
これってどういうこと?」
「この映像からもわかるように、
八木は女性と普通に
性交渉ができなかったらしいですよ。
過去の暴行事件でも、
八木は意識を失った女性達を全裸にして
自慰行為に耽っていたようです。
二件の殺人事件の死体に絞殺の跡以外、
乱暴された形跡がなかったのは
こういうことだったんですね」
女はもう一度動画を初めから再生した。
男はそんな女の様子を紅茶を片手に眺めていた。
三度目の再生が終わると
女は映像を止めて男に話しかけた。
「ねえ。
この映像、ここで終わってるけど、
この後で八木明人が彼女を殺そうとしたのよね?」
「そうらしいですね。
そこで危険と判断した大烏が飛び出して、
取り押さえたと聞いています」
「でも。
この映像からは、
危険と判断したという行動が
どこなのかわからないんだけど?
そもそも全裸にしてる段階で
助けるべきなんじゃないの?
この段階まで我慢したのなら、
せめて八木明人が
彼女の首に手をかけるところまでを
映像に残さないと意味がないでしょう?」
「それはたしかにそうですけど・・。
ですが万が一にも遅れたら
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結果として彼女は助かったわけですから、
大烏の行動は適切だったのではないでしょうか」
男の答えに女は不満げに頬を膨らませた。
「ふーん。
随分と都合のいい解釈ね。
それと。
この映像おかしいわよ。
たしか、八木明人が逮捕された場所って
野分岬だったわよね?」
「それが何か?」
男は首を傾げた。
女はカップをテーブルに置くと
窓の方へ目を向けた。
男も釣られて視線を移した。
窓の外は雨脚が弱くなったこと以外には
特に変わった様子はなかった。
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