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五章 神無月
十月十八日(火曜日)2
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「そう言えば、
八木は過去の暴行については
犯行を認めているようですが、
殺人に関しては容疑を否認しているらしいです。
しかし被害者達と接点があったことが
八木にとっては致命的ですね。
ニュースでも言われていたように、
先日の殺人未遂事件の被害女性は
八木の顧客です。
そして殺人事件の二件目の被害者である
女子高校生は、
八木の自宅近くのコンビニで
アルバイトをしていました。
これは目さんから聞いたんですが、
被害者の女子高校生は
同じアルバイトの同級生に、
八木は自分に気があると話していたそうです」
「へえ」
女は微かに男の話に興味を示した。
「そして彼女の方も満更でもなかったようで、
八木が店に来る度に
彼を執拗に見つめていたそうです。
一方、一件目の殺人事件の被害者と
八木の接点についてはまだ不明です」
そこまで話すと男はカップをテーブルに置いた。
「それにしても今回は、
この大烏という探偵のお手柄ですね。
不破警部と目さんが現場に駆けつけたら、
彼の手によって
八木は拘束されていたそうですよ」
「ふーん」
女が気のない返事をした。
「実果さんが納得できない気持ちも
わかりますけどね。
たしかこの八木という男。
ここに来た時は
ストーカー被害の相談でしたよね。
殺人犯がわざわざそんな依頼をしに
ここに来るでしょうか?
おまけにストーカーの正体すらわからない
と言ってました。
あれは全部作り話だったんでしょうか?」
男はテレビに目を向けたまま女に語りかけた。
女は黙ってカップを手に取った。
「そうね。
殺人犯が探偵を頼るっておかしな話よね。
それにストーカー被害が本当なら、
正体のわからないストーカーに
付け回されている状況で
殺人という行為に及ぶかしら?
ストーカー被害が作り話なのか、
それともそっちが事実で
殺人犯というのが冤罪なのか」
「つまりストーカー被害が嘘ならば
八木は殺人犯で、
そうなるとここに来る必要がないと。
逆にストーカー被害が本当ならば
ここに依頼に来るのも頷けるし、
この場合は当然ながら八木は殺人犯ではないと。
そういうことですか?」
女はゆっくりと紅茶を一口啜った。
そしてカップをテーブルに置くと腕を組んだ。
「八木明人はここを訪ねてきた。
それは紛れもない事実」
「つまり。
八木明人はストーカー被害には
遭っていたということですか?」
男が小さく首を傾げた。
「そう。
でも八木明人がここで語ったすべてが
事実とは限らない。
何が嘘で何が事実なのか。
少なくともストーカー被害は事実。
だって相談内容が嘘なら
初めからここに来る意味がないもの」
「そういえば目さんからの情報ですが、
八木は大烏に
ストーカー調査の依頼をしていた
と主張しているらしいです」
女は男の方をチラリと見た。
「勿論これに関しては大烏は否定しています。
大烏は安倍のストーカー被害の相談に
乗っていたと。
彼女のストーカーが八木だと主張しています。
つまり八木と大烏、
二人の主張は真っ向から対立しています」
女はふたたびカップを手に取った。
「ちなみに安倍というのは、
今回の殺人未遂事件の被害者の女性です。
安倍瑠璃。
五十二歳。
すごく綺麗な人ですよ。
とても五十代には見えません。
せいぜい三十歳くらいじゃないでしょうか。
テレビでも顔写真が公開されていましたよ。
珍しいですよね。
事件の被害者の顔写真が公開されるなんて。
まあ本人が認めているのなら
いいんでしょうけど。
こうして顔写真が出ることによって、
また変な男に狙われなければいいですけどね。
美人すぎるのも大変ですね」
「ふーん。
美人のことになるとよく喋るわね」
女は男に鋭い眼差しを向けた。
「な、何を言ってるんですか!
か、勘違いしないで下さいよ!
と、とにかく八木は、
大烏にストーカー被害の相談をしていたと
主張しているそうです」
男はそう早口で喋ると
コンコンと二度ほど大袈裟に咳をした。
「ふーん。
八木明人がここに来た理由もストーカー被害。
でも結局、
八木明人は胡散臭い探偵に依頼したわけね。
えっと名前は・・」
「大烏亜門です」
「もし八木明人が初めから大烏亜門に
依頼していたのなら、
ここに来る必要はないはずよね?
つまり時系列では
八木明人はここに来た後で、
大烏亜門に依頼したことになるわね」
「それが何か?」
男は女の言葉の意図がわからず首を傾げた。
「八木明人は
人を見る目がないということがわかるわ」
そう言って女は紅茶を啜った。
八木は過去の暴行については
犯行を認めているようですが、
殺人に関しては容疑を否認しているらしいです。
しかし被害者達と接点があったことが
八木にとっては致命的ですね。
ニュースでも言われていたように、
先日の殺人未遂事件の被害女性は
八木の顧客です。
そして殺人事件の二件目の被害者である
女子高校生は、
八木の自宅近くのコンビニで
アルバイトをしていました。
これは目さんから聞いたんですが、
被害者の女子高校生は
同じアルバイトの同級生に、
八木は自分に気があると話していたそうです」
「へえ」
女は微かに男の話に興味を示した。
「そして彼女の方も満更でもなかったようで、
八木が店に来る度に
彼を執拗に見つめていたそうです。
一方、一件目の殺人事件の被害者と
八木の接点についてはまだ不明です」
そこまで話すと男はカップをテーブルに置いた。
「それにしても今回は、
この大烏という探偵のお手柄ですね。
不破警部と目さんが現場に駆けつけたら、
彼の手によって
八木は拘束されていたそうですよ」
「ふーん」
女が気のない返事をした。
「実果さんが納得できない気持ちも
わかりますけどね。
たしかこの八木という男。
ここに来た時は
ストーカー被害の相談でしたよね。
殺人犯がわざわざそんな依頼をしに
ここに来るでしょうか?
おまけにストーカーの正体すらわからない
と言ってました。
あれは全部作り話だったんでしょうか?」
男はテレビに目を向けたまま女に語りかけた。
女は黙ってカップを手に取った。
「そうね。
殺人犯が探偵を頼るっておかしな話よね。
それにストーカー被害が本当なら、
正体のわからないストーカーに
付け回されている状況で
殺人という行為に及ぶかしら?
ストーカー被害が作り話なのか、
それともそっちが事実で
殺人犯というのが冤罪なのか」
「つまりストーカー被害が嘘ならば
八木は殺人犯で、
そうなるとここに来る必要がないと。
逆にストーカー被害が本当ならば
ここに依頼に来るのも頷けるし、
この場合は当然ながら八木は殺人犯ではないと。
そういうことですか?」
女はゆっくりと紅茶を一口啜った。
そしてカップをテーブルに置くと腕を組んだ。
「八木明人はここを訪ねてきた。
それは紛れもない事実」
「つまり。
八木明人はストーカー被害には
遭っていたということですか?」
男が小さく首を傾げた。
「そう。
でも八木明人がここで語ったすべてが
事実とは限らない。
何が嘘で何が事実なのか。
少なくともストーカー被害は事実。
だって相談内容が嘘なら
初めからここに来る意味がないもの」
「そういえば目さんからの情報ですが、
八木は大烏に
ストーカー調査の依頼をしていた
と主張しているらしいです」
女は男の方をチラリと見た。
「勿論これに関しては大烏は否定しています。
大烏は安倍のストーカー被害の相談に
乗っていたと。
彼女のストーカーが八木だと主張しています。
つまり八木と大烏、
二人の主張は真っ向から対立しています」
女はふたたびカップを手に取った。
「ちなみに安倍というのは、
今回の殺人未遂事件の被害者の女性です。
安倍瑠璃。
五十二歳。
すごく綺麗な人ですよ。
とても五十代には見えません。
せいぜい三十歳くらいじゃないでしょうか。
テレビでも顔写真が公開されていましたよ。
珍しいですよね。
事件の被害者の顔写真が公開されるなんて。
まあ本人が認めているのなら
いいんでしょうけど。
こうして顔写真が出ることによって、
また変な男に狙われなければいいですけどね。
美人すぎるのも大変ですね」
「ふーん。
美人のことになるとよく喋るわね」
女は男に鋭い眼差しを向けた。
「な、何を言ってるんですか!
か、勘違いしないで下さいよ!
と、とにかく八木は、
大烏にストーカー被害の相談をしていたと
主張しているそうです」
男はそう早口で喋ると
コンコンと二度ほど大袈裟に咳をした。
「ふーん。
八木明人がここに来た理由もストーカー被害。
でも結局、
八木明人は胡散臭い探偵に依頼したわけね。
えっと名前は・・」
「大烏亜門です」
「もし八木明人が初めから大烏亜門に
依頼していたのなら、
ここに来る必要はないはずよね?
つまり時系列では
八木明人はここに来た後で、
大烏亜門に依頼したことになるわね」
「それが何か?」
男は女の言葉の意図がわからず首を傾げた。
「八木明人は
人を見る目がないということがわかるわ」
そう言って女は紅茶を啜った。
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