ストーカー

Mr.M

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四章 神無月

十月五日(水曜日)

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この日、店の営業が終わってから
僕は大烏に電話をかけた。
大烏は大丈夫と言っていたが、
それでも一応、
盗聴を警戒して僕は外に出た。

二度目のコール音の後で大烏に通話が繋がった。
僕は前回の安倍瑠璃の来店日から考えて、
今月の予約は十日以降ではないかという予想と、
連れ去る場所は野分岬がいいのではないか、
ということを伝えた。
「ふむ。
 いいだろう。
 野分岬とは良い場所に目を付けたね。
 あそこは前に事件があった場所だからね。
 暗くなれば人もいないだろう」
大烏が問題ないと言うのであれば大丈夫だろう。
「あとは彼女からの連絡次第だが、
 こちらから営業の電話をかけてはどうかね?」
「それは・・。
 さすがに不自然だと思います。
 これまでもこちらから連絡をしたことは
 ありませんし・・」
「ふむ。
 『鳴くまで待とう時鳥』か」

そこで僕は昨日もしほから聞いた
警察の動向を大烏に話した。
「ふむ。
 それでその二人の刑事は、
 君のところへ聞き込みに来たのかね?」
「い、いえ・・。
 僕のところには来ていません」
少し間が空いた。
「・・それならば心配することはないだろう。
 その刑事たちは随分と勘が冴えているようだが、
 気にすることはない」
大烏は何を根拠にそう断言できるのだろうか。
「そもそも聞き込みの内容が漠然としすぎている。
 犯人を男か女かすら特定できてないような
 警察に君は何を脅えてるんだい?」
そういえばもしほの話の中では
怪しい人物という言葉だけで、
男か女かを限定していなかった。
ということは警察は、
犯人は女の可能性もあるとみて
捜査をしているのだろうか。

犯人は女。

そんなことがあるのだろうか。
たしかに初めの段階では
僕もそれを視野に入れていた。
しかし報道による「暴行」の二文字が、
僕の中から女という選択肢を
いつの間にか消してしまっていた。
当然「暴行」という言葉の意味は、
「性的暴行」のことを指していると考えていた。
しかし。
もしそれが、
女性の意識を奪ったことを
指しているだけだとしたら。

「どうしたのかね?大丈夫かい?」
大烏の言葉が耳に入ってきた。
「あっ、は、はい。
 すみません」
返事をしたものの
頭の中は靄がかかったように混沌としていた。


布団に入って眠りにつくほんの少し前、
一つの疑問が頭をかすめた。
大烏に言わせると今は盗聴はされていないという。
ならば。
犯人はどうやってこちらの行動を
把握しているのだろうか?
僕が安倍瑠璃を襲うことを
犯人はどうやって知るのだろうか。
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