ストーカー

Mr.M

文字の大きさ
上 下
69 / 128
三章 長月

九月十五日(木曜日)1

しおりを挟む
・犯人はいつでも僕を殺すことができる

そのことに考えが及んだ翌朝、
僕は急いで大烏に連絡した。
しかし僕の不安は大烏の
「心配ない」という一言で片付けられた。

それから僕は日々恐怖を感じながら
この一週間を過ごしてきた。

日中、仕事をしている間は気が紛れたが、
日が傾いて店を閉めてからが
憂鬱な時間の始まりだった。
盗聴されているという緊迫感から
自宅では落ち着かず仕事が終わると
「シュガー&ソルト」に駆け込む日々が
続いていた。
しかし一時的に逃げたとしても、
結局は自分の部屋に戻って
朝を迎えなければならなかった。
夜毎やってくる就寝時の暗闇が僕の恐怖心を煽り、
日々の睡眠を妨げた。
そして朝、
目を覚ましたとき、
僕はまだ生きているという実感から
安堵の溜息を漏らすのだった。

この一週間の間に、
僕にとって喜ばしくない報道があり、
それがますます僕を憂鬱にさせていた。
それは三日前の情報番組でのことだった。

メシモリがバイトをしていた
コンビニ店の関係者を名乗る人物が、
テレビの取材を受けていたのだった。
顔にはモザイクがかけられて
声も変えられていたが、
その人物がヒフミアザナであることは
すぐにわかった。

「彼女は店によく来る男性客に狙われている
 と話してました。
 そのことについて他のバイトの子に
 相談をしていたようです」
「その男性客はどんな人なんでしょうか?」
「それが。
 彼女が殺された日から
 ぱたりと姿を見せなくなりました。
 最近になって一度、
 来店されたときにレジで対応したのですが、
 私の視線に少し焦っていたように見えました」
そんなやり取りがあって
インタビューは終わっていた。
スタジオでは自称評論家を名乗る胡散臭い連中が、
「この男性客が怪しい」
などと好き勝手なことを言っていた。
時折中継される国会と同じレベルのやり取りが
繰り広げられていた。
小学生の学級会のほうがはるかに有意義な
話し合いだった。
しかし問題はそこではない。
もし警察がこの情報を元に
コンビニへ聞き込みに行ったとしたら、
僕の所へたどり着くのは時間の問題ではないか。
はたして警察はこういう低俗な情報番組を
手掛かりに捜査を進めるのだろうか。


午前の最後の客を送り出して一息ついていると、
突然大烏から電話がかかってきた。

そして大烏の都合で半ば強引に、
十五時に
「シュガー&ソルト」
で待ち合わせることになった。
しかし間の悪いことに
十五時からは尾形の予約が入っていた。

尾形剛

彼もまた
容疑者リストにその名を連ねていた人物だった。
僕は尾形に連絡して
急用が入ったことを伝え謝罪した。
今月は尾形の都合がつかず、
来月の十六日の十三時に
予約を入れることで解決した。
尾形には申し訳ないことをしたが、
今は何よりも大烏が最優先だった。

自宅に居ても息が詰まるので、
僕は早めに「シュガー&ソルト」へ向かった。
途中、
それとなく周囲に気を配っていたが
尾行の気配はなかった。

「シュガー&ソルト」の駐車場には
二台の車がとまっていた。
指定の時間までまだ一時間以上あった。
中に入るとテーブル席は三つが埋まっていたが、
カウンター席には誰もいなかった。
カウンターに座ると
もしほが「おかえりなさい」と小さく囁いた。
僕も「ただいま」と小声で返した。

コーヒーを飲んでいると、
いつしか店にいる客は僕だけになっていた。
マスターはカウンターで仕込みの作業を、
もしほはテーブル席の掃除をしていた。

大烏の突然の呼び出しは何だろう。
調査に進展があったのだろうか。
どちらにせよ
僕も大烏には色々と話したいことがあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

噂のギャンブラー

黒崎伸一郎
ミステリー
末期のギャンブル依存症に陥った男が一体どの様な方法で一流のプロのギャンブラーになっていくのか…? そして最強のプロとして生き続けることができるのか…? 比較的裕福な家庭で育った小比類巻海斗。 幼い頃からゲーム好きで高校を卒業してからもギャンブル漬けの毎日を送っていた。 海斗のギャンブル好きは余りにも度が過ぎて両親が汗水垂らして蓄えた財産をあっという間に使い果たしてしまう。 そして遂には末期のギャンブル依存症になり、すべてを失ってしまう。 どん底に落ちた海斗はそれでもギャンブルは辞められなかった。 いや、どうせ一度の人生だ。 自分の好きに生きてきたのだから最後までギャンブルをし続ける決心をする。 毎日懸命に仕事をして得る給料はしれていたが、それを全てギャンブルで失う。 食費を削ってもギャンブルをし続けた。 その海斗がふとしたきっかけで必勝法と思える方法を見出す。 末期のギャンブル依存症の海斗は本当にギャンブルに勝ち続けることができるのか…? ギャンブルに必勝法などないと思っている全てのギャンブルファンに公言する。 「ギャンブルは勝てる!」 現実にギャンブルで生活している人は存在する。 ただ圧倒的に負ける人が多いのが現状だ。 プロのギャンブラーになれ! ギャンブラーの中からミクロのパーセンテージの超一流のプロに…。 あなたはその事実に驚愕する…!!! その一部をここでお見せする!

天才マジシャンによる完全犯罪講義

渋川宙
キャラ文芸
イケメン天才マジシャンが仕掛ける犯罪マジック!? 世界的に有名なマジシャンである氷室青龍には、良からぬ噂がある。 それは完全犯罪の知恵を授けているというものだ。 追い掛ける刑事・金井雅人は毎回、煙に巻かれて腹を立てている。 そんな中、青龍が個人的なパーティーでマジックを披露するとの情報を掴み乗り込んだのだが、そこでまさかの殺人事件が発生してしまう! 犯人は青龍?それともパーティーの参加者?

例え、私が殺した事実に責任を感じようとも。

紅飴 有栖
ミステリー
私は死んだ両親の後を継いで、殺しの仕事をしつつ、嘘だらけの生活を送る。 こんな私が楽しんでいいのか、幸せになってもいいのか。そんな不安を毎日抱えながら。 これはそんな私の物語。

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

私の行く先々で事件が起こる件について

魔技者
ミステリー
小学5年生のアリサが買い物の後とあるホテルに泊まる事に。そこで事件が起こってしまう。それを解決するお話です。

7月は男子校の探偵少女

金時るるの
ミステリー
孤児院暮らしから一転、女であるにも関わらずなぜか全寮制の名門男子校に入学する事になったユーリ。 性別を隠しながらも初めての学園生活を満喫していたのもつかの間、とある出来事をきっかけに、ルームメイトに目を付けられて、厄介ごとを押し付けられる。 顔の塗りつぶされた肖像画。 完成しない彫刻作品。 ユーリが遭遇する謎の数々とその真相とは。 19世紀末。ヨーロッパのとある国を舞台にした日常系ミステリー。 (タイトルに※マークのついているエピソードは他キャラ視点です)

真理の扉を開き、真実を知る 

鏡子 (きょうこ)
ミステリー
隠し事は、もう出来ません。

怪談あつめ ― 怪奇譚 四十四物語 ―

ろうでい
ホラー
怖い話ってね、沢山あつめると、怖いことが起きるんだって。 それも、ただの怖い話じゃない。 アナタの近く、アナタの身の回り、そして……アナタ自身に起きたこと。 そういう怖い話を、四十四あつめると……とても怖いことが、起きるんだって。 ……そう。アナタは、それを望んでいるのね。 それならば、たくさんあつめてみて。 四十四の怪談。 それをあつめた時、きっとアナタの望みは、叶うから。

処理中です...