ストーカー

Mr.M

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三章 長月

九月七日(水曜日)1

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目が覚めると十二時を回っていた。
そしてすぐに盗聴の二文字が頭をよぎった。
僕はそれを振り払うようにシャワーを浴びた。

十五時になるのを待ってから僕は家を出た。
出る時、二度、戸締りを確認をした。


平日のこの時間、
「シュガー&ソルト」の店内は空席が目立った。

「昨日は大烏さんが
 長いことご迷惑をかけたようで
 すみませんでした」
僕はマスターに一言謝ってから
カウンター席に座った。
「いやいや。
 気を遣わせたのはこっちだよ。
 明人ちゃんからもお礼を言っておいてくれよ。
 美味しくいただきましたって」
何のことかわからず僕は首を傾げた。
「すっごい高価なお肉を戴いたのよ。
 有名なブランド牛なんだって」
テーブルの拭き掃除をしていたもしほが
マスターに代わって答えた。
あの大烏がそんな気遣いをしていたことに驚いた。

高級スーツに身を包み、
乗っている車はポルシェ。
何も知らない人間には紳士に見えるかもしれない。
人は外見や肩書に騙される。
そして何といっても
その白を黒と錯覚させるような話術。
しかし
それこそが詐欺師の本質ではないか。
大烏という人間は、
僕の依頼を引き受けていることから考えても
とても真摯とは呼べない。
こんなことは本人の前では
決して口にすることはできないが。


食後のコーヒーを飲んでいると、
休憩時間になったもしほが僕の隣に座った。
「ねえ、八木さんとあの人って
 一体どういう関係なの?
 八木さんが人を連れてくるのって
 あの人が初めてでしょ?
 それにあの人、
 八木さんとは真逆のタイプっていうか。
 あっ、ごめんなさい。
 私ったら何か失礼なことを言っちゃったかしら」
「いやいや、いいんだよ本当のことだから。
 たしかに彼は行動力もあるし社交的だし
 僕とは大違いだからね」
「うーん。
 八木さんは社交的とは言えないけど、
 そこが八木さんの魅力でもあると思うけどな。
 何か影があるっていうか。
 暗いっていう意味じゃないのよ」
優しいもしほの言葉を
素直に受け止めていいのかわからないが、
褒められて悪い気はしなかった。
「ねえ、あの人の車みた?
 あれポルシェよ。
 それにあのスーツに帽子。
 あと腕時計も。
 結構高い物だと思うんだけど、
 一体、何をしてる人なの?」
もしほは大烏に関心があるようだ。
「・・う、うん。
 あの人はね。
 ・・探偵らしいんだ」
仕方なく僕は大烏の正体を明かした。
それでも敢えて「らしい」という言葉を使った。
詳しくは知らないということを
暗に仄めかしたつもりだ。
「えー。
 探偵なんて本当にいるんだ?
 びっくり!」
もしほは興味津々といった表情を浮かべた。
そして
「探偵って儲かるんだ」などと独り言ちていた。
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