65 / 128
三章 長月
九月七日(水曜日)1
しおりを挟む
目が覚めると十二時を回っていた。
そしてすぐに盗聴の二文字が頭をよぎった。
僕はそれを振り払うようにシャワーを浴びた。
十五時になるのを待ってから僕は家を出た。
出る時、二度、戸締りを確認をした。
平日のこの時間、
「シュガー&ソルト」の店内は空席が目立った。
「昨日は大烏さんが
長いことご迷惑をかけたようで
すみませんでした」
僕はマスターに一言謝ってから
カウンター席に座った。
「いやいや。
気を遣わせたのはこっちだよ。
明人ちゃんからもお礼を言っておいてくれよ。
美味しくいただきましたって」
何のことかわからず僕は首を傾げた。
「すっごい高価なお肉を戴いたのよ。
有名なブランド牛なんだって」
テーブルの拭き掃除をしていたもしほが
マスターに代わって答えた。
あの大烏がそんな気遣いをしていたことに驚いた。
高級スーツに身を包み、
乗っている車はポルシェ。
何も知らない人間には紳士に見えるかもしれない。
人は外見や肩書に騙される。
そして何といっても
その白を黒と錯覚させるような話術。
しかし
それこそが詐欺師の本質ではないか。
大烏という人間は、
僕の依頼を引き受けていることから考えても
とても真摯とは呼べない。
こんなことは本人の前では
決して口にすることはできないが。
食後のコーヒーを飲んでいると、
休憩時間になったもしほが僕の隣に座った。
「ねえ、八木さんとあの人って
一体どういう関係なの?
八木さんが人を連れてくるのって
あの人が初めてでしょ?
それにあの人、
八木さんとは真逆のタイプっていうか。
あっ、ごめんなさい。
私ったら何か失礼なことを言っちゃったかしら」
「いやいや、いいんだよ本当のことだから。
たしかに彼は行動力もあるし社交的だし
僕とは大違いだからね」
「うーん。
八木さんは社交的とは言えないけど、
そこが八木さんの魅力でもあると思うけどな。
何か影があるっていうか。
暗いっていう意味じゃないのよ」
優しいもしほの言葉を
素直に受け止めていいのかわからないが、
褒められて悪い気はしなかった。
「ねえ、あの人の車みた?
あれポルシェよ。
それにあのスーツに帽子。
あと腕時計も。
結構高い物だと思うんだけど、
一体、何をしてる人なの?」
もしほは大烏に関心があるようだ。
「・・う、うん。
あの人はね。
・・探偵らしいんだ」
仕方なく僕は大烏の正体を明かした。
それでも敢えて「らしい」という言葉を使った。
詳しくは知らないということを
暗に仄めかしたつもりだ。
「えー。
探偵なんて本当にいるんだ?
びっくり!」
もしほは興味津々といった表情を浮かべた。
そして
「探偵って儲かるんだ」などと独り言ちていた。
そしてすぐに盗聴の二文字が頭をよぎった。
僕はそれを振り払うようにシャワーを浴びた。
十五時になるのを待ってから僕は家を出た。
出る時、二度、戸締りを確認をした。
平日のこの時間、
「シュガー&ソルト」の店内は空席が目立った。
「昨日は大烏さんが
長いことご迷惑をかけたようで
すみませんでした」
僕はマスターに一言謝ってから
カウンター席に座った。
「いやいや。
気を遣わせたのはこっちだよ。
明人ちゃんからもお礼を言っておいてくれよ。
美味しくいただきましたって」
何のことかわからず僕は首を傾げた。
「すっごい高価なお肉を戴いたのよ。
有名なブランド牛なんだって」
テーブルの拭き掃除をしていたもしほが
マスターに代わって答えた。
あの大烏がそんな気遣いをしていたことに驚いた。
高級スーツに身を包み、
乗っている車はポルシェ。
何も知らない人間には紳士に見えるかもしれない。
人は外見や肩書に騙される。
そして何といっても
その白を黒と錯覚させるような話術。
しかし
それこそが詐欺師の本質ではないか。
大烏という人間は、
僕の依頼を引き受けていることから考えても
とても真摯とは呼べない。
こんなことは本人の前では
決して口にすることはできないが。
食後のコーヒーを飲んでいると、
休憩時間になったもしほが僕の隣に座った。
「ねえ、八木さんとあの人って
一体どういう関係なの?
八木さんが人を連れてくるのって
あの人が初めてでしょ?
それにあの人、
八木さんとは真逆のタイプっていうか。
あっ、ごめんなさい。
私ったら何か失礼なことを言っちゃったかしら」
「いやいや、いいんだよ本当のことだから。
たしかに彼は行動力もあるし社交的だし
僕とは大違いだからね」
「うーん。
八木さんは社交的とは言えないけど、
そこが八木さんの魅力でもあると思うけどな。
何か影があるっていうか。
暗いっていう意味じゃないのよ」
優しいもしほの言葉を
素直に受け止めていいのかわからないが、
褒められて悪い気はしなかった。
「ねえ、あの人の車みた?
あれポルシェよ。
それにあのスーツに帽子。
あと腕時計も。
結構高い物だと思うんだけど、
一体、何をしてる人なの?」
もしほは大烏に関心があるようだ。
「・・う、うん。
あの人はね。
・・探偵らしいんだ」
仕方なく僕は大烏の正体を明かした。
それでも敢えて「らしい」という言葉を使った。
詳しくは知らないということを
暗に仄めかしたつもりだ。
「えー。
探偵なんて本当にいるんだ?
びっくり!」
もしほは興味津々といった表情を浮かべた。
そして
「探偵って儲かるんだ」などと独り言ちていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
後宮生活困窮中
真魚
ミステリー
一、二年前に「祥雪華」名義でこちらのサイトに投降したものの、完結後に削除した『後宮生活絶賛困窮中 ―めざせ媽祖大祭』のリライト版です。ちなみに前回はジャンル「キャラ文芸」で投稿していました。
このリライト版は、「真魚」名義で「小説家になろう」にもすでに投稿してあります。
以下あらすじ
19世紀江南~ベトナムあたりをイメージした架空の王国「双樹下国」の後宮に、あるとき突然金髪の「法狼機人」の正后ジュヌヴィエーヴが嫁いできます。
一夫一妻制の文化圏からきたジュヌヴィエーヴは一夫多妻制の後宮になじめず、結局、後宮を出て新宮殿に映ってしまいます。
結果、困窮した旧後宮は、年末の祭の費用の捻出のため、経理を担う高位女官である主計判官の趙雪衣と、護衛の女性武官、武芸妓官の蕎月牙を、海辺の交易都市、海都へと派遣します。しかし、その最中に、新宮殿で正后ジュヌヴィエーヴが毒殺されかけ、月牙と雪衣に、身に覚えのない冤罪が着せられてしまいます。
逃亡女官コンビが冤罪を晴らすべく身を隠して奔走します。
ヘリオポリスー九柱の神々ー
soltydog369
ミステリー
古代エジプト
名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。
しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。
突如奪われた王の命。
取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。
それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。
バトル×ミステリー
新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。
【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。
10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。
婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。
その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。
それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー?
【作者よりみなさまへ】
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて
ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。
よろず商人エリー 死神の約束
鈴本悠介
ミステリー
母を病気で亡くした翔のもとに仮面をつけた怪しい男が現れる。彼の名はエリー。エリーが徐に取り出したのは、見た目は何の変哲もないノートだった。しかし、彼曰く、そのノートに書いたメッセージは生前の母に届くという。
これは時を超えた約束の物語。
噂のギャンブラー
黒崎伸一郎
ミステリー
末期のギャンブル依存症に陥った男が一体どの様な方法で一流のプロのギャンブラーになっていくのか…?
そして最強のプロとして生き続けることができるのか…?
比較的裕福な家庭で育った小比類巻海斗。
幼い頃からゲーム好きで高校を卒業してからもギャンブル漬けの毎日を送っていた。
海斗のギャンブル好きは余りにも度が過ぎて両親が汗水垂らして蓄えた財産をあっという間に使い果たしてしまう。
そして遂には末期のギャンブル依存症になり、すべてを失ってしまう。
どん底に落ちた海斗はそれでもギャンブルは辞められなかった。
いや、どうせ一度の人生だ。
自分の好きに生きてきたのだから最後までギャンブルをし続ける決心をする。
毎日懸命に仕事をして得る給料はしれていたが、それを全てギャンブルで失う。
食費を削ってもギャンブルをし続けた。
その海斗がふとしたきっかけで必勝法と思える方法を見出す。
末期のギャンブル依存症の海斗は本当にギャンブルに勝ち続けることができるのか…?
ギャンブルに必勝法などないと思っている全てのギャンブルファンに公言する。
「ギャンブルは勝てる!」
現実にギャンブルで生活している人は存在する。
ただ圧倒的に負ける人が多いのが現状だ。
プロのギャンブラーになれ!
ギャンブラーの中からミクロのパーセンテージの超一流のプロに…。
あなたはその事実に驚愕する…!!!
その一部をここでお見せする!
◆妻が好きすぎてガマンできないっ★
青海
大衆娯楽
R 18バージョンからノーマルバージョンに変更しました。
妻が好きすぎて仕方ない透と泉の結婚生活編です。
https://novel18.syosetu.com/n6601ia/
『大好きなあの人を一生囲って外に出したくない!』
こちらのサイトでエッチな小説を連載してます。
水野泉視点でのお話です。
よろしくどうぞ★
7月は男子校の探偵少女
金時るるの
ミステリー
孤児院暮らしから一転、女であるにも関わらずなぜか全寮制の名門男子校に入学する事になったユーリ。
性別を隠しながらも初めての学園生活を満喫していたのもつかの間、とある出来事をきっかけに、ルームメイトに目を付けられて、厄介ごとを押し付けられる。
顔の塗りつぶされた肖像画。
完成しない彫刻作品。
ユーリが遭遇する謎の数々とその真相とは。
19世紀末。ヨーロッパのとある国を舞台にした日常系ミステリー。
(タイトルに※マークのついているエピソードは他キャラ視点です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる