ストーカー

Mr.M

文字の大きさ
上 下
41 / 128
二章 葉月

八月二十六日(金曜日)3

しおりを挟む
現れたのは黒を基調としたドレスに身を包んだ
若い女性だった。
全身を包んでいる黒と違って
その髪の色は綺麗な赤に染まっていた。
赤ワインにちなんだマルサラカラーのようだ。
そしてその頭に乗っている
大きなリボンは真っ黒だった。
胸元の大きく開いたドレスは
腰から膝上までがフリルで覆われた
ミニスカートだった。
それら全体の黒の主張が強すぎるために、
その胸元から見える肌の白さが際立っていた。
くびれたウエストにボリュームのある胸。
そしてスカートから覗く
黒いストッキングに包まれた太ももが、
妙に官能的だった。

これは。
ゴシック・アンド・ロリータファッション。
通称ゴスロリと呼ばれているスタイルではないか。
実際にお目にかかるのは初めてだったが、
その印象はまるで魔女のようだった。
しかしこれほど美しい魔女ならば怖くはない。
おまけにこのプロポーション。
僕の目はどうしてもその胸元に惹きつけられた。
あの柔らかそうな胸に顔を埋めて・・。
などと邪な考えが僕の頭に浮かんだ。

「ちょっと、どこ見てんのよ」
その言葉で僕は我に返った。
咄嗟に彼女の顔を見ると、
まるで汚いモノを見るかのような目で
こちらを睨んでいた。
僕はすぐに視線を外した。
完全に失態だった。
この洋館と
目の前の彼女の一種異様な雰囲気の中で、
僕は正常な判断力を失っていた。
「あ、あの・・!
 た、武衣さんに中で待つように言われた者です」
僕は咄嗟にここの主である武衣の名前を口にした。

「・・武衣さんですって?
 なに馬鹿な事を言ってるのよ。
 『た・け・い』は私なんだけど?」
「え、え、え?
 あ、あなたが、た、探偵の武衣さん?」
彼女の言葉に僕の頭は混乱した。
すると彼女は大きな溜息を吐いた。
「・・違うわよ。
 『め・い・た・ん・て・い』
 の武衣実果(たけい みか)よ。
 まさか私の事も知らないで、
 ここに来る大馬鹿者がいるとは
 思わなかったわね。
 本当に世も末だわ」
僕は大馬鹿者らしい。
「じゃ、じゃあ、さっき表で会った男の人は・・」
「武(たけし)のことかしら。
 そういえば忘れ物とかで
 慌ただしく出ていったわね。
 それで、何の用かしら?」

僕は改めて目の前に立つ黒い魔女を見た。
そしてその恐ろしく綺麗な顔立ちに
胸がチクリと痛んだ。
初めはその奇抜な服装や、
ドレスの胸元から覗く白くふくよかな肌に
目を奪われたが、
その顔はこれまでに見た誰よりも美しかった。
美しい。
その言葉以外思い付かなかった。
子供っぽい可愛らしさと大人の色気が、
絶妙なバランスで混じり合っていた。
安倍瑠璃の美しさが髪型や化粧、
そして服装などにより
造られたモノであるとした場合、
こちらは自然、
いや天然の美を備えていた。
そして一度その美しさを意識してしまうと、
僕は彼女の顔をまともに見ることができなかった。
僕は俯いた。

「とりあえず上がりなさいよ」
僕はただ言われるがままに靴を脱いだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミガワレル

崎田毅駿
ミステリー
松坂進は父の要請を受け入れ、大学受験に失敗した双子の弟・正のために、代わりに受験することを約束する。このことは母・美沙子も知らない、三人だけの秘密であった。 受験当日の午後、美沙子は思い掛けない知らせに愕然となった。試験を終えた帰り道、正が車にはねられて亡くなったという。 後日、松坂は会社に警察の訪問を受ける。一体、何の用件で……不安に駆られる松坂が聞かされたのは、予想外の出来事だった。

ヘリオポリスー九柱の神々ー

soltydog369
ミステリー
古代エジプト 名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。 しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。 突如奪われた王の命。 取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。 それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。 バトル×ミステリー 新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。

放浪探偵の呪詛返し

紫音
ミステリー
※第7回ホラー・ミステリー小説大賞にて異能賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  観光好きで放浪癖のある青年・永久天満は、なぜか行く先々で怪奇現象に悩まされている人々と出会う。しかしそれは三百年前から定められた必然だった。怪異の謎を解き明かし、呪いを返り討ちにするライトミステリー。 ※11/7より第二部(第五章以降)の連載を始めました。  

Prisoner

たける
恋愛
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 【あらすじ】 母親に虐待されながら育ったクレイズは、17の時に家を捨てた。 そして、生きて行く為に強盗を働き、マフィアに所属したりと、悪行の限りを尽くしていた。 だがそんなクレイズも19になった時、強盗仲間に裏切られ、逮捕されてしまう。 それが、人生を変える出会いだった。

7月は男子校の探偵少女

金時るるの
ミステリー
孤児院暮らしから一転、女であるにも関わらずなぜか全寮制の名門男子校に入学する事になったユーリ。 性別を隠しながらも初めての学園生活を満喫していたのもつかの間、とある出来事をきっかけに、ルームメイトに目を付けられて、厄介ごとを押し付けられる。 顔の塗りつぶされた肖像画。 完成しない彫刻作品。 ユーリが遭遇する謎の数々とその真相とは。 19世紀末。ヨーロッパのとある国を舞台にした日常系ミステリー。 (タイトルに※マークのついているエピソードは他キャラ視点です)

◆妻が好きすぎてガマンできないっ★

青海
大衆娯楽
 R 18バージョンからノーマルバージョンに変更しました。  妻が好きすぎて仕方ない透と泉の結婚生活編です。  https://novel18.syosetu.com/n6601ia/ 『大好きなあの人を一生囲って外に出したくない!』 こちらのサイトでエッチな小説を連載してます。 水野泉視点でのお話です。 よろしくどうぞ★

恥ずかしいので観ないで下さい。

恐山にゃる
ミステリー
15秒で読める140文字以内のショートショート作品です。(夫には内緒で書いています。) 恥ずかしいので観ないで下さい。 生きる事は恥を晒す事。 作品には仕掛けを施してある物もございます。 でももし火遊び感覚で観てしまったのなら・・・感想を下さい。 それはそれで喜びます。 いや凄く嬉しい。小躍りして喜びます。 どちらかの作品が貴方の目に留まったなら幸いです。恐山にゃる。

噂のギャンブラー

黒崎伸一郎
ミステリー
末期のギャンブル依存症に陥った男が一体どの様な方法で一流のプロのギャンブラーになっていくのか…? そして最強のプロとして生き続けることができるのか…? 比較的裕福な家庭で育った小比類巻海斗。 幼い頃からゲーム好きで高校を卒業してからもギャンブル漬けの毎日を送っていた。 海斗のギャンブル好きは余りにも度が過ぎて両親が汗水垂らして蓄えた財産をあっという間に使い果たしてしまう。 そして遂には末期のギャンブル依存症になり、すべてを失ってしまう。 どん底に落ちた海斗はそれでもギャンブルは辞められなかった。 いや、どうせ一度の人生だ。 自分の好きに生きてきたのだから最後までギャンブルをし続ける決心をする。 毎日懸命に仕事をして得る給料はしれていたが、それを全てギャンブルで失う。 食費を削ってもギャンブルをし続けた。 その海斗がふとしたきっかけで必勝法と思える方法を見出す。 末期のギャンブル依存症の海斗は本当にギャンブルに勝ち続けることができるのか…? ギャンブルに必勝法などないと思っている全てのギャンブルファンに公言する。 「ギャンブルは勝てる!」 現実にギャンブルで生活している人は存在する。 ただ圧倒的に負ける人が多いのが現状だ。 プロのギャンブラーになれ! ギャンブラーの中からミクロのパーセンテージの超一流のプロに…。 あなたはその事実に驚愕する…!!! その一部をここでお見せする!

処理中です...