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二章 葉月
八月二十六日(金曜日)3
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現れたのは黒を基調としたドレスに身を包んだ
若い女性だった。
全身を包んでいる黒と違って
その髪の色は綺麗な赤に染まっていた。
赤ワインにちなんだマルサラカラーのようだ。
そしてその頭に乗っている
大きなリボンは真っ黒だった。
胸元の大きく開いたドレスは
腰から膝上までがフリルで覆われた
ミニスカートだった。
それら全体の黒の主張が強すぎるために、
その胸元から見える肌の白さが際立っていた。
くびれたウエストにボリュームのある胸。
そしてスカートから覗く
黒いストッキングに包まれた太ももが、
妙に官能的だった。
これは。
ゴシック・アンド・ロリータファッション。
通称ゴスロリと呼ばれているスタイルではないか。
実際にお目にかかるのは初めてだったが、
その印象はまるで魔女のようだった。
しかしこれほど美しい魔女ならば怖くはない。
おまけにこのプロポーション。
僕の目はどうしてもその胸元に惹きつけられた。
あの柔らかそうな胸に顔を埋めて・・。
などと邪な考えが僕の頭に浮かんだ。
「ちょっと、どこ見てんのよ」
その言葉で僕は我に返った。
咄嗟に彼女の顔を見ると、
まるで汚いモノを見るかのような目で
こちらを睨んでいた。
僕はすぐに視線を外した。
完全に失態だった。
この洋館と
目の前の彼女の一種異様な雰囲気の中で、
僕は正常な判断力を失っていた。
「あ、あの・・!
た、武衣さんに中で待つように言われた者です」
僕は咄嗟にここの主である武衣の名前を口にした。
「・・武衣さんですって?
なに馬鹿な事を言ってるのよ。
『た・け・い』は私なんだけど?」
「え、え、え?
あ、あなたが、た、探偵の武衣さん?」
彼女の言葉に僕の頭は混乱した。
すると彼女は大きな溜息を吐いた。
「・・違うわよ。
『め・い・た・ん・て・い』
の武衣実果(たけい みか)よ。
まさか私の事も知らないで、
ここに来る大馬鹿者がいるとは
思わなかったわね。
本当に世も末だわ」
僕は大馬鹿者らしい。
「じゃ、じゃあ、さっき表で会った男の人は・・」
「武(たけし)のことかしら。
そういえば忘れ物とかで
慌ただしく出ていったわね。
それで、何の用かしら?」
僕は改めて目の前に立つ黒い魔女を見た。
そしてその恐ろしく綺麗な顔立ちに
胸がチクリと痛んだ。
初めはその奇抜な服装や、
ドレスの胸元から覗く白くふくよかな肌に
目を奪われたが、
その顔はこれまでに見た誰よりも美しかった。
美しい。
その言葉以外思い付かなかった。
子供っぽい可愛らしさと大人の色気が、
絶妙なバランスで混じり合っていた。
安倍瑠璃の美しさが髪型や化粧、
そして服装などにより
造られたモノであるとした場合、
こちらは自然、
いや天然の美を備えていた。
そして一度その美しさを意識してしまうと、
僕は彼女の顔をまともに見ることができなかった。
僕は俯いた。
「とりあえず上がりなさいよ」
僕はただ言われるがままに靴を脱いだ。
若い女性だった。
全身を包んでいる黒と違って
その髪の色は綺麗な赤に染まっていた。
赤ワインにちなんだマルサラカラーのようだ。
そしてその頭に乗っている
大きなリボンは真っ黒だった。
胸元の大きく開いたドレスは
腰から膝上までがフリルで覆われた
ミニスカートだった。
それら全体の黒の主張が強すぎるために、
その胸元から見える肌の白さが際立っていた。
くびれたウエストにボリュームのある胸。
そしてスカートから覗く
黒いストッキングに包まれた太ももが、
妙に官能的だった。
これは。
ゴシック・アンド・ロリータファッション。
通称ゴスロリと呼ばれているスタイルではないか。
実際にお目にかかるのは初めてだったが、
その印象はまるで魔女のようだった。
しかしこれほど美しい魔女ならば怖くはない。
おまけにこのプロポーション。
僕の目はどうしてもその胸元に惹きつけられた。
あの柔らかそうな胸に顔を埋めて・・。
などと邪な考えが僕の頭に浮かんだ。
「ちょっと、どこ見てんのよ」
その言葉で僕は我に返った。
咄嗟に彼女の顔を見ると、
まるで汚いモノを見るかのような目で
こちらを睨んでいた。
僕はすぐに視線を外した。
完全に失態だった。
この洋館と
目の前の彼女の一種異様な雰囲気の中で、
僕は正常な判断力を失っていた。
「あ、あの・・!
た、武衣さんに中で待つように言われた者です」
僕は咄嗟にここの主である武衣の名前を口にした。
「・・武衣さんですって?
なに馬鹿な事を言ってるのよ。
『た・け・い』は私なんだけど?」
「え、え、え?
あ、あなたが、た、探偵の武衣さん?」
彼女の言葉に僕の頭は混乱した。
すると彼女は大きな溜息を吐いた。
「・・違うわよ。
『め・い・た・ん・て・い』
の武衣実果(たけい みか)よ。
まさか私の事も知らないで、
ここに来る大馬鹿者がいるとは
思わなかったわね。
本当に世も末だわ」
僕は大馬鹿者らしい。
「じゃ、じゃあ、さっき表で会った男の人は・・」
「武(たけし)のことかしら。
そういえば忘れ物とかで
慌ただしく出ていったわね。
それで、何の用かしら?」
僕は改めて目の前に立つ黒い魔女を見た。
そしてその恐ろしく綺麗な顔立ちに
胸がチクリと痛んだ。
初めはその奇抜な服装や、
ドレスの胸元から覗く白くふくよかな肌に
目を奪われたが、
その顔はこれまでに見た誰よりも美しかった。
美しい。
その言葉以外思い付かなかった。
子供っぽい可愛らしさと大人の色気が、
絶妙なバランスで混じり合っていた。
安倍瑠璃の美しさが髪型や化粧、
そして服装などにより
造られたモノであるとした場合、
こちらは自然、
いや天然の美を備えていた。
そして一度その美しさを意識してしまうと、
僕は彼女の顔をまともに見ることができなかった。
僕は俯いた。
「とりあえず上がりなさいよ」
僕はただ言われるがままに靴を脱いだ。
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