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一章 文月
七月二十日(水曜日)2
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稲置市の西隣にある連市は温泉が有名な町だった。
その連市の外れ、
稲置市との市境にある小高い山の上の
小さな住宅地の中に、
ひっそりと存在している温泉施設があった。
その名も「東方の湯」。
柏木督右衛門から聞いて、
一度足を運んで以来、
僕はすっかりその温泉の虜になっていた。
ここは琥珀色のモール泉が特徴で、
大浴場が一つと露天風呂もあった。
他にサウナ室と水風呂もあって、
水風呂は地下水を汲み上げて利用していた。
僕は十時の開店と同時に店に着いた。
他の客はいなかった。
湯舟で温まってからサウナ室へ入った。
誰もいないサウナ室で僕は十二分計と向き合った。
十二分計を見つめていると、
今朝のニュースが思い出された。
「昨夜」「宿禰市」「女性」「乱暴」
これらのキーワードが脳裏をよぎった。
今後のニュースで
被害女性の情報が報道されるかもしれない。
しかしたとえそれがわかったとして、
何の意味があるだろう。
僕は彼女の名前を知らないし、
あの時月明かりがあったとはいえ、
暗闇で後ろから行為に及んだ自分には、
彼女の顔をじっくりと確認することさえ
できなかったのだから。
その連市の外れ、
稲置市との市境にある小高い山の上の
小さな住宅地の中に、
ひっそりと存在している温泉施設があった。
その名も「東方の湯」。
柏木督右衛門から聞いて、
一度足を運んで以来、
僕はすっかりその温泉の虜になっていた。
ここは琥珀色のモール泉が特徴で、
大浴場が一つと露天風呂もあった。
他にサウナ室と水風呂もあって、
水風呂は地下水を汲み上げて利用していた。
僕は十時の開店と同時に店に着いた。
他の客はいなかった。
湯舟で温まってからサウナ室へ入った。
誰もいないサウナ室で僕は十二分計と向き合った。
十二分計を見つめていると、
今朝のニュースが思い出された。
「昨夜」「宿禰市」「女性」「乱暴」
これらのキーワードが脳裏をよぎった。
今後のニュースで
被害女性の情報が報道されるかもしれない。
しかしたとえそれがわかったとして、
何の意味があるだろう。
僕は彼女の名前を知らないし、
あの時月明かりがあったとはいえ、
暗闇で後ろから行為に及んだ自分には、
彼女の顔をじっくりと確認することさえ
できなかったのだから。
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