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九章 愈々・・
第55話 美人
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門を出ると五代は
北へ続く小道へ足を向けた。
月明かりを頼りに
ボクは黙って五代の後に続いた。
少し進むと
道の両側で鬱蒼と茂っていた木々が
頭上までをも覆い隠し月明りを遮った。
そんな中でも
前を歩く五代の足取りに迷いはなかった。
木の葉が風にそよいで
「ジリジリジリジリ」と音を立てた。
闇が見せる幻想なのか、
前を歩く五代の後姿が大きく見えた。
いつの間にか
足元には白い靄のようなモノが漂っていた。
それでも五代の歩調は変わらなかった。
ボクは足元に注意しながら
離されないよう必死に追いかけた。
どれほど歩いたのだろう。
随分長い間、
歩いていた気もするが、
実際には10分も経っていないはずだ。
その時。
突然、頭上を覆い尽くしていた木々が消えた。
真っ暗な空に丸い月が浮いていた。
閉塞感から解放されたボクは
前を歩く五代を追い抜いて
無意識のうちに駆け出していた。
「危ないっ!」
その声に驚いてボクは足をとめた。
靄に包まれた地面に目を凝らすと
数歩先で崖となっていることに気付いた。
ボクは眼下に広がる深い谷を見て
慌てて後ずさりした。
「ここは屋敷の裏山。
『天狗の鼻』と呼ばれている場所です」
ボクはゆっくりと振り向いた。
月明りに照らされた五代が微笑んでいた。
不意に風が吹いた。
なびく髪を五代は右手で押さえた。
ボクは五代の目を真っ直ぐ見つめた。
「ボート事故はキミの自作自演だったんだね」
「リーリー。リーンリーン」
美しくも悲しげな虫の音が聞こえた。
「は、犯人は・・キミかい?」
ボクの言葉は虚しい響きをもって
暗い谷に吸い込まれていった。
頬に当たる風が冷たかった。
北へ続く小道へ足を向けた。
月明かりを頼りに
ボクは黙って五代の後に続いた。
少し進むと
道の両側で鬱蒼と茂っていた木々が
頭上までをも覆い隠し月明りを遮った。
そんな中でも
前を歩く五代の足取りに迷いはなかった。
木の葉が風にそよいで
「ジリジリジリジリ」と音を立てた。
闇が見せる幻想なのか、
前を歩く五代の後姿が大きく見えた。
いつの間にか
足元には白い靄のようなモノが漂っていた。
それでも五代の歩調は変わらなかった。
ボクは足元に注意しながら
離されないよう必死に追いかけた。
どれほど歩いたのだろう。
随分長い間、
歩いていた気もするが、
実際には10分も経っていないはずだ。
その時。
突然、頭上を覆い尽くしていた木々が消えた。
真っ暗な空に丸い月が浮いていた。
閉塞感から解放されたボクは
前を歩く五代を追い抜いて
無意識のうちに駆け出していた。
「危ないっ!」
その声に驚いてボクは足をとめた。
靄に包まれた地面に目を凝らすと
数歩先で崖となっていることに気付いた。
ボクは眼下に広がる深い谷を見て
慌てて後ずさりした。
「ここは屋敷の裏山。
『天狗の鼻』と呼ばれている場所です」
ボクはゆっくりと振り向いた。
月明りに照らされた五代が微笑んでいた。
不意に風が吹いた。
なびく髪を五代は右手で押さえた。
ボクは五代の目を真っ直ぐ見つめた。
「ボート事故はキミの自作自演だったんだね」
「リーリー。リーンリーン」
美しくも悲しげな虫の音が聞こえた。
「は、犯人は・・キミかい?」
ボクの言葉は虚しい響きをもって
暗い谷に吸い込まれていった。
頬に当たる風が冷たかった。
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