ボクは名探偵?

Mr.M

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四章 探偵と助手

第16話 会談

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「あなたのせいよ!
 この役立たず!」
茶の間の障子戸を開けるとすぐに
罵声がボクの耳に飛び込んできた。
声のした方へ目を向けると
そこにはこちらを睨み付ける政子の姿があった。
彼女は腰を上げて
今にもボクへと飛び掛からんと息巻いていた。
隣の頼朝がそんな政子の腕を掴んでいた。
政子の真っ赤な目には
怒りと憎しみそして悲しみが混同していた。

「座りなさい、政子」
部屋の奥の姫子が静かに窘めた。
政子は糸の切れた操り人形のように
がくりと腰を落とした。
頼朝がすぐにその背を支えた。

部屋には夕食時と同じように
夜霧家の全員が揃っていたが、
そこに頼家の姿はなかった。

「頼家・・さんが殺されたというのは
 本当ですか?」
ボクが訊ねると姫子が大きく頷いた。
姫子は壁際に立っている福に目で合図を送った。
福が頷いて姫子に変わって口を開いた。


今から数十分前、
頼朝は入浴のために午の宅へ行った。
そして露天風呂で
変わり果てた息子の姿を発見した。
頼朝はすぐに裏道を駆けて巽の宅の戸を叩いた。
そして竹千代に
露天風呂で見た光景を早口で説明した。
頼朝は竹千代から着物を借りて
二人はそのまま卯の宅へ走った。
福は竹千代に
「お先生に
 お知らせして本宅へ
 お連れして下さい」
と命じて自分は頼朝と共に本宅へ向かった。


福が説明を終えると
茶の間には
政子のすすり泣く声だけが聞こえていた。

「リーリー。リーンリーン」
美しくも悲しげな虫の音が聞こえ

「・・ということですが。
 どうしましょうか、先生?」
姫子のその口調は
まるで世間話でもするかのような
軽さを孕んでいた。

「・・そう、ですね」
ボクはコホンと大袈裟に咳をした。
「とりあえず警察に連絡を・・」
皆の視線が一斉にボクに向けられた。
「先生、ここには関係者の全員が揃っています。
 何か聞きたいことはありませんか?」
姫子がボクの言葉を無視して話を進めた。

わかってはいたが。
どうやらこの世界では
警察を頼ることも禁止されているようだ。
たしかに。
探偵が警察を頼る推理小説など
誰も読まないだろう。
ボクは皆に気付かれないように
小さく溜息を吐いた。

「頼家が死んで得をするのは誰か、
 それを考えれば犯人は明らかです」
頼朝に肩を抱かれていた政子が
恨みがましく富子と菊子を睨み付けた。
「何が言いたいのか、
 さっぱりわからないね」
富子が負けじと睨み返した。
「あなた達が結託して
 頼家を殺したのでしょう!」
政子がヒステリックに叫んだ。

「うふふふふ」
その時、富子の隣に座っていた菊子が
この場の空気にそぐわない笑い声をあげた。
「おかしなことを。
 政子姉さん、気でも触れたの?
 秀頼に限っては
 そんなことをする必要はないの。
 だってそうでしょ?
 五代が秀頼を選ぶことは必然なのよ。
 あら?
 ということは犯人は・・」
そこで菊子は富子の方にチラリと目を向けた。
「何だい、その目は?
 ウチの義尚が犯人とでも言いたいのかい?」
富子が今度は菊子を睨み付けた。
一方、菊子は富子の視線をさらりと受け流すと
徐に口を開いた。
「酒癖が悪く女好き。
 義尚の噂は嫌でも耳に入ってきますからね。
 村の娘達に酷いことをしていることも。
 本来なら夜霧の家に相応しくない人間。
 富子姉さんも尻拭いが大変でしょう?
 一体、
 どこの馬の骨の遺伝子を受け継いだのか。
 あら、御免なさい。
 父親が誰かもわからないほど
 富子姉さんも派手に遊んでたものね。
 この親にしてこの子あり。
 うふふふふ」
富子の顔が蛸のように真っ赤になって、
唇がワナワナと震えた。
「いい加減にしなっ!
 アンタこそ30も年上の爺ぃと結婚して
 後悔してるんだろ!
 夜の性活の方も秀頼が生まれてからは
 ご無沙汰らしいじゃないか!
 アンタが求めすぎるから
 爺ぃは家に寄りつかないって噂だよ。
 でもねぇ。
 いくら寂しいからって
 実の息子と懇ろな関係になるっていうのは
 褒められたものじゃないね。
 もしかしたら。
 息子とそんな関係になったから
 爺ぃが家を出てったのかもしれないね。
 五代のボートの件も
 息子を取られたくないと考えた
 アンタの仕業だろ!」
富子と菊子はお互いに睨み合ったまま
火花を散らした。

「あ、あの・・。
 と、とりあえず、
 お、落ち着きましょう」
ボクはこの場を宥めようと試みた。

「まさか、死人が出るとはなぁ。
 名探偵の先生は一体何をしてたんだ?」
その時、
義尚が口元を歪めて意地悪く微笑んだ。
「蛙」のような気味の悪い顔に
ボクは腹の下から何かが込み上げてくるような
不快感を覚えて咄嗟に口を押えた。
「でも。
 これではっきりしたじゃないか。
 どうやらあの脅迫状は本気のようだね」
それまで黙っていた秀頼が静かに口を開いた。
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