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九章 夜霧家の崩壊
<人定 亥の刻> 豪雨
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燃えさかる炎に板葺きの屋根が崩れ落ちた。
陰陽の背後に炎が迫っていた。
「・・いい打ち込みだったよ」
陰陽の口元が微かに笑っていた。
狐狸の表情が驚きに変わった。
『童子切安綱』の朱い刀身は
陰陽の体を真っ二つにすることなく
その瑠璃色の着物を切り裂いたところで
止まっていた。
「な、なぜ・・」
次の瞬間、
朱い刀身が中程から折れて
刃先が畳の上に転がった。
その時、陰陽の右手が動いた。
直後、
「あぁっ」という声が狐狸の口から洩れた。
狐狸が左肩を押さえながら
よろめいて後ろに下がった。
その左肩には苦無が突き刺さっていた。
「な、なぜ・・」
狐狸が同じ言葉を繰り返した。
「お前が打ったのはボクの胴じゃない」
陰陽の左脇腹の着物の切れ目から
鈍色に光る鉄扇が覗いていた。
「元々この『羅刹』は
戦場で刀から身を守るための護身用として
作られた代物。
人を斬ることにおいては唯一無二のその刀も
残念ながら『羅刹』の前では
通用しなかったようだ」
狐狸は顔を歪ませながら
左肩に突き刺さった苦無を引き抜いた。
「・・しかし。
さすが『童子切安綱』だ。
僅かとはいえこの『羅刹』に傷を付けるなんて」
扇面を指でなぞりながら
陰陽が感心したように呟いた。
「はぁ・・はぁ・・そう・・。
でも遅かったわね。
周りは火の海。
陽兄ぃもここで焼け死ぬのよ」
狐狸は「あっはっはっは」と
大袈裟に笑い声をあげた。
その笑い声は炎と雨と風の音を掻き消した。
そんな中、
蚊母鳥の「キュキュキュキュ」という啼き声が
微かに聞こえた。
「・・仕方ない。
冥途の土産にボクの占術を見せてあげるよ」
陰陽は小さく溜息を吐くと
両手を胸の前で合わせ九字を唱え始めた。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前・・」
すると突然、
部屋に降り込む雨が激しくなり、
忽ち豪雨となって夜霧の屋敷を包み込んだ。
豪雨は卯の宅に広がった炎を
あっという間に消し止めた。
「そ、そんな・・」
狐狸が力なく呟いた。
響き渡る雨音の中、
蚊母鳥が激しく啼いていた。
その時、
陰陽の手から放たれた赤い光が
狐狸の首筋を掠めた。
次の瞬間、
狐狸の首から鮮血が噴き出した。
「ああああぁぁぁぁぁぁっっ!」
狐狸の絶叫が焼け落ちた天井から
豪雨の中へと呑み込まれていった。
「どうだい?
『童子切安綱』の切れ味は?」
狐狸の背後の壁には
折れた真っ赤な刃先が突き立っていた。
「ほ、本当に嫌な男・・。
よ、陽兄ぃなんて・・
だ、大っ嫌い・・」
狐狸がばたりと畳に倒れ込んだ。
陰陽は顔を天に向けてその両目を豪雨で灌いだ。
しばらくして陰陽はゆっくりと目を開いた。
豪雨が
鮮血に染まった狐狸の体を綺麗に洗い流した。
陰陽の背後に炎が迫っていた。
「・・いい打ち込みだったよ」
陰陽の口元が微かに笑っていた。
狐狸の表情が驚きに変わった。
『童子切安綱』の朱い刀身は
陰陽の体を真っ二つにすることなく
その瑠璃色の着物を切り裂いたところで
止まっていた。
「な、なぜ・・」
次の瞬間、
朱い刀身が中程から折れて
刃先が畳の上に転がった。
その時、陰陽の右手が動いた。
直後、
「あぁっ」という声が狐狸の口から洩れた。
狐狸が左肩を押さえながら
よろめいて後ろに下がった。
その左肩には苦無が突き刺さっていた。
「な、なぜ・・」
狐狸が同じ言葉を繰り返した。
「お前が打ったのはボクの胴じゃない」
陰陽の左脇腹の着物の切れ目から
鈍色に光る鉄扇が覗いていた。
「元々この『羅刹』は
戦場で刀から身を守るための護身用として
作られた代物。
人を斬ることにおいては唯一無二のその刀も
残念ながら『羅刹』の前では
通用しなかったようだ」
狐狸は顔を歪ませながら
左肩に突き刺さった苦無を引き抜いた。
「・・しかし。
さすが『童子切安綱』だ。
僅かとはいえこの『羅刹』に傷を付けるなんて」
扇面を指でなぞりながら
陰陽が感心したように呟いた。
「はぁ・・はぁ・・そう・・。
でも遅かったわね。
周りは火の海。
陽兄ぃもここで焼け死ぬのよ」
狐狸は「あっはっはっは」と
大袈裟に笑い声をあげた。
その笑い声は炎と雨と風の音を掻き消した。
そんな中、
蚊母鳥の「キュキュキュキュ」という啼き声が
微かに聞こえた。
「・・仕方ない。
冥途の土産にボクの占術を見せてあげるよ」
陰陽は小さく溜息を吐くと
両手を胸の前で合わせ九字を唱え始めた。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前・・」
すると突然、
部屋に降り込む雨が激しくなり、
忽ち豪雨となって夜霧の屋敷を包み込んだ。
豪雨は卯の宅に広がった炎を
あっという間に消し止めた。
「そ、そんな・・」
狐狸が力なく呟いた。
響き渡る雨音の中、
蚊母鳥が激しく啼いていた。
その時、
陰陽の手から放たれた赤い光が
狐狸の首筋を掠めた。
次の瞬間、
狐狸の首から鮮血が噴き出した。
「ああああぁぁぁぁぁぁっっ!」
狐狸の絶叫が焼け落ちた天井から
豪雨の中へと呑み込まれていった。
「どうだい?
『童子切安綱』の切れ味は?」
狐狸の背後の壁には
折れた真っ赤な刃先が突き立っていた。
「ほ、本当に嫌な男・・。
よ、陽兄ぃなんて・・
だ、大っ嫌い・・」
狐狸がばたりと畳に倒れ込んだ。
陰陽は顔を天に向けてその両目を豪雨で灌いだ。
しばらくして陰陽はゆっくりと目を開いた。
豪雨が
鮮血に染まった狐狸の体を綺麗に洗い流した。
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