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九章 夜霧家の崩壊
<日入 酉の刻> 逢魔
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西の空が紅く染まり、
夜霧の敷地にも薄っすらと赤みが射していた。
美しくも悲しげな笛の音が妖しく響いていた。
子の宅の戸が開いて中から孤独が出てきた。
孤独は周囲を警戒しつつ、
西回りに歩き出した。
乾の宅の前に差し掛かった時、
南西から一陣の風が吹いて土埃を舞い上げた。
孤独は足を止めて思わず目を閉じた。
次の瞬間、
孤独は勢いよく前に転がると、
素早く起き上がって振り返った。
孤独の目が
二間ほど離れたところに立っている人物を捉えた。
同時に、孤独の目が大きく見開かれた。
「そ、そんな馬鹿な・・」
孤独の表情が驚愕に震えていた。
「どうした、顔色が悪いぞ?
幽霊でも見たか、孤独よ?」
そこには
「芒に月」
が刺繍された若芽色の着物を着た男が立っていた。
男は銀色の髪に鍔形の眼帯を付けていた。
「貴様に命を狙われたのは二度目だな。
一度目は幼きあの日。
俺の湯呑に入った毒がもう少し強力だったら
俺は片目だけではなく
命まで落としていただろう。
あの時すでに殺意があったのか?」
「ち、違う!
あの時、
兄貴の湯呑に毒を入れたのは俺様じゃねえ!」
孤独が激しく首を振って否定した。
「そ、それに今回のことだって・・」
そこで孤独は何か思い当たる節があるのか
口に手を当てて黙り込んだ。
「今更、終わった事を
あれこれと言うつもりはない。
それにどうせ貴様はここで死ぬのだからな」
男は抑揚のない声で静かにそう言った。
突然、孤独が大きく口を開けて笑った。
「ひっひっひ。
俺様は騙されねえぞ!
てめえは陰陽だろ?
これはてめえの怪しげな術に違いねえ!
早いとこ正体を見せやがれっ!」
そう叫ぶと男を指差した。
どこかで雉鳩が「グーグーポッポー」と啼いた。
男が冷めた目で孤独を見ていた。
男の若芽色の着物が
西日を浴びて蘇比色に染まっていた。
その時、孤独の口元が緩んだ。
「ひっひっひ、こりゃいい。
陰陽、てめえの負けだ。
どういう理由で親父を殺したのかは知らねえが、
兄貴の『蜻蛉切』を
親父の骸に残したのは失敗だったな。
俺様を怖がらせることが目的だったとしたら、
馬鹿なことをしたもんだぜ。
武器がなくてどうやって戦うんだ?」
孤独の挑発にも男は顔色一つ変えなかった。
右の目が孤独をじっと見据えていた。
孤独は「ちっ」と舌打ちをして、
足元に唾を吐いた。
「陰陽、
てめえは兄貴がなぜ槍を使うのか
知らねえようだな。
隻眼故に、間合いが掴み難い。
それは接近戦では圧倒的に不利になる。
だからこそ兄貴は
刀の間合いの外からでも攻撃ができる
槍を使ってたんだ」
そう言いながら孤独は懐から鉤爪を取り出した。
「この爪には猛毒が塗ってある。
少しでも掠ったらあの世逝きだ。
どうした?
早くその腰から下げた脇差を抜けよ。
隻眼に加えて慣れない刀で
てめえがどこまでヤれるのか試してやるよ」
孤独は「ひっひっひ」と笑った。
その笑い声に合わせて雉鳩が啼いた。
「そうだ。
あの世に逝く前に聞かせろよ。
陰陽、てめえが親父を殺した時の状況を」
夜霧の敷地にも薄っすらと赤みが射していた。
美しくも悲しげな笛の音が妖しく響いていた。
子の宅の戸が開いて中から孤独が出てきた。
孤独は周囲を警戒しつつ、
西回りに歩き出した。
乾の宅の前に差し掛かった時、
南西から一陣の風が吹いて土埃を舞い上げた。
孤独は足を止めて思わず目を閉じた。
次の瞬間、
孤独は勢いよく前に転がると、
素早く起き上がって振り返った。
孤独の目が
二間ほど離れたところに立っている人物を捉えた。
同時に、孤独の目が大きく見開かれた。
「そ、そんな馬鹿な・・」
孤独の表情が驚愕に震えていた。
「どうした、顔色が悪いぞ?
幽霊でも見たか、孤独よ?」
そこには
「芒に月」
が刺繍された若芽色の着物を着た男が立っていた。
男は銀色の髪に鍔形の眼帯を付けていた。
「貴様に命を狙われたのは二度目だな。
一度目は幼きあの日。
俺の湯呑に入った毒がもう少し強力だったら
俺は片目だけではなく
命まで落としていただろう。
あの時すでに殺意があったのか?」
「ち、違う!
あの時、
兄貴の湯呑に毒を入れたのは俺様じゃねえ!」
孤独が激しく首を振って否定した。
「そ、それに今回のことだって・・」
そこで孤独は何か思い当たる節があるのか
口に手を当てて黙り込んだ。
「今更、終わった事を
あれこれと言うつもりはない。
それにどうせ貴様はここで死ぬのだからな」
男は抑揚のない声で静かにそう言った。
突然、孤独が大きく口を開けて笑った。
「ひっひっひ。
俺様は騙されねえぞ!
てめえは陰陽だろ?
これはてめえの怪しげな術に違いねえ!
早いとこ正体を見せやがれっ!」
そう叫ぶと男を指差した。
どこかで雉鳩が「グーグーポッポー」と啼いた。
男が冷めた目で孤独を見ていた。
男の若芽色の着物が
西日を浴びて蘇比色に染まっていた。
その時、孤独の口元が緩んだ。
「ひっひっひ、こりゃいい。
陰陽、てめえの負けだ。
どういう理由で親父を殺したのかは知らねえが、
兄貴の『蜻蛉切』を
親父の骸に残したのは失敗だったな。
俺様を怖がらせることが目的だったとしたら、
馬鹿なことをしたもんだぜ。
武器がなくてどうやって戦うんだ?」
孤独の挑発にも男は顔色一つ変えなかった。
右の目が孤独をじっと見据えていた。
孤独は「ちっ」と舌打ちをして、
足元に唾を吐いた。
「陰陽、
てめえは兄貴がなぜ槍を使うのか
知らねえようだな。
隻眼故に、間合いが掴み難い。
それは接近戦では圧倒的に不利になる。
だからこそ兄貴は
刀の間合いの外からでも攻撃ができる
槍を使ってたんだ」
そう言いながら孤独は懐から鉤爪を取り出した。
「この爪には猛毒が塗ってある。
少しでも掠ったらあの世逝きだ。
どうした?
早くその腰から下げた脇差を抜けよ。
隻眼に加えて慣れない刀で
てめえがどこまでヤれるのか試してやるよ」
孤独は「ひっひっひ」と笑った。
その笑い声に合わせて雉鳩が啼いた。
「そうだ。
あの世に逝く前に聞かせろよ。
陰陽、てめえが親父を殺した時の状況を」
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