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六章 一二三殺人事件
<日入 酉の刻> 孤独
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本宅の茶の間に八爪、孤独、
そして般若の面をつけた闇耳がいた。
「結局、二郎の奴、現れなかったな。
闇耳、お前二郎の分も食っていいぞ」
孤独が手の付けられていない膳を
恨めしそうに見てから呟いた。
「僕、お、腹、一、杯・・」
般若の面の下からくぐもった声がした。
「けっ、作り甲斐のねぇ野郎だぜ。
親父、明日の朝からは三人分で良いよな?」
「・・そうだな。
明日もお前が生きていればな」
八爪は「フフフ」と笑ってから
ゆっくりと湯呑を口に運んだ。
「へっ!
そんなこと言ってもいいのか、親父?
俺様がいねえと色々と不便だろ?」
孤独がニヤリと笑った。
しかし、
八爪はそんな孤独の発言をさらりと聞き流した。
孤独は「ちっ」と小さく舌打ちをすると
改めて口を開いた。
「それに親父だってわかってるだろ?
一槍斎の兄貴がいなくなった今、
結果は火を見るよりも明らかだ。
陰陽は不気味だが、
それでも正面からヤリ合えば
俺様に軍配が上がる。
二郎は力だけが取り柄で、
殺し合いには向いてねえ」
そこまで話して孤独は湯呑の茶をごくりと飲んだ。
それから闇耳を顎で指した。
「此奴に関しては言うまでもねえ」
「はっはっは・・言われてるぞ、闇耳」
八爪が闇耳へ視線を投げた。
「俺様がその気になれば、
此奴を殺すのは朝飯前だぜ。
それは此奴自身よくわかってるさ、なあ闇耳」
孤独が闇耳を睨み付けた。
「う、ん・・」
闇耳がこくりと頷いた。
「孤独、お前は狡賢く嫌な奴だ。
当然ながら命を懸けた争いでは
お前のような奴が最も力を発揮する。
そして狡賢く嫌な奴ほど世に憚る。
この世を牛耳っているのはそんな輩ばかりだ。
だからこそ、
この世から争いはなくならぬ。
儂らのような稼業の人間が
存在することこそがその証だ。
兎角、善人には住み難き世の中よ」
「ひっひっひ。
何が言いたいんだよ、親父」
「だがな。
それは一般論にすぎん。
夜霧の家ではそれは通じぬ。
それは夜霧の血が許さぬからだ。
策を弄し、姑息に生きる者に勝機はない。
・・儂にはお前が生き残る未来が見えぬ」
「けっ、どういうことだよ。
何なら今ここで此奴を殺ってもいいんだぜ」
孤独が懐に手を入れた。
「目の見えない此奴に
俺の攻撃をかわすことができるかな?」
どこかで雉鳩が「グーグーポッポー」と啼いた。
「孤独。
この本宅を血で汚すことは
儂が生きてるうちは許さんぞ」
八爪の眼がギラリと光った。
「へ、へへっ・・わかってるよ、親父。
冗談だよ」
孤独はバツが悪そうにツルツルの頭を撫でた。
太陽が山の向こうにその姿を消そうとしていた。
本宅の南の戸口から孤独が姿を現した。
孤独は一度大きく背伸びをしてから
「ペッ」と地面に唾を吐いた。
そして東回りに歩き出した。
しかし、すぐに足を止めた。
しばらくの間、
孤独はその場に佇んで卯の宅の方を
じっと窺っていた。
それから口を歪ませると舌なめずりをした。
そして般若の面をつけた闇耳がいた。
「結局、二郎の奴、現れなかったな。
闇耳、お前二郎の分も食っていいぞ」
孤独が手の付けられていない膳を
恨めしそうに見てから呟いた。
「僕、お、腹、一、杯・・」
般若の面の下からくぐもった声がした。
「けっ、作り甲斐のねぇ野郎だぜ。
親父、明日の朝からは三人分で良いよな?」
「・・そうだな。
明日もお前が生きていればな」
八爪は「フフフ」と笑ってから
ゆっくりと湯呑を口に運んだ。
「へっ!
そんなこと言ってもいいのか、親父?
俺様がいねえと色々と不便だろ?」
孤独がニヤリと笑った。
しかし、
八爪はそんな孤独の発言をさらりと聞き流した。
孤独は「ちっ」と小さく舌打ちをすると
改めて口を開いた。
「それに親父だってわかってるだろ?
一槍斎の兄貴がいなくなった今、
結果は火を見るよりも明らかだ。
陰陽は不気味だが、
それでも正面からヤリ合えば
俺様に軍配が上がる。
二郎は力だけが取り柄で、
殺し合いには向いてねえ」
そこまで話して孤独は湯呑の茶をごくりと飲んだ。
それから闇耳を顎で指した。
「此奴に関しては言うまでもねえ」
「はっはっは・・言われてるぞ、闇耳」
八爪が闇耳へ視線を投げた。
「俺様がその気になれば、
此奴を殺すのは朝飯前だぜ。
それは此奴自身よくわかってるさ、なあ闇耳」
孤独が闇耳を睨み付けた。
「う、ん・・」
闇耳がこくりと頷いた。
「孤独、お前は狡賢く嫌な奴だ。
当然ながら命を懸けた争いでは
お前のような奴が最も力を発揮する。
そして狡賢く嫌な奴ほど世に憚る。
この世を牛耳っているのはそんな輩ばかりだ。
だからこそ、
この世から争いはなくならぬ。
儂らのような稼業の人間が
存在することこそがその証だ。
兎角、善人には住み難き世の中よ」
「ひっひっひ。
何が言いたいんだよ、親父」
「だがな。
それは一般論にすぎん。
夜霧の家ではそれは通じぬ。
それは夜霧の血が許さぬからだ。
策を弄し、姑息に生きる者に勝機はない。
・・儂にはお前が生き残る未来が見えぬ」
「けっ、どういうことだよ。
何なら今ここで此奴を殺ってもいいんだぜ」
孤独が懐に手を入れた。
「目の見えない此奴に
俺の攻撃をかわすことができるかな?」
どこかで雉鳩が「グーグーポッポー」と啼いた。
「孤独。
この本宅を血で汚すことは
儂が生きてるうちは許さんぞ」
八爪の眼がギラリと光った。
「へ、へへっ・・わかってるよ、親父。
冗談だよ」
孤独はバツが悪そうにツルツルの頭を撫でた。
太陽が山の向こうにその姿を消そうとしていた。
本宅の南の戸口から孤独が姿を現した。
孤独は一度大きく背伸びをしてから
「ペッ」と地面に唾を吐いた。
そして東回りに歩き出した。
しかし、すぐに足を止めた。
しばらくの間、
孤独はその場に佇んで卯の宅の方を
じっと窺っていた。
それから口を歪ませると舌なめずりをした。
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