夜霧家の一族

Mr.M

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三章 そして二人いなくなった

<夜半 子の刻> 夜食

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美しくも悲しげな笛の音が妖しく響いていた。

雲間から月がひっそりと顔を出していた。

暗闇に包まれた夜霧の敷地に
灯りが一つ浮かんでいた。
子の宅の灯りだった。

対照的な体躯の二人の男が
囲炉裏を挟んで酒を酌み交わしていた。

「ったく。
 おめえは酒の味もわからねえのに
 飲み過ぎなんだよ」
孤独は文句を垂れながらも
空になった二郎の丼に酒を注いだ。
「オラは酒が大好きだど!」
ほんのりと頬が赤く染まった二郎が
あふれんばかりの笑顔で答えた。
「けっ。
 ま、いいか。
 今夜はおめえの為の特別な夜だ。
 こっちの方も残さずに全部食っていいんだぞ」
そう言って孤独は囲炉裏の鍋に野草を加えた。
「へへへ。兄ちゃん、今日は優しいど」
二郎は相好を崩すと焼けて色付いた肉の塊を
両手で掴んでかぶりついた。
「馬鹿野郎、俺様は何時だって優しいだろ」
孤独はそんな二郎を見て目を細めた。

外で蚊母鳥が「キュキュキュキュ」と啼いていた。

「ひっひっひ。
 それよりも二郎、気分が悪くねえか?」
「ん?オラ、気分は良いど?」
二郎は忙しく口を動かしながら適当に答えた。
「何かこう、
 胸のあたりが苦しいとか、
 頭が痛いとか、
 体が怠いとか、
 感じねえか?」
孤独がもう一度問いかけた。
「オラはこの通り元気一杯だど」
二郎はそう言って立ち上がると
孤独の体をヒョイと担ぎ上げた。

「ば、馬鹿、下ろせ!危ねえだろ!おい!」
孤独が手足をバタつかせて藻掻いた。
「それより兄ちゃん、オラもっと酒が飲みたいど」
暴れる孤独を肩に担いだまま
二郎は土間の隅に置かれた酒樽を指差した。
「ば、馬鹿野郎、あの酒樽の酒は特別なんだよ。
 おめえのように
 味のわからねえ奴に飲ますなんて
 猫に大判、いや豚に翡翠だぜ」
「今夜はオラの好きな物は
 何でも食わせてくれるって約束したど」
二郎は両手で孤独の体を頭上へ持ち上げると
地団太を踏んだ。

「わ、わかった!わかったから下ろせ!馬鹿!」
孤独が顔を真っ赤にして悲鳴を上げた。
二郎は畳の上に孤独を放り投げると
満面の笑みで酒樽へ向かって駆けていった。

孤独は尻を擦りながら
酒樽の前に立つ二郎の後姿を恨めしそうに睨んだ。
「けっ、
 自分の食べた物に
 遅効性の猛毒が入ってるとも知らずに
 能天気な奴だ。
 これがおめえの最後の夜食だ。
 せいぜい楽しめよ」
孤独はニヤリと口元を歪めると
湯呑の酒をグイっと煽った。
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