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序章 わろし・くらし
<夜半 子の刻> 相姦
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臣と呼ばれる地方に
里の者が決して立ち入ることのない山があった。
その山は嘗ては「天狗山」と呼ばれていた。
しかし、
長い歴史の中でその山の名前は
人々の記憶から消えていった。
ただ山だけが変わらずにそこに存在していた。
深山幽谷には
人ではない何かが住んでいると言われている。
「夜霧」
それがこの山に住む一族の名である。
夜霧の屋敷は山の奥深くにひっそりと建っていた。
屋敷の広大な敷地には本宅を中心として、
七つの別宅があった。
北には子の宅。
東には卯の宅。
南東に巽の宅。
南には午の宅。
南西に坤の宅。
西には酉の宅。
北西に乾の宅。
そして北東には
屋敷への出入り口である高麗門があった。
今、その門は固く閉ざされていた。
今宵は十三夜だった。
しかし今その月は雲に隠れていた。
濃い霧が夜霧の屋敷に立ち籠めていた。
ひっそりと静まり返った敷地の中、
灯りの消えた午の宅の床の間で
蠢く二つの影があった。
二つの影は密接に絡み合いながら、
時に激しく、時に静やかに、
不規則な動きを繰り返していた。
闇の中に荒い息遣いが聞こえていた。
その時、
雲間から射す月明かりが一瞬、
部屋の中を照らした。
二つの影は男と女だった。
二人は着物を身に付けていなかった。
生まれたままの姿で抱き合っていた。
女の肌は雪よりも白く、
男の肉体はまるで仁王像のように逞しかった。
男が女の柔らかな肌に顔を埋めると
女の手が男の大きな背中に纏わりついた。
男が力強く腰を動かすと、
女の口から喜悦の声が漏れた。
その声に反応するように
外で蚊母鳥が「キュキュキュキュ」と啼いていた。
いつの間にか
障子窓の隙間から流れ込んできた霧が
二人の体を包み込んでいた。
雲が月を完全に覆い隠し、
部屋に射していた月明かりが消えた。
ふたたび闇に包まれた部屋の中で
女の白い肌がほんのりと紅く染まっているのが
辛うじて確認できた。
ただ二人の荒い息遣いだけが
闇の中で不協和音を奏でていた。
里の者が決して立ち入ることのない山があった。
その山は嘗ては「天狗山」と呼ばれていた。
しかし、
長い歴史の中でその山の名前は
人々の記憶から消えていった。
ただ山だけが変わらずにそこに存在していた。
深山幽谷には
人ではない何かが住んでいると言われている。
「夜霧」
それがこの山に住む一族の名である。
夜霧の屋敷は山の奥深くにひっそりと建っていた。
屋敷の広大な敷地には本宅を中心として、
七つの別宅があった。
北には子の宅。
東には卯の宅。
南東に巽の宅。
南には午の宅。
南西に坤の宅。
西には酉の宅。
北西に乾の宅。
そして北東には
屋敷への出入り口である高麗門があった。
今、その門は固く閉ざされていた。
今宵は十三夜だった。
しかし今その月は雲に隠れていた。
濃い霧が夜霧の屋敷に立ち籠めていた。
ひっそりと静まり返った敷地の中、
灯りの消えた午の宅の床の間で
蠢く二つの影があった。
二つの影は密接に絡み合いながら、
時に激しく、時に静やかに、
不規則な動きを繰り返していた。
闇の中に荒い息遣いが聞こえていた。
その時、
雲間から射す月明かりが一瞬、
部屋の中を照らした。
二つの影は男と女だった。
二人は着物を身に付けていなかった。
生まれたままの姿で抱き合っていた。
女の肌は雪よりも白く、
男の肉体はまるで仁王像のように逞しかった。
男が女の柔らかな肌に顔を埋めると
女の手が男の大きな背中に纏わりついた。
男が力強く腰を動かすと、
女の口から喜悦の声が漏れた。
その声に反応するように
外で蚊母鳥が「キュキュキュキュ」と啼いていた。
いつの間にか
障子窓の隙間から流れ込んできた霧が
二人の体を包み込んでいた。
雲が月を完全に覆い隠し、
部屋に射していた月明かりが消えた。
ふたたび闇に包まれた部屋の中で
女の白い肌がほんのりと紅く染まっているのが
辛うじて確認できた。
ただ二人の荒い息遣いだけが
闇の中で不協和音を奏でていた。
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