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キッスは甘いイチゴ味(物理的) (2)

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その前に先週の話を補足しておくと、駅まで着くと「また連絡しますから」とお決まりの社交辞令にて連絡先を交換して解散した私達であった。
まあ向こうからは連絡などと来ないだろうし、勿論こちらから神山透へ連絡する気なども更々ない。


……と、高を括っていた私に「また連絡する」という言葉を有限実行するかのように、神山透から一日何通か写真と短いメッセージが届くようになったのは、週明け月曜日からのことだった。

どうやら神山透は東日本縦断でのお得意様行脚の真っ最中らしく、その土地土地の観光スポットや食べた名物の写真を送ってくる。
営業って大変そうだと思っていたが、仕事合間にこういうお楽しみもあるのならば、実はなかなか良いものなのかもしれない。

そして一方的に届く道中の写真が次第に楽しみになってきた4日目のこと。
「一周回って趣深いですよね、待ち受けにしようかな」とメッセージと共に、ある写真が送られてきたのだった。

それは、どこかでみたことがある女性の寝顔。
……画面一杯に写る、カメラのフラッシュを受けて眩しそうに眉間にシワを寄せる、鬼のごとく不機嫌な表情の、私の顔なのであった。

……ぎゃああああ!!!!
何これナニコレ?!何たるブサイク面!!
え?え?どういうこと?いや、あれだよね、これ先週ホテルで寝ていた時の写真だよね?
リベンジポルノは聞いたことあるけど、こういうのってなんていうの?リベンジ寝顔?(なんだそりゃ)
裸の写真じゃないにしても、こんな面構えの写真が全世界にバラまかれたら、別な意味で社会的に死んでしまう。
と、いうかこんな写真を神山透が持っていると思うだけでも充分死ねる。

こんな写真を神山透が撮影した意図が不明なら、それを送ってくる気持ちも全くわからない。慌てる私は取り急ぎどういうことだとメッセージを送るのだったが、イケメンからは詳細は先週のあの居酒屋で話をしようとの返信のみ。
そして私はその写真データを消去してもらうようお願いすべく急遽アポを取り付けると、週末の仕事終わり、やむなく先日のあの場所へとむかうことになったのであった。


「えーと、あの写真のことなんですけど」

席につくなり本題に入ろうとすると、神山透は私の唇に指を立て「まずは仕事終わりの乾杯でもしましょうよ。あ、でも今日はお酒はほどほどにしましょうね?」とにこやかに言う。

そうして薦められるまま、食べて飲んで、

「僕、山本さんが先生ぶっているところ、可愛くてちょっと偉そうで、好きですよ」

なんて言うイイ笑顔のイケメンに、またしてもうまいこと言いくるめられて、結局今回も私はホテルまでドナドナされてしまうのだった。

「だってあの写真でも餌にしないと、会ってくれなかったでしょう?全然連絡くれないから、ちょっとイジワルしちゃいました。」

手を繋ぎながらちょっと意地悪く、でもどこか拗ねたようにこちらを見つめるイケメンが可愛過ぎる。

えーなんなのこの子、実は私のこと好きなんじゃないの?
ついついそんな自分に都合の良い錯覚を覚えてしまう私である。

イジワルと言うにしてはインパクトがありすぎる写真だったが、まあそのことを追求するのは後でもいいや。
多分私よりも年上であった気はするが、このなんとも可愛らしいにこんなに求められるのでは仕方ない。
あーもう本当に仕方ないったら仕方ない。
よーしもう先生、がんばっちゃうよー!!
そう心の中で叫ぶと、私は今月2度目の腹をくくるのだった。

--

「じゃあ今日もルームナンバーさあこうにしましょうか。」

笑いながら先週の私のようなことを言って部屋を選んだ神山透と、例の315号室にて先週から通算2回目の先生と生徒ごっこのはじまりはじまり。

お題はイケメンの熱いご要望により先日と同じキスの話。

「さあて神山くん、キスとはどんなことをするのかお勉強する前に、まずはいつも君がしているキスの仕方を先生にしてみてくれるかな?」

「はい先生。宜しくお願いします」

自分で要望を出したくせに、神山透は照れた様子で微笑みながら私に近づくと、両手を私の肩に添えて、唇にそっと自身の唇を重ねてくる。
そしてその後で耳たぶを口に含み舌でねぶったり、首筋を食んだり舌で舐め取ったりと、壊れ物をそっと扱うように、またその存在を確かめるかのように、舌と唇を這わせてくるのだった。

唇、耳、首筋を熱心に行ったり来たり。優しく触れたかと思うと、たまにチュパッと音を鳴らして自分の痕跡を残そうとする独占欲も垣間見えたり、なんていうか、愛されていると勘違いしてしまいそうになってしまう。


う、わぁぁぁ

肌と一緒に心までざわめくような、ため息と共に不覚にも声が出そうになる、なんともときめくキスである。
ありゃ、私、こういうの、好き、かも。
体の内側が段々溶けたチョコレートのように甘くてトロトロしてくるのがわかる。


……が、酸いも甘いも知り尽くす大人のおねーさまがたが望んでいるキスは多分これじゃないような、気も、する。
  

「えーとえーと、神山くん?先生はこれでも十分素敵なんですけど、世の中の女性はこれだけでは足りないのかもしれませんね。」
「山本さんが良いというなら、それだけで十分僕は満足ですけれど?」

このままだと床に溶けて崩れ落ちてしまいそうなる私は神山透から慌てて体を引き離すが、イケメンは評価が不服なのか、なんとも不貞腐れた顔をする。

いやいやそれじゃ将来の君の為になりませんよ?
悪態をつく不良生徒に勉強・知識の大事さを教える生徒指導の先生みたいに、私はイケメンを説得するのであった。

それでは次の講義、始めまーす。
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