魔法少女、派遣します!

椎茸大使

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第1話

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「暇だ~。」
「そうは言っても仕事がないんだからどうしようもないでしょ。」
「そんなの知らないよ~。あー、暇暇暇暇暇暇暇暇ーー!!  こんなんじゃカビ生えちゃうよ~。」
「そんなに暇だと言うのなら鍛錬でもしてはどうですの?  我々力ある者は無辜の民を救うべく、いついかなる時もその時に備え、日々鍛錬をしなくてはならないのですから。」
「やだよめんどくさい。私はお嬢みたいな訓練バカじゃないもーん。」
「なっ!?  わ、私を訓練バカなんて呼ばないでください!」
「えー、でも~、50キロのダンベルで筋トレするお嬢様はどうかと思うけどな~?」
「ふふっ。確かに、おかしいわね。」
「湊まで言いますの!?」

ここはヒーロー派遣会社、メイガストヒロイン。
魔法少女専門のヒーロー会社である。
しかしその実態は所属ヒーロー4人の弱小ヒーロー会社である。
先ほどの3人もメイガストヒロインに所属するヒーローだ。
3人組ヒーロー「トライエレメンツ」というユニットを組んでいる。

最初に暇だと言ったのは西園寺由那。
風を操る魔法少女で天然の茶髪をサイドアップにしている15歳の中学生。
胸部装甲はかなり薄い。

湊と呼ばれた少女は篠宮湊という名で由那のクラスメイトの14歳。
操るのは雷。
黒髪ロングの清楚系正統派美少女。
胸部装甲は大きめであり同級生の興味の対象。

最後にお嬢。
彼女は光島火乃香。
世界の光島と言えるレベルの世界有数の企業グループの三女という本物のお嬢様だ。
金髪ロングに青い瞳だが、見た目がお嬢様っぽいからそう呼ばれてるのではない。
操るのは火。
歳は15。
胸部装甲は圧巻の一言。
FかGはあるだろう。

そんな3人は火乃香の叔父が理事長をしている小中高一貫校に通っている。

そして、事務所所属のヒーローはもう1人いるが、現在はお仕事の為にここにはいない。

「みんな、仕事よ!」
「え、何々?」

突然事務所の扉を開けて駆け込んできてくつろいでいた2人と筋トレ中のお嬢様に声をかけてきたのはこの事務所の社長兼マネージャー兼プロデューサー兼事務員の鋼日小夜。
鋼の名を冠しているもののその精神は意外と弱いぞ。

「それで、どんな仕事ですの!?  怪人ですか、妖怪ですか、魔獣ですか?」
「………………ごめん、ヒーローショーの演出です。」
「……またですの?」
「ははは……ヒーローなのにヒーローショーの演出ってどうよ……?  私達、ヒーローなのに紛い物の引き立て役って……ウケる~……」

ヒーロー事務所なんて言っても、これが現実。
確かに、一昔前では存在自体信じられていなかったエネミーが現れ、それに対抗するように超常の能力を持った者達が生まれ、ロボット工学が飛躍的に進歩したが、大勢のヒーローが毎日出動する程エネミーが現れるわけではない。
必然的に実力のある者や知名度の高い者がエネミーと戦うことになり、彼女達のような弱小ヒーロー事務所に所属するヒーローにはエネミー戦闘の要請なんてそうそう来ないのだ。
つまり、彼女達に与えられる仕事の大半はバイトなのだ。
報酬をくれる側もバイト代って言ってくるしね。

「仕事があるだけマシでしょ。ほら、早く準備して。」
「「は~い。」」

これがいつもの風景。
仕事がなく、偶に仕事が来ても2人が文句を言い、それを湊がまとめる。
そうしたやりとりを行なって仕事に向かうのだ。



「猛れ、炎よ!」
「吹き荒れろ、風よ!」
「「合体必殺奥義!  暴風烈覇豪炎砲!」
「ぐううう、こ、こんなはずではーーーー!!!!」
「「正義の前に、悪は滅ぶ!」」

「「「「ワァーーーー!!!!」」」」

ここはとある遊園地の一角で、現在は日曜朝とかにやってる感じの魔法少女もののヒーローショーが行われている。
そして我等がトライエレメンツはそれぞれが得意とする魔法でショーの演出をしていた。
風を起こし、火花を散らし、雷鳴轟かせる。
由那は元不良のツンデレ魔法少女の演出を、火乃香は天真爛漫な天然魔法少女の演出を、湊は敵の出現時のピカッドーンってなる雷と各種機材の電力担当だ。

トライエレメンツのバイト代は内容問わず1時間一律一万五千円(エネミー退治は別)だ。
なんでもやって少しでも知名度を上げようという考えなのだが、内容問わずのお陰で湊は毎回電力を供給してる。
ヒーローショーを行う側は各種機材を動かすためのお高い電気代が安くすみ、遊園地側は毎週末にヒーローショーをやってもらえてショー目的の客が増える。
どちらかが損をすることのないwin-winの関係だ。(ただしそこに湊は含まれない。)

「いつもありがとねー。はいこれ、バイト代。」
「ありがとうございます。」
「後これも。遊園地からだけど、フリーパス。いつもお世話になっているからってんで3人に。」
「わー、いいんですか?」
「俺らも渡してくれって言われただけだし、どうせ今日しか使えないんだから素直に貰っとけば?」
「そういうことなら。あと、ありがとうございますって伝えておいてくれませんか?」
「お安い御用さ。」

彼女達は女子中学生だ。
遊園地をタダで遊べるなんていうのは、会社に入るお金を除いた残りを三等分した報酬よりも魅力的に映る。
お嬢様でない由那や湊は特に。
火乃香にしても、家のこともあり友人と気軽に遊びに行けないので、こういう機会は大歓迎なのだ。
地味な仕事を健気に頑張る若い子達にという差し入れ(あわよくばいい関係になれればという下心あり。)を受け取ってから3人は遊園地へと繰り出した。


「さ、どれに乗りますか?」
「うーん。やっぱり最初はアレかな?」
「ちょっ、私はジェットコースター苦手っていつも言ってるでしょ!」
「え~。でも遊園地に来てジェットコースターに乗らないってあり得ないよ。」
「ジェットコースター……あれが。私、初めて乗りますわ。」
「ほら~、お嬢もこう言ってるし。それにお嬢のこの顔を見ても嫌って言える?」
「うっ……」

目をキラキラとさせて上目遣いで湊を見る火乃香。
火乃香必殺のお願いパパだ。
これを使えばたとえ光島グループ社長でもデレデレとしてなんでも買ってくれるのだ。
最近買ってもらった物はメイガストヒロインからの移動用リムジンで由那と湊と一緒に移動する為のものだ。
そしてお願いパパは父親だけでなく親しい人間にも効果がある。

「わ、分かったわよ。乗ってやろうじゃないの!  ジェットコースターだろうが海賊船だろうがなんでも来いよ!」
「おっ!  言ったね~。じゃあ、絶叫系フルコースで行っちゃおー!」
「えっ!?  ふ、フルコース?  いや、あの、もう少し穏便なのとか、さ、他にもあるよね?  そんなに、乗る必要って、あるかな?」
「さ、行きますわよ、湊。」
「休憩とか挟んでよね!  というか、まだ心の準備が……お願いだからもう少し待ってってばーーーーー!!!」

由那と火乃香に腕を掴まれ強制的に連れてかれ、叫ぶ湊。
まだ絶叫系に乗ってないのに叫ぶとは、不思議なこともあるもんだ。

最初に乗ったのはアビスゲート。
世界初となるシートベルトと手足の拘束具を搭載したジェットコースター。
垂直ループにコークスクリューを加えた超遠心力に連続高速カーブ、日本最大の高低差で最初登ったと思ったらいきなり地下トンネルへと突入する。
アビスとは深淵や地の底、地獄を意味しており全身を拘束され悲鳴をあげながら地の底へと向かう様は、アビスゲートの名に偽りなしといったところ。
ちなみに、この遊園地で一番怖いやつ。

これの対となるのはヘブンズゲート。
ぱっと見はただのフリーフォールだが、実態は少々異なる。
光島グループが開発したばかりの超高速上昇装置が導入されており、上昇速度が世界一で、むしろ落下速度よりも速いと噂。
中間部と最上部の間が螺旋状になっているので更に恐怖を掻き立てる。
遠心力によって投げ出された人の足が描く残像は、さながら天使の円環のようである。
と、開発部長が言っていた。
当時は夏だったので白っぽく見えたが、冬だと堕天使の円環に見えたりもする。

この二つを続けて乗った湊は超グロッキーだった。
ベンチの背もたれに身を預け、大きめのお胸を見せつけるような格好になっている。
本人は気づいていない。
そんなことを気にしてる余裕がないのだ。

流石にやりすぎたと思った火乃香は飲み物を買いに走り、由那はそよ風を起こして介抱している。
そんな2人の元に一見してチャラい、そして中身もチャラい5人組が近づいて来た。
その視線は湊の胸に注がれている。
ゲスい事を考えているのは一目瞭然でそれを見た由那は不快感を前面に出した。
だがな、由那。
チャラ男達は由那の事なんて全く眼中にないぞ。

「よー、大丈夫かねぇちゃん。俺達よ、近くに休めるとこ知ってんだ。そこに連れてってやるよ。」
「なんも怖いことなんかねぇから。むしろ気持ちいい?」
「そうそう。天国見せてやるぜ。」

こいつらは馬鹿なんだろうか?
いや、馬鹿なのだろう。
一番近い休めるところなんて救護室だし、そもそも中学生に声をかける時点で問題だ。

「何、あんた達。湊は見ての通り具合が悪いの。だからさっさとどっか行ってくんない?」
「だから休めるところに連れてってやるって言ってんだ。それにお前も………結構物足りないが、ちゃんともてなしてやっからよ。」
「結構、だと?  ふざけんな!  私はね、成長途中なの!  まだまだ色々と大きくなるんだから!  それに、今時そんな時代遅れの言い方でついてく馬鹿いるわけないでしょ。この馬鹿!」
「なんだと?  こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって。」
「下手?  あれが下手ってどんだけ馬鹿なのよ。どう見たって下心丸出しじゃない。」
「この、いいから来いっつってんだ!  おい、お前ら、一気に行くぞ!」
「「「おう!」」」

先頭に立って話していたチャラ男Aが由那の腕を強引に取り、引っ張っていこうとする。
しかし、ビクともしない。
超常の力に目覚めた者とそうでない者。
その力の差は火を見るよりも明らか。

「暴行及び、誘拐の意思を確認。これより、ヒーロー規定に基づきあんたらを逮捕します。」
「なっ!?  ひ、ヒーローだと!?」

由那は自身の風の力を解放する。
由那を中心に風が吹き荒れ、チャラ男A、B、C、D、Eは風に飛ばされないよう踏ん張る事しか出来なくなった。
そしてチャラ男Cが目にしたものとは……………………風でスカートがたなびき、あらわとなった真っ白な脚とベージュの短パンだった。

「色気ねー。」

ブチッと、由那がキレた。

「あんたらみたいのがいるから履いてんでしょうが!」

風の性質上どうしてもスカートがめくれてしまう。
しかし、彼女は女子中学生。
学校に通う義務があり、制服を着用しなければならない。
となれば必然的にスカートでお仕事ということもある。
学校指定のジャージという選択肢もあるにはあるが、通っている学校の制服は可愛いいのにそんなダサい格好出来るわけがないと悩んだ。
そして思いついたのが、某ビリビリ中学生のような短パンを履く事だった。
現在は私服なれど、常在戦場の心得で短パンを履いている。
習慣とも言う。

「エアリアル・アーツ!」

風を両手足に纏い、風を用いて上下左右縦横無尽に動き回り戦う技法。
今回は相手がエネミーではないので風は纏わせず、三次元機動で接近し拳打にて意識を刈り取った。

「ふぅ。あー、スッキリした!」

ヒーローによる理由なき力の行使は法律によって禁じられている。
しかし、人命救助、エネミー退治、犯罪者の確保といった正当な理由での行使は認められている。
今回のような正当防衛もまた正当な理由として認められる。
だけど、「スッキリした!」は、無いだろう。

「これは一体、何事ですの?」
「あ、お嬢。ただ単に時代遅れなナンパが暴力を振りかざしてきたから返り討ちにしただけ。」
「そうですか。」
「大体、私はまだ成長途中なのに、色気ないとか!  酷いよね!?」
「そうですわね。由奈はとっても可愛らしい女の子ですわ。それなのに色気ないとは、酷いですわね。」
「ちょっ、どこ触って……んっ……あっ。」

由那と火乃香がいちゃついている。
火乃香は若干レズっ気があるが普通に男の子が好き…………な筈。
そうしていると野次馬が従業員を呼んできてくれた。
火乃香にしたのと同じ説明を由那はする。
その際に自身がヒーローである事も忘れずに伝えた。
ヒーローでないなら過剰防衛でチンピラと一緒に豚箱行きになっちゃうから。
説明を終えると事務所へと引っ張られるトライエレメンツと連行されるチンピラ達。
そこで警察を待つ。
ヒーローが出張った以上警察に引き渡さないといけない。
果たして、どれだけ遊ぶ時間が残るのか。
トライエレメンツはそればかりを気にしていた。
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