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無力さを感じて
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~百合視点~
巣の場所を特定して、内部へと通ずる洞穴の前に陣取って追い立てられて逃げてくるマッドラットを倒す。
想定通りにことは進んでいたし、大きな個体や亜種なんかが出てきても臨機応変に対処出来ていた。
順調だった。
でも、その順調だった流れは1匹のマッドラットが進化したことで大きく変わることになる。
最初は視界の隅に何か黒いものが動いている程度で、ただ臆病な個体が逃げ惑っているのだと思っていた。
でもそれは違ったようで、突然そいつは嫌な音を立てながら膨れ上がっていって巨大な体になり、首から生えている触手が周囲の死体を飲み込んでいく。
「……暴食」
触手だけでなく自分の口で足元に転がっていた死体に食らいついた姿を見て、その言葉が口からこぼれた。
確か、七つの大罪だったかな?
罪につながる七つの欲望とかそんなの。
そのうちの一つが暴食。
今のあの魔物はその暴食の化身のように見える。
「ぐ、ぐぐ、しょ、所詮はマッドラットだろ!」
「馬鹿! 止せ!」
「うらぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ーーバクンッ!!
自分を奮い立たせるためか、それとも恐怖した自分を認められなかったのか……それはわからないけど、攻撃をしようとした冒険者の1人が触手に呑み込まれた。
冒険者がそこにいるだろう膨らみがゆっくりと喉元に向かっていき、そして、膨らみがなくなった。
『カハァァァ……』
「「「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
「お、おい!?」
「お前ら落ち着け!」
「ちょ、待っ……」
恐怖は伝播し、ランクの低い冒険者達は散り散りに逃げていく。
ランクの高い、前方で大型の個体や亜種の相手をしていた冒険者達は踏んできた場数が違うのだろう。
落ち着くように周囲に呼びかけているが、恐怖に支配されている人達にはその声は届いていないようだった。
「ちぃっ! 仕方ねぇ。俺らだけで食い止めるぞ!」
「おおっ!」
「やるしかねぇか……」
本来なら私も、周りの人達と同じように怯え慄き、逃げ出していると思うのに、何故か不思議と恐怖を感じていない。
以前襲われた蜘蛛の魔物の方が恐ろしい魔物だったのだろうか……?
ううん。
多分違う。
私の力ではたとえ逆立ちしたとしてもどちらにも遠く及ばないだろうし、恐ろしさにそう差はないはず。
それでも恐怖を感じていない理由はきっと……。
『ヂュオオオオオオオオ!!』
「しまっ!?」
ーーズバンッ!!
進化したマッドラットと戦ってくれていたランクの高い冒険者達だったが、進化によって跳ね上がった戦闘力は予想以上だったようで、大きな隙を晒してしまった瞬間を狙って触手が伸ばされる。
また1人飲み込まれると思った時、空から降ってきた不可視の刃によって冒険者を狙っていた触手は斬り飛ばされていた。
突然の出来事に唖然とする冒険者達。
「羽根……?」
そんな冒険者達の前に羽根がはらりはらりと舞い落ち、その羽根の持ち主を知る為に顔を上げてみればそこには、陽光を反射して眩く煌めく長い銀髪に、汚れひとつない真っ白な翼、異性である男性はもちろん、同性であっても見惚れさせられる完成された美の化身の如き容姿、そんな中であっても一際強く存在感を放つ真紅の瞳を持ったハルピュイアが空に佇んでいた。
髪の色どころか種族さえも違うのに、このハルピュイアが誰なのか、容易に理解出来る。
超をいくらでもつけられる程のど変態だけど、私達のことを何よりも大事にしてくれる優しくてちょっとカッコ悪くて、とてもかっこいい女の子。
また、助けられちゃったな。
「ミハネ、そこの男達だが……どう思う?」
「ふふっ……論外かと」
「だろうな。多少デカくなろうと所詮はネズミであろうに、あのような無様を晒すようではおもちゃにすらならんだろう……」
「ですが……」
「ああ。あのネズミは中々に食い出がありそうだし、子供達への土産には丁度いいだろう」
レンちゃんの周りにハーピィやハルピュイアが集まり、その中でも特に存在感の強いハルピュイアが側に侍り、問いかけに応じている。
多分あれが以前どこかで話していたハルピュイアの支配者なのだろう。
「さて、子供達を待たせるのも悪いし、サクッと倒して持ち帰るとしよう。ミハネ、それにみんなも、手出し無用だよ。あれは私がやる」
「なっ、そんなレ……ふむっ♡」
「おっと、そんなに声を荒げるなよ。身を案じてくれるのは嬉しいが、あの程度でどうにかなるはずがなかろう? それに、たまにはお前達にかっこいいところを魅せたいんだよ。だから、今は黙って見守ってておくれ」
「……はい♡」
……は?
何あれ?
あんなことする必要ある?
なんでこの状況でそんないちゃついてるの?
今結構危険な状態なんですけど?
それなのになんでそんな、唇に指つけていちゃつくのさ?
なんで私はあんなのを見せつけられなきゃいけないの?
ねぇ、なんで?
「さて、どこからでもかかっていていいよ、ネズミ君」
地面に降り立って挑発したレンちゃんにいつの間にか再生していた無数の触手が襲いかかる。
左の拳で弾き、右の掌底で殴り、膝蹴りで打ち上げ、翼ではたき落とし、回し蹴りでちぎり飛ばす。
私の目にはほとんど同時に襲いかかってきてるように見えるけど、きっとレンちゃんにはどの触手が早く到達するのかどうか分かるのだろう。
そして自分に近づいてくる順番に、手で、脚で、翼で、澱みなく流れるようにして迎撃していく。
「あっ、おっ、うおおおおおお!」
「みえ……」
「おおっ!」
なんか、うるさいな。
最初はその滑らかな身のこなしに感心してるのかと思ったけど、レンちゃんが蹴り技を繰り出す度に声を上げているような……あっ!?
レンちゃんはトーガのような布を全身に巻きつけただけのような格好をしている。
そんな状態で足を上げる蹴り技を放てば当然、中身が見える。
しかもあの子、ハルピュイアに扮しているという都合上なのか拘りなのか分からないけど、パンツも履いていないようで、隠す布がないのだから当然隠されるべき場所も丸見えになってる。
変化していてもツルツルだった。
「身体も温まってきた事だ。そろそろこちらから行くぞ」
ーードンッ!
しばらく迎撃をしていたレンちゃんがそう言って一歩踏み込んだ。
たった一歩。
それだけで地面が爆ぜてレンちゃんは進化種の懐に。
「はぁっ!」
ーードゴォッ!
『ゴォっ!?』
レンちゃんのアッパーで進化種の巨体が浮き上がる。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ーーズドドドドドドドドド
『オッ、ヂュッ、ゴッ、ゴォっ!?』
浮き上がった身体が落ちないように連打を浴びせかけ、途中苦し紛れに襲いかかる触手は不可視の斬撃で切断されて反撃は意味をなさない。
ん?
ちょっと待って……。
あれって、まさか……?
「オラァッ!」
『ゴボォっ!?』
レンちゃんが思いっきり蹴り上げると口元からチラリと見えていたものを吐き出しながら高く打ち上げられる。
吐き出されたものを気にした様子もなくレンちゃんは飛び上がって追いかけていく。
「おい、大丈夫か!?」
「これは……酷いな」
「だけど、まだ生きてる」
「だな。おい、誰かポーション持ってないか?」
「待て待て。まずはここから離さねーと」
「ああ、そうだな」
「こっち! ポーションもあるから!」
「分かった!」
吐き出されたのはさっき触手に飲み込まれた冒険者。
そのまま胃に送られていたようで服や防具は所々溶かされ、顔や手足が爛れている。
でも、息はあるみたい。
「ルセアちゃん! 水出して! 出来るだけたくさん! まずは胃液を流さないと! 皆さんも運んだらまずは水で手を洗い流してください!」
確か酸性の液体をを浴びたらまずは水で洗い流すのよね?
塩酸とか硫酸とかじゃないけど、胃液なら多分酸性だろうし。
というか、アルカリ性でもとりあえず洗い流すでいいはず。
「ハイネは拭くための布とか着替えられるものがないか聞いてきて」
「分かった」
運ばれてきた人の装備は胃酸で溶かされてボロボロなので手で簡単に裂くことが出来る。
服に胃酸が染みていて触れるだけで痛むけど、そんなのを気にしている暇はない。
どうせ後で治せるし今は早さを最優先。
そうして下着状態にしたところで大量の水で洗い流してもらう。
ーードォンッ!!
「うわっ!?」
大きな音がしてそちらを見れば進化種の巨体が落ちてきていて、そこにレンちゃんが降り立つ。
「ふん……たわいない。さて、帰るぞ」
「はい!」
そう言うとレンちゃんは進化種を掴んでそのまま空へと飛んでいった。
それ持って飛べるんだ……。
と、それは置いといて。
「爛れているところにポーションをお願いします」
「ああ。ところで、こっちはいいのか?」
「え、あー、その、可能であれば確認、お願いします……」
「おう。……こっちは大丈夫そうだな。皮被ってるの以外は」
「そういう報告はしなくていいですから!」
露出して胃酸に多く触れていたであろう顔と手はかなり酷かったが、ポーションのおかげであらかた治ったと思う。
防具のあったところはそんなに染みてなかったのか少し荒れる程度で、布地のみの箇所は所々ただれるといった感じでそれらも治っている。
髪の毛は流石にどうにもならなかったようで、落武者みたいになっているけど、命があるだけマシだと思ってもらうしかないだろう。
「うっ……」
「気が付きましたか……?」
「ここは……」
「巣穴の前だ。お前、丸呑みにされてたんだが、運良く吐き出されて助かったんだよ」
「その声は……っていうか、あれ……目が、何も、見えない……おい、ロッドン、そこにいるんだよな……?」
「なん、だと……!? おい、治るんじゃなかったのかよ!?」
「ちょ、ちょっとあんた、流石に暴力は!」
「あ……その、流石に手持ちの奴では、失明までは……無理だった、ようで……多分、飲み込まれた際に、目の隙間から、胃酸が入り込んで、それで……」
「くそぉっ!?」
この人の仲間だったらしい男の人は掴んでいた私の服を乱暴に離すと、そのまま地面を殴りつける。
そんな姿をただ眺めることしか出来なかった。
さっきまではなんとかなったという安堵感が漂っていたのに、今ここにあるのはどうしようも出来ない無力感。
この手の痛みが、自分の無力さの証明のような気がして、今すぐ治して消し去りたくなった。
巣の場所を特定して、内部へと通ずる洞穴の前に陣取って追い立てられて逃げてくるマッドラットを倒す。
想定通りにことは進んでいたし、大きな個体や亜種なんかが出てきても臨機応変に対処出来ていた。
順調だった。
でも、その順調だった流れは1匹のマッドラットが進化したことで大きく変わることになる。
最初は視界の隅に何か黒いものが動いている程度で、ただ臆病な個体が逃げ惑っているのだと思っていた。
でもそれは違ったようで、突然そいつは嫌な音を立てながら膨れ上がっていって巨大な体になり、首から生えている触手が周囲の死体を飲み込んでいく。
「……暴食」
触手だけでなく自分の口で足元に転がっていた死体に食らいついた姿を見て、その言葉が口からこぼれた。
確か、七つの大罪だったかな?
罪につながる七つの欲望とかそんなの。
そのうちの一つが暴食。
今のあの魔物はその暴食の化身のように見える。
「ぐ、ぐぐ、しょ、所詮はマッドラットだろ!」
「馬鹿! 止せ!」
「うらぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ーーバクンッ!!
自分を奮い立たせるためか、それとも恐怖した自分を認められなかったのか……それはわからないけど、攻撃をしようとした冒険者の1人が触手に呑み込まれた。
冒険者がそこにいるだろう膨らみがゆっくりと喉元に向かっていき、そして、膨らみがなくなった。
『カハァァァ……』
「「「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
「お、おい!?」
「お前ら落ち着け!」
「ちょ、待っ……」
恐怖は伝播し、ランクの低い冒険者達は散り散りに逃げていく。
ランクの高い、前方で大型の個体や亜種の相手をしていた冒険者達は踏んできた場数が違うのだろう。
落ち着くように周囲に呼びかけているが、恐怖に支配されている人達にはその声は届いていないようだった。
「ちぃっ! 仕方ねぇ。俺らだけで食い止めるぞ!」
「おおっ!」
「やるしかねぇか……」
本来なら私も、周りの人達と同じように怯え慄き、逃げ出していると思うのに、何故か不思議と恐怖を感じていない。
以前襲われた蜘蛛の魔物の方が恐ろしい魔物だったのだろうか……?
ううん。
多分違う。
私の力ではたとえ逆立ちしたとしてもどちらにも遠く及ばないだろうし、恐ろしさにそう差はないはず。
それでも恐怖を感じていない理由はきっと……。
『ヂュオオオオオオオオ!!』
「しまっ!?」
ーーズバンッ!!
進化したマッドラットと戦ってくれていたランクの高い冒険者達だったが、進化によって跳ね上がった戦闘力は予想以上だったようで、大きな隙を晒してしまった瞬間を狙って触手が伸ばされる。
また1人飲み込まれると思った時、空から降ってきた不可視の刃によって冒険者を狙っていた触手は斬り飛ばされていた。
突然の出来事に唖然とする冒険者達。
「羽根……?」
そんな冒険者達の前に羽根がはらりはらりと舞い落ち、その羽根の持ち主を知る為に顔を上げてみればそこには、陽光を反射して眩く煌めく長い銀髪に、汚れひとつない真っ白な翼、異性である男性はもちろん、同性であっても見惚れさせられる完成された美の化身の如き容姿、そんな中であっても一際強く存在感を放つ真紅の瞳を持ったハルピュイアが空に佇んでいた。
髪の色どころか種族さえも違うのに、このハルピュイアが誰なのか、容易に理解出来る。
超をいくらでもつけられる程のど変態だけど、私達のことを何よりも大事にしてくれる優しくてちょっとカッコ悪くて、とてもかっこいい女の子。
また、助けられちゃったな。
「ミハネ、そこの男達だが……どう思う?」
「ふふっ……論外かと」
「だろうな。多少デカくなろうと所詮はネズミであろうに、あのような無様を晒すようではおもちゃにすらならんだろう……」
「ですが……」
「ああ。あのネズミは中々に食い出がありそうだし、子供達への土産には丁度いいだろう」
レンちゃんの周りにハーピィやハルピュイアが集まり、その中でも特に存在感の強いハルピュイアが側に侍り、問いかけに応じている。
多分あれが以前どこかで話していたハルピュイアの支配者なのだろう。
「さて、子供達を待たせるのも悪いし、サクッと倒して持ち帰るとしよう。ミハネ、それにみんなも、手出し無用だよ。あれは私がやる」
「なっ、そんなレ……ふむっ♡」
「おっと、そんなに声を荒げるなよ。身を案じてくれるのは嬉しいが、あの程度でどうにかなるはずがなかろう? それに、たまにはお前達にかっこいいところを魅せたいんだよ。だから、今は黙って見守ってておくれ」
「……はい♡」
……は?
何あれ?
あんなことする必要ある?
なんでこの状況でそんないちゃついてるの?
今結構危険な状態なんですけど?
それなのになんでそんな、唇に指つけていちゃつくのさ?
なんで私はあんなのを見せつけられなきゃいけないの?
ねぇ、なんで?
「さて、どこからでもかかっていていいよ、ネズミ君」
地面に降り立って挑発したレンちゃんにいつの間にか再生していた無数の触手が襲いかかる。
左の拳で弾き、右の掌底で殴り、膝蹴りで打ち上げ、翼ではたき落とし、回し蹴りでちぎり飛ばす。
私の目にはほとんど同時に襲いかかってきてるように見えるけど、きっとレンちゃんにはどの触手が早く到達するのかどうか分かるのだろう。
そして自分に近づいてくる順番に、手で、脚で、翼で、澱みなく流れるようにして迎撃していく。
「あっ、おっ、うおおおおおお!」
「みえ……」
「おおっ!」
なんか、うるさいな。
最初はその滑らかな身のこなしに感心してるのかと思ったけど、レンちゃんが蹴り技を繰り出す度に声を上げているような……あっ!?
レンちゃんはトーガのような布を全身に巻きつけただけのような格好をしている。
そんな状態で足を上げる蹴り技を放てば当然、中身が見える。
しかもあの子、ハルピュイアに扮しているという都合上なのか拘りなのか分からないけど、パンツも履いていないようで、隠す布がないのだから当然隠されるべき場所も丸見えになってる。
変化していてもツルツルだった。
「身体も温まってきた事だ。そろそろこちらから行くぞ」
ーードンッ!
しばらく迎撃をしていたレンちゃんがそう言って一歩踏み込んだ。
たった一歩。
それだけで地面が爆ぜてレンちゃんは進化種の懐に。
「はぁっ!」
ーードゴォッ!
『ゴォっ!?』
レンちゃんのアッパーで進化種の巨体が浮き上がる。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ーーズドドドドドドドドド
『オッ、ヂュッ、ゴッ、ゴォっ!?』
浮き上がった身体が落ちないように連打を浴びせかけ、途中苦し紛れに襲いかかる触手は不可視の斬撃で切断されて反撃は意味をなさない。
ん?
ちょっと待って……。
あれって、まさか……?
「オラァッ!」
『ゴボォっ!?』
レンちゃんが思いっきり蹴り上げると口元からチラリと見えていたものを吐き出しながら高く打ち上げられる。
吐き出されたものを気にした様子もなくレンちゃんは飛び上がって追いかけていく。
「おい、大丈夫か!?」
「これは……酷いな」
「だけど、まだ生きてる」
「だな。おい、誰かポーション持ってないか?」
「待て待て。まずはここから離さねーと」
「ああ、そうだな」
「こっち! ポーションもあるから!」
「分かった!」
吐き出されたのはさっき触手に飲み込まれた冒険者。
そのまま胃に送られていたようで服や防具は所々溶かされ、顔や手足が爛れている。
でも、息はあるみたい。
「ルセアちゃん! 水出して! 出来るだけたくさん! まずは胃液を流さないと! 皆さんも運んだらまずは水で手を洗い流してください!」
確か酸性の液体をを浴びたらまずは水で洗い流すのよね?
塩酸とか硫酸とかじゃないけど、胃液なら多分酸性だろうし。
というか、アルカリ性でもとりあえず洗い流すでいいはず。
「ハイネは拭くための布とか着替えられるものがないか聞いてきて」
「分かった」
運ばれてきた人の装備は胃酸で溶かされてボロボロなので手で簡単に裂くことが出来る。
服に胃酸が染みていて触れるだけで痛むけど、そんなのを気にしている暇はない。
どうせ後で治せるし今は早さを最優先。
そうして下着状態にしたところで大量の水で洗い流してもらう。
ーードォンッ!!
「うわっ!?」
大きな音がしてそちらを見れば進化種の巨体が落ちてきていて、そこにレンちゃんが降り立つ。
「ふん……たわいない。さて、帰るぞ」
「はい!」
そう言うとレンちゃんは進化種を掴んでそのまま空へと飛んでいった。
それ持って飛べるんだ……。
と、それは置いといて。
「爛れているところにポーションをお願いします」
「ああ。ところで、こっちはいいのか?」
「え、あー、その、可能であれば確認、お願いします……」
「おう。……こっちは大丈夫そうだな。皮被ってるの以外は」
「そういう報告はしなくていいですから!」
露出して胃酸に多く触れていたであろう顔と手はかなり酷かったが、ポーションのおかげであらかた治ったと思う。
防具のあったところはそんなに染みてなかったのか少し荒れる程度で、布地のみの箇所は所々ただれるといった感じでそれらも治っている。
髪の毛は流石にどうにもならなかったようで、落武者みたいになっているけど、命があるだけマシだと思ってもらうしかないだろう。
「うっ……」
「気が付きましたか……?」
「ここは……」
「巣穴の前だ。お前、丸呑みにされてたんだが、運良く吐き出されて助かったんだよ」
「その声は……っていうか、あれ……目が、何も、見えない……おい、ロッドン、そこにいるんだよな……?」
「なん、だと……!? おい、治るんじゃなかったのかよ!?」
「ちょ、ちょっとあんた、流石に暴力は!」
「あ……その、流石に手持ちの奴では、失明までは……無理だった、ようで……多分、飲み込まれた際に、目の隙間から、胃酸が入り込んで、それで……」
「くそぉっ!?」
この人の仲間だったらしい男の人は掴んでいた私の服を乱暴に離すと、そのまま地面を殴りつける。
そんな姿をただ眺めることしか出来なかった。
さっきまではなんとかなったという安堵感が漂っていたのに、今ここにあるのはどうしようも出来ない無力感。
この手の痛みが、自分の無力さの証明のような気がして、今すぐ治して消し去りたくなった。
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