57 / 130
お嬢様が起きました
しおりを挟む いつものように、患者のこない診療所の待合室でゆったりとコーヒーを飲んでいると、珍しいことに診療所の扉が外から開いた。
もしかしたら誰かの紹介で、新規の利用者がやってきたのかと思っていたら、洗濯カゴを持ったニュウだったので、
「何でそっから入ってくるのよ?」
と、いつもは診療所の裏手から入ってくる彼女の行動に珍妙さを感じて言葉を発したが、にんまりと笑顔を浮かべる彼女の背後に立つ二人の少女を見て、思わず飲んでいたコーヒーを吐き出しそうになった。
「そ、その……お久しぶりでしゅ」
「……でしゅ?」
恐らく彼女もまた緊張していたのだろう。ムリもない。あんな別れ方になったのだから。
そこにいたのは、四日ほど前に【アルトーゴの森】で出会った少女たちだった。確かランテとリリノールと言った。
噛んだことに思わず声を発してしまうと、カーッと顔を赤らめるランテ。隣に立つリリノールもまた「やっちゃったぁ」というような表情を浮かべている。
得も言われぬ沈黙がしばらく続く……。
「……ま、まあ入れば?」
「は、はい……」
「お邪魔します」
と、二人が診療所内へと入って来た。
ニュウがコーヒーが飲めるか二人に聞いて、紅茶ならばということで、二人に紅茶を淹れるべく診察室の奥へと消えていく。奥には階段があり、そこが生活空間となっていてキッチンなどもあるのだ。
三人が立ったまま。沈黙が何だか痛い。
(おいぃぃ……早く戻って来てくれぇぇ、ニュウ~!)
表情には出さずに、できるだけコーヒーカップで顔を隠して祈りを捧げる。
すると静寂を割ったのは、リリノールだった。
「改めまして、先日は助けて頂きありがとうございました」
「え……あ、いや。別にいいって」
「これ、そのお礼に」
彼女が手に持っていたのは一つの袋。その中には多分菓子折りであろうものが入っていた。
「別に気を遣わなくて良かったのに」
「すみません。何だか変なお別れ方になってしまったので」
「あ……まあ、そうかな」
それはリントにも身に覚えがあったので反論はできない。ただ菓子折りはありがたい。甘いものならニュウが好きなので。
リリノールから袋ごと受け取って「ありがとな」と短く礼を言う。
流れでチラリとランテの方を見ると、彼女もチラチラとこちらを窺っていた。
ここは年長者らしく、先にきっかけを作るべきなのかもしれない。
「……あ~っと……前は悪か――」
「ごめんなさいっ!」
「……!?」
先に謝罪とともに頭を下げられてしまった。
「すっごく不謹慎でした! 本当にごめんなさい!」
……何だかホッと胸を撫で下ろせた。張りつめていた緊張が一気に解けたかのように。
「……いいって。オレも言い過ぎたし。悪かったな」
「いいえ。病院内で言うようなことじゃなかった」
「……そうだな。それはこれから気を付けてくれればそれでいいよ」
こうして謝れる女の子なのだから、きっと今後は間違わないようにしてくれると思うし。
「だからもう気にしなくていい。だから楽にしてくれ」
そう言葉を投げかけると、「良かったね」とリリノールがランテに言い、ランテもまたホッとしたような顔を見せた。
そこへタイミングを見計らったようにニュウが、トレイを持って現れる。その上にはカップが二つとお茶菓子の羊かんがあった。
「お待ちどう様なのであります! お二人とも、どうぞごゆっくりしてくださいませ~!」
そう言って、彼女たちに待合室にある一つだけのテーブルへ誘導し、そこに座らせる。
リントとニュウもまた、その近くのソファに腰を下ろした。
「あ、そうだニュウ。これもらったぞ」
「? それは何でありますか?」
「ふふ、それはね~、最近国で流行ってるカステラなんだよぉ~」
リリノールの説明に、獣耳をピンと立てて顔を上気させるニュウ。
「おお、カステラ!? それはとてもおいしそうなのであります!」
「おいしいよぉ~」
「そのようなもの、頂いていいのでありますか!?」
「うん、食べてほしいなぁ~。今開けてみる?」
「いいのでありますか!?」
リリノールとが袋に入っていた箱を取り出して開ける。
もしかしたら誰かの紹介で、新規の利用者がやってきたのかと思っていたら、洗濯カゴを持ったニュウだったので、
「何でそっから入ってくるのよ?」
と、いつもは診療所の裏手から入ってくる彼女の行動に珍妙さを感じて言葉を発したが、にんまりと笑顔を浮かべる彼女の背後に立つ二人の少女を見て、思わず飲んでいたコーヒーを吐き出しそうになった。
「そ、その……お久しぶりでしゅ」
「……でしゅ?」
恐らく彼女もまた緊張していたのだろう。ムリもない。あんな別れ方になったのだから。
そこにいたのは、四日ほど前に【アルトーゴの森】で出会った少女たちだった。確かランテとリリノールと言った。
噛んだことに思わず声を発してしまうと、カーッと顔を赤らめるランテ。隣に立つリリノールもまた「やっちゃったぁ」というような表情を浮かべている。
得も言われぬ沈黙がしばらく続く……。
「……ま、まあ入れば?」
「は、はい……」
「お邪魔します」
と、二人が診療所内へと入って来た。
ニュウがコーヒーが飲めるか二人に聞いて、紅茶ならばということで、二人に紅茶を淹れるべく診察室の奥へと消えていく。奥には階段があり、そこが生活空間となっていてキッチンなどもあるのだ。
三人が立ったまま。沈黙が何だか痛い。
(おいぃぃ……早く戻って来てくれぇぇ、ニュウ~!)
表情には出さずに、できるだけコーヒーカップで顔を隠して祈りを捧げる。
すると静寂を割ったのは、リリノールだった。
「改めまして、先日は助けて頂きありがとうございました」
「え……あ、いや。別にいいって」
「これ、そのお礼に」
彼女が手に持っていたのは一つの袋。その中には多分菓子折りであろうものが入っていた。
「別に気を遣わなくて良かったのに」
「すみません。何だか変なお別れ方になってしまったので」
「あ……まあ、そうかな」
それはリントにも身に覚えがあったので反論はできない。ただ菓子折りはありがたい。甘いものならニュウが好きなので。
リリノールから袋ごと受け取って「ありがとな」と短く礼を言う。
流れでチラリとランテの方を見ると、彼女もチラチラとこちらを窺っていた。
ここは年長者らしく、先にきっかけを作るべきなのかもしれない。
「……あ~っと……前は悪か――」
「ごめんなさいっ!」
「……!?」
先に謝罪とともに頭を下げられてしまった。
「すっごく不謹慎でした! 本当にごめんなさい!」
……何だかホッと胸を撫で下ろせた。張りつめていた緊張が一気に解けたかのように。
「……いいって。オレも言い過ぎたし。悪かったな」
「いいえ。病院内で言うようなことじゃなかった」
「……そうだな。それはこれから気を付けてくれればそれでいいよ」
こうして謝れる女の子なのだから、きっと今後は間違わないようにしてくれると思うし。
「だからもう気にしなくていい。だから楽にしてくれ」
そう言葉を投げかけると、「良かったね」とリリノールがランテに言い、ランテもまたホッとしたような顔を見せた。
そこへタイミングを見計らったようにニュウが、トレイを持って現れる。その上にはカップが二つとお茶菓子の羊かんがあった。
「お待ちどう様なのであります! お二人とも、どうぞごゆっくりしてくださいませ~!」
そう言って、彼女たちに待合室にある一つだけのテーブルへ誘導し、そこに座らせる。
リントとニュウもまた、その近くのソファに腰を下ろした。
「あ、そうだニュウ。これもらったぞ」
「? それは何でありますか?」
「ふふ、それはね~、最近国で流行ってるカステラなんだよぉ~」
リリノールの説明に、獣耳をピンと立てて顔を上気させるニュウ。
「おお、カステラ!? それはとてもおいしそうなのであります!」
「おいしいよぉ~」
「そのようなもの、頂いていいのでありますか!?」
「うん、食べてほしいなぁ~。今開けてみる?」
「いいのでありますか!?」
リリノールとが袋に入っていた箱を取り出して開ける。
12
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる