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ハーピィ襲来

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数日中にハーピィの襲撃が予想されるので既に厳戒態勢。
男達はしばらく外に出歩けないからと遊び歩いたり、既に避難を開始したりしている。
それに対して俺達女は防衛の準備でせっせこと働いている。
なんか……理不尽じゃね?
自分達を守ってもらうんだから準備くらい手伝ってくれてもいいと思うんだけど。
というか、手伝えや。

「レンちゃん、こんな感じでいいの?」
「んっ……塩をもうひとつまみ加えてください」
「分かりました」
「うぇ~、レンちゃん失敗しちゃったんだけど、これどうしよう~」
「そこに置いておいてください。後で手直ししますので」
「うぅ……ありがとう……」

生産系技能ってこういう料理も含まれるようで、ちょっと手伝ってたらあれよあれよという間に調理を任される事になっていた。
それだけならまだしも、なんでみんながみんな頼ってくるのかな?
女冒険者って料理出来ないの?

「レン凄い……」
「あはは……なんかやってみたら出来ちゃっただけだから」
「いや、それはそれで凄いというか、むしろ酷い?」

料理する人にとってはまあ、酷いという評価も仕方ない……かな?
自分達が必死になって技術を磨いている中で俺はなんか知らないけど出来ちゃったで済ませてるんだから。
でも俺前世では親がいない時にちょろっとパスタとかラーメンとか作るくらいしかやった事ないんだよ。
だから本当にやってみたら出来た状態なわけで……いやほんと、料理人の人達ごめんなさい。
文句言って来たら穴使わせてあげるんでそれで勘弁して。

「レン、スープ無くなってきた」
「分かったー。すぐに作るから、無くなったらそう言っておいて」
「分かった」

作って出して、ひと段落したら休憩して、またすぐに下拵え、調理、配膳ととにかくひたすらに料理をする日が2日ほどした頃に、ようやくというか、ついにというか、ハーピィが近くにやって来たらしい。
男達は慌てて避難し、俺達女勢は迎撃の為に持ち場につく。
これからの調理は有志の奥様方にお任せして俺は前線への物資の補給や怪我人の搬送とその治療をする。
ルセアちゃんは俺の手伝いで、他に2人一緒に行動する。

「じゃあ、改めて自己紹介するけど、俺の名前はレン。よろしくな」
「ボクはルセア。よろしく」
「私は百合。よろしくね」
「百合?  女好きって事?」
「なっ!?  ち、違うわよ!?  私はノーマルよ!」

ちょっとしたボケなんだけど、この反応、この髪と瞳の色……日本人か?
見たところ女子高生っぽいな。
こんな世界に連れて来られて可哀想に……。
色々と聞きたい所だけど、今はそれどころじゃないし後にしよう。

「私はハイネ。よろしくね、レンちゃん!」

この子は間違いなく日本人じゃない。
だってもふもふの尻尾が生えてるし。
キツネさんかな?
いや、俺の例もあるから断定はできないか。

戦いが始まった。
ハーピィの集団が空から飛来し、それらを弓や魔法で迎撃。
ここでどれだけ翼を傷つけられるからで今後が変わってくる。
ハーピィは膝の少し上の部分から下は全て鳥の脚のようになっていて、手と肩の間が翼で手も鋭い爪を持っている。
顔と身体は人間のそれと同じ作りとなっており、多種族と交配可能。
身体は空を飛びやすくする為なのか細身で胸も小振りなんだとか。

矢と魔法を掻い潜ったハーピィが囮の男達を捕らえようとするが、それは護衛の他の人達が対応。
しかし、空から襲ってくるというのは戦い難く、なんとか追い払う事に成功しても、追い払った人は鋭い鉤爪によって傷だらけ。
というわけで仕事の時間です。

「ルセアちゃんは傷口の汚れを洗い流して。百合さんはその人をお願い。ハイネさんは替えの服をお願い!」

治療魔法は光属性の魔法でルセアちゃんは使えないので俺が治療を担当し、2人にもそのサポートをお願いする。
百合さんへの指示が曖昧だけど、日本人だし多分大丈夫でしょ。

「助かった」
「ありがとう」
「いえ、これも仕事ですから」

こっちの方にやって来るハーピィはまだ散発的で余裕があるので、ここらで一度前線の方の様子を見に行く。
するとそこはかなり酷い状況で……。
撃ち落とされ羽根が折れたハーピィにそのハーピィと戦う女冒険者、鉤爪に斬り裂かれ大怪我をしている女冒険者、剣や槍に貫かれたハーピィ、そして殺され踏まれまくったハーピィと女冒険者の死体がそこかしこに散乱している。

誰かが息を呑む音が聞こえる。
誰かが小さな悲鳴を上げる音がする。
誰かが吐く音がする。
そして、緊張と恐怖で喉が渇き、唾を飲み込む自分の音がする。
これが、戦場……。
女冒険者とハーピィの悲鳴や怒声が鳴り響く中で呆然と立ってしばらく動くことが出来なかった。

そんな俺達を動かしたのが、助けを求めて縋り付いて来る1人の女冒険者だった。

「たす……けて……」
「ハッ……。ごめんなさい。今助けます!  ルセアちゃんはさっきと同じように水で傷口を流して、百合さんは他に負傷している人がいたら連れて来て下さい。ハイネさんは治療が終わった人を後方に下がらせて」
「わ、分かった」
「怪我人が居たら、連れて来ればいいのよね?」
「はい」

まずは傷口の汚れを洗い流し、そして患部の確認。
骨折等は見受けられないけど、裂傷が酷く背中の骨が少し見えている。
吐きそうになるのを必死に堪えて治療魔法を使っていく。
怪我が治ると荒かった呼吸が穏やかなものになるが、失った血までは回復しないので顔色は悪いままだ。
感染症の心配があるけど、それは魔法の不思議パワーでなんとかなってると思いたい。

「ハイネさん、後お願い!」
「う、うん」
「それと清潔な布を出来るだけ持ってきて!」
「わ、分かった!」
「レンちゃん、連れて来たよ!」
「多いな!?」
「他の所も手一杯だって!」
「くそっ!  分かっちゃいたが人手が足りない!  そこの人とそこの人は自分で避難所まで下がって!  そこなら治せる男の人が居るはずだから!  百合さんはその人とその人を、ルセアちゃんはそこの2人を止血しといて!  俺はまずはこの人を治すから!」

怪我人は7人。
自力で動ける人を避難所に送り、足を引きずっている人、大きな怪我をしている人、そして意識のない人を今すぐに治療する。
本当はもっと清潔な所、例えば近くにあるテントの中とかそういう所に連れて行きたいけど、そんな事をしていたらこの人は息絶えるかもしれない。
だからここで治療する。

「止血終わったよ!」
「こっちも!」
「ならその人達を近くのテントの中へ!  俺はこの人の治療が済んだらそこに行くから!」

鑑定系技能と併用して患部の状態を確認しながら治療を行う。
傷は内臓にまで達していて本当にひどい状態だった。
鑑定によれば後5分と経たずに亡くなるところだったみたいで、本当に危なかった。

俺は治療を終えたこの人を連れてルセアちゃん達がいるテントに向かう。
まだまだ怪我人は残ってる。
気を引き締めないと。
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