13 / 47
決意
しおりを挟む
「ただいま帰りました。」
「おかえりなさいませ、ユウキさん。その服似合ってますね。」
「ありがとうございます。」
カトレイア邸に帰ってきた勇輝達はアリスへと帰還の報告をする。
その際にアリスの父親がいつ頃帰ってくるのかを尋ねてみたところ、そろそろ帰ってくると思いますとの返答を貰った。
それを聞いた勇輝はそれまで部屋で待ってますねと告げてから自身に与えられている部屋へと帰っていく。
だが、それも演習に出ている父と兄の代わりに仕事をこなしているアリスの邪魔にならないように配慮してのことだった。
そうして部屋に戻った勇輝だったが、異世界では日本にいた頃のような娯楽もなく暇を持て余していた。
流石に人様の家で魔法の練習をするわけにもいかずぼーっとしているとリルカから一冊の本を渡された。
「これは?」
「それは一人の転移者が好き勝手やった挙句処刑されるまでを面白おかしく書いた絵本です。今後この世界で生活する際の参考にしてはどうでしょう。」
「反面教師にしろと。」
「その通りです。ユウキ様の人柄ならば問題ないでしょうが、読んでおいて損はないだろうと思い、勧めさせていただきました。」
「ありがとう。じゃあ、読んでみるね。」
「はい。それではお茶を用意しますね。」
そういってリルカは一度部屋を出て行き、それを見送った勇輝は勧められた絵本へと意識を向け、そのまま読み始めた。
◇
「ふぅ。面白かった。」
渡された絵本は転移者がこの国における犯罪を犯して衛兵さん達との追っかけっこをコミカルに描いており、最後には王様に対して無礼を働き処刑されるという内容だった。
恐らく元はもっと酷いことをしていたのであろうが、絵本にする際子供の教育用にと表現を軽くしてあるのだろう…と考えたところで勇輝は机の上にお茶とお菓子が置いてあることに気付く。
「気を使わせちゃったかな? お茶とお菓子、ありがとうございます。」
勇輝はそう言ってからお茶とお菓子をいただく。
美味しいクッキーと少し冷めたお茶で一息ついていると、ドアがノックされ外から声を掛けられる。
「ユウキさん。父が帰ってきたので、一緒に来てくれませんか?」
「分かりました。ちょっと待っててください。」
「はい。」
訪ねてきたアリスに一声かけた勇輝は残っていたクッキーを口の中に入れると、そのままお茶で流し込んだ。
「準備できました。」
勇輝はそう言ってドアを開ける。
「それでは父の所へ案内します。」
「はい。」
◇
アリスに連れられて勇輝は応接間と思しき所へと案内された。
そこで勇輝が見たものは……金髪をした三十代半ばの男性と顔色を物凄く悪くしているローブの男性だった。
「えーっと、あの人大丈夫なんですか? 凄く顔色が悪いんですけど…。」
そう言いながら勇輝はローブの男性を指差す。
それに答えたのはアリスではなく金髪の男性だ。
「君がユウキ君か。彼の事なら問題は無いよ。魔力を一度に大量に消費しただけだから。…っと、自己紹介がまだだったな。私はアリスの父のドレアス・カトレイア。この街の領主をさせて貰っている。」
「御神勇輝です。それで勇者についてなんですが…」
「まあ、先ずはソファーに座りたまえ。話はそれからだ。」
「はい。」
ソファーに腰掛けた勇輝は転移してからの事をドレアスに説明していく。
そうして一通りの説明が終わるとドレアスは神妙な顔をして考え込む。
そのまましばらく唸り考えをまとめると口を開く。
「ふむ。やはり、戦争はかなりの苦戦を強いられているようだな。ここグレイフィア王国はラベスタ帝国に戦争を仕掛けらていることはユウキ君も知っての通りだ。恐らくだが君を召喚したのはリリアーナ姫だろう。済まぬが明日王城に出向いてはくれぬか? ここにいるレディックは転移魔法が使える。レディックとアリスと共に姫様に会ってほしい。「ちょっ!まっ…」もちろん無理強いはしない。明日までに考えてくれないか?」
「分かりました。それでは失礼ます。」
「うむ。」
勇輝は話が終わったと思い退出する。
そしてその勇輝を追いかけるようにしてアリスも部屋から出て行く。
二人が出て行きドアが閉められるとレディックと呼ばれた男がドレアスに詰め寄る。
「ちょっ、ドレアス様!今日も転移してきたばっかでそんな急に……しかも二人連れてなんて!」
「一刻を争うのだ。一国だけに。」
「ダジャレですか!」
「とにかく。無理でもやってもらうからな。領主命令だ。」
「ぐっ!わ、分かりました。」
レディックは、話の内容自体は至極真っ当であると分かっているものの、一度に大量の魔力を消費する転移魔法を二日連続で使用することに対する文句を言うものの状況を理解している上に命令されたとなれば承諾するしかなかった。
言外に戦争を手伝ってくれと言っているようなものだから、行きたくないと勇輝が断ってくれることを心の奥で願いながら。
◇
部屋に戻った勇輝は雪羅に話の内容を説明する。
その上で意見を聞こうと思ったのだが、雪羅にこう返された。
「既に勇輝様の心が決まっているのに私が言うことなんてありませんよ。」
「バレてた?」
「はい。」
そう。
勇輝は戦争に参加してくれと言っている事を理解した上で、頼みを聞こうと思っている。
いつ死ぬかも分からなかった身の上だったが、こちらの世界に来て死という未来を回避した勇輝。
その理由がちゃんとした契約を結んだからか、この世界が魔力で満ちているからか、はたまた勇者として召喚されたことで契約を維持するのに必要な魔力を得たからか、あるいはその全てか。
そういったことを感じていた勇輝はこの世界に呼んでくれた人に恩返しがしたいと思っており、また、元の世界に帰るかは未定だが帰る手段を知っている可能性のある姫にも会ってみたいとも思っていた。
それ故にリリアーナという姫に会うためにドレアスの頼みを聞こうと思っていた。
しかし、戦争をしている所に行くのは危険だから雪羅に意見を聞こうと思っていたが、是非もなしと言われたので改めて姫に会う事を決意した。
もちろん。危なくなったらすぐに逃げようとも思っていたが。
「おかえりなさいませ、ユウキさん。その服似合ってますね。」
「ありがとうございます。」
カトレイア邸に帰ってきた勇輝達はアリスへと帰還の報告をする。
その際にアリスの父親がいつ頃帰ってくるのかを尋ねてみたところ、そろそろ帰ってくると思いますとの返答を貰った。
それを聞いた勇輝はそれまで部屋で待ってますねと告げてから自身に与えられている部屋へと帰っていく。
だが、それも演習に出ている父と兄の代わりに仕事をこなしているアリスの邪魔にならないように配慮してのことだった。
そうして部屋に戻った勇輝だったが、異世界では日本にいた頃のような娯楽もなく暇を持て余していた。
流石に人様の家で魔法の練習をするわけにもいかずぼーっとしているとリルカから一冊の本を渡された。
「これは?」
「それは一人の転移者が好き勝手やった挙句処刑されるまでを面白おかしく書いた絵本です。今後この世界で生活する際の参考にしてはどうでしょう。」
「反面教師にしろと。」
「その通りです。ユウキ様の人柄ならば問題ないでしょうが、読んでおいて損はないだろうと思い、勧めさせていただきました。」
「ありがとう。じゃあ、読んでみるね。」
「はい。それではお茶を用意しますね。」
そういってリルカは一度部屋を出て行き、それを見送った勇輝は勧められた絵本へと意識を向け、そのまま読み始めた。
◇
「ふぅ。面白かった。」
渡された絵本は転移者がこの国における犯罪を犯して衛兵さん達との追っかけっこをコミカルに描いており、最後には王様に対して無礼を働き処刑されるという内容だった。
恐らく元はもっと酷いことをしていたのであろうが、絵本にする際子供の教育用にと表現を軽くしてあるのだろう…と考えたところで勇輝は机の上にお茶とお菓子が置いてあることに気付く。
「気を使わせちゃったかな? お茶とお菓子、ありがとうございます。」
勇輝はそう言ってからお茶とお菓子をいただく。
美味しいクッキーと少し冷めたお茶で一息ついていると、ドアがノックされ外から声を掛けられる。
「ユウキさん。父が帰ってきたので、一緒に来てくれませんか?」
「分かりました。ちょっと待っててください。」
「はい。」
訪ねてきたアリスに一声かけた勇輝は残っていたクッキーを口の中に入れると、そのままお茶で流し込んだ。
「準備できました。」
勇輝はそう言ってドアを開ける。
「それでは父の所へ案内します。」
「はい。」
◇
アリスに連れられて勇輝は応接間と思しき所へと案内された。
そこで勇輝が見たものは……金髪をした三十代半ばの男性と顔色を物凄く悪くしているローブの男性だった。
「えーっと、あの人大丈夫なんですか? 凄く顔色が悪いんですけど…。」
そう言いながら勇輝はローブの男性を指差す。
それに答えたのはアリスではなく金髪の男性だ。
「君がユウキ君か。彼の事なら問題は無いよ。魔力を一度に大量に消費しただけだから。…っと、自己紹介がまだだったな。私はアリスの父のドレアス・カトレイア。この街の領主をさせて貰っている。」
「御神勇輝です。それで勇者についてなんですが…」
「まあ、先ずはソファーに座りたまえ。話はそれからだ。」
「はい。」
ソファーに腰掛けた勇輝は転移してからの事をドレアスに説明していく。
そうして一通りの説明が終わるとドレアスは神妙な顔をして考え込む。
そのまましばらく唸り考えをまとめると口を開く。
「ふむ。やはり、戦争はかなりの苦戦を強いられているようだな。ここグレイフィア王国はラベスタ帝国に戦争を仕掛けらていることはユウキ君も知っての通りだ。恐らくだが君を召喚したのはリリアーナ姫だろう。済まぬが明日王城に出向いてはくれぬか? ここにいるレディックは転移魔法が使える。レディックとアリスと共に姫様に会ってほしい。「ちょっ!まっ…」もちろん無理強いはしない。明日までに考えてくれないか?」
「分かりました。それでは失礼ます。」
「うむ。」
勇輝は話が終わったと思い退出する。
そしてその勇輝を追いかけるようにしてアリスも部屋から出て行く。
二人が出て行きドアが閉められるとレディックと呼ばれた男がドレアスに詰め寄る。
「ちょっ、ドレアス様!今日も転移してきたばっかでそんな急に……しかも二人連れてなんて!」
「一刻を争うのだ。一国だけに。」
「ダジャレですか!」
「とにかく。無理でもやってもらうからな。領主命令だ。」
「ぐっ!わ、分かりました。」
レディックは、話の内容自体は至極真っ当であると分かっているものの、一度に大量の魔力を消費する転移魔法を二日連続で使用することに対する文句を言うものの状況を理解している上に命令されたとなれば承諾するしかなかった。
言外に戦争を手伝ってくれと言っているようなものだから、行きたくないと勇輝が断ってくれることを心の奥で願いながら。
◇
部屋に戻った勇輝は雪羅に話の内容を説明する。
その上で意見を聞こうと思ったのだが、雪羅にこう返された。
「既に勇輝様の心が決まっているのに私が言うことなんてありませんよ。」
「バレてた?」
「はい。」
そう。
勇輝は戦争に参加してくれと言っている事を理解した上で、頼みを聞こうと思っている。
いつ死ぬかも分からなかった身の上だったが、こちらの世界に来て死という未来を回避した勇輝。
その理由がちゃんとした契約を結んだからか、この世界が魔力で満ちているからか、はたまた勇者として召喚されたことで契約を維持するのに必要な魔力を得たからか、あるいはその全てか。
そういったことを感じていた勇輝はこの世界に呼んでくれた人に恩返しがしたいと思っており、また、元の世界に帰るかは未定だが帰る手段を知っている可能性のある姫にも会ってみたいとも思っていた。
それ故にリリアーナという姫に会うためにドレアスの頼みを聞こうと思っていた。
しかし、戦争をしている所に行くのは危険だから雪羅に意見を聞こうと思っていたが、是非もなしと言われたので改めて姫に会う事を決意した。
もちろん。危なくなったらすぐに逃げようとも思っていたが。
0
お気に入りに追加
215
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
トレジャーキッズ
著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。
ただ、それだけだったのに……
自分の存在は何のため?
何のために生きているのか?
世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか?
苦悩する子どもと親の物語です。
非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。
まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。
※更新は週一・日曜日公開を目標
何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。
【1】のみ自費出版販売をしております。
追加で修正しているため、全く同じではありません。
できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

生前SEやってた俺は異世界で…
大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん
ファンタジー
旧タイトル 前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~
※書籍化に伴い、タイトル変更しました。
書籍化情報 イラストレーター SamuraiG さん
第一巻発売日 2017/02/21 ※場所によっては2、3日のずれがあるそうです。
職業・SE(システム・エンジニア)。年齢38歳。独身。
死因、過労と不摂生による急性心不全……
そうあの日、俺は確かに会社で倒れて死んだはずだった……
なのに、気が付けば何故か中世ヨーロッパ風の異世界で文字通り第二の人生を歩んでいた。
俺は一念発起し、あくせく働く事の無い今度こそゆったりした人生を生きるのだと決意した!!
忙しさのあまり過労死してしまったおっさんの、異世界まったりライフファンタジーです。
※2017/02/06
書籍化に伴い、該当部分(プロローグから17話まで)の掲載を取り下げました。
該当部分に関しましては、後日ダイジェストという形で再掲載を予定しています。
2017/02/07
書籍一巻該当部分のダイジェストを公開しました。
2017/03/18
「前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~」の原文を撤去。
新しく別ページにて管理しています。http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/258103414/
気になる方がいましたら、作者のwebコンテンツからどうぞ。
読んで下っている方々にはご迷惑を掛けると思いますが、ご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる