病弱だったから異世界で元気に生活する。(仮)

椎茸大使

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街に向かう

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女の子達が落ち着いた頃合いを見計らって勇輝は声を発する。

「それじゃ、そろそろ行こうか。葛に豪鬼、悪いんだけど盗賊を運んで……って増えてる!?」

そう言いながら葛によって縛られている盗賊の方へと目を向けた勇輝だが、いつの間にか増えていた盗賊に驚き、声を上げる。

「ああ、勇輝様。こいつらは勇輝様に言われた通りに見張りに来たらやって来たので縛っときました。」
「そうなんだ。ありがとう、葛。」

「そういえばアリスさんは護衛とか居なかったんですか?」
「居たんですけどね。でも、彼らは私を守って……。」
「すみません。辛い事を思い出させてしまって。」
「いえ。彼らも覚悟の上でしょうし、気にしないでください。それで、出来ればでいいので彼等の遺品を持って帰りたいのですが、良いでしょうか?」
「場所は何処ですか?」
「カトレイアの街……つまりは父が治めてる街の北門から大体5キロ程離れたところだと思います。あくまでも恐らく…ですが。でも、いいんですか?」
「いいんです。それで、ここからだと?」
「すみません。目隠しをされていたので、ここが何処か分からないことには……。」
「それもそうですね。それじゃあ、とりあえず街に行ってその後探しに行きましょう。あの子達のこともありますし。」

そういって勇輝は女の子の方を見るが、いつの間にか彼女達は豪鬼や葛と仲良くなったようで楽しそうに話していた。

(式神の維持にも魔力を使うんだけど、まあ、いっか。まだまだ余裕があるしね。)

「そうですね。分かりました。それでは街に向かいましょう。」
「はい。」

パンパン!
「はい、ちゅうもーく!」

勇輝が手を叩き、自身へと意識を向ける為に手を叩き声を出す。
そしてその音と声を聴いた少女達は勇輝に視線を向ける。

「これから街まで向かいます。それで隊列に関してですが、先頭に俺と雪羅、その後ろに六人並んでもらって、その間に葛とアリス、その後ろに残りの子達が並んで殿に豪鬼で行こうと思うんだけど、どうかな?」

勇輝がそう問いかけるが少女達から特に不満の声も上がらず、全員が頷いていた。
それを見た勇輝は賛成を得たと思い、宣言通りの隊列を組み街へと向かう。
因みに盗賊だがさらに人数が増えたことで女の子達の精神衛生上及び危機回避の為にアジトの中へと置いて行くことにしたようだ。
勇輝は後で騎士団なり衛兵なりに捕まえてもらうつもりだが、途中でモンスターに襲われてもそれは仕方ないと割り切っている。

街へと向かっている勇輝達の前に野生の盗賊が現れないが野生のモンスターが現れる。
しかし、それらは時に雪羅に氷漬けにされ、時に葛に縛り上げられ、時に豪鬼の剛力によって吹き飛ばされていった。

そうしてモンスターを迎撃しつつ進むこと一時間。
勇輝達の前に倒壊した馬車と騎士の死体があった。
それはアリスが襲われた現場であり、必死の抵抗を試みた痕跡がくっきりと残っている。
そんな場所だった。

それを見た勇輝は顔を顰め、雪羅は顔を逸らし、少女達の中から吐く者が現れるがアリスだけは表情を変えず、顔を逸らすことなく歩み寄り、死体の一体一体に感謝の言葉を投げかけた。
そうしている内にアリスは表情を崩し、涙を流していく。
今、彼女の心の中では騎士達の訓練に勤しむ姿や仲間達と楽しそうに笑う姿、自身と父と共に語らい笑う姿を思い出している事だろう。
そしてその姿を見た勇輝は彼女に惹かれ、彼女から一瞬たりとも目を離すことが出来なかった。

全員に感謝の言葉をかけたアリスは最後に全員が見える位置まで下がった後、黙祷を捧げた。

黙祷を終えたアリスは勇輝に顔を向けこう告げた。

「勇輝さん。彼等を弔ってあげたいので少し手伝って下さいませんか?」
「あ、うん。分かった。……じゃなくて、ちょっと待って。僕のスキルで遺体を運べないか試していい?彼等の家族も別れの言葉を言いたいだろうから。」
「分かりました。」

 許可を取った遺体へと近づき宝物庫へとしまう。
道具はともかく、死体とはいえ人間が入るか心配だったが問題なくしまうことが出来るようで、そのまま全ての遺体をしまった。

そこから更に一時間と少し。
道中は沢山の死体を見た事がショックだったのか一言も少女達は喋らなかったが、街門が見えた事で安心した表情を浮かべる。
その一方で勇輝は流石にこのまま豪鬼と葛を出したままだとまずいと思い、送還した。
急に二人が消えたことに少女達は驚いたが、事情を説明して落ち着いてもらった。

「あれは……アリス様だ!みんな、アリス様が帰ってきたぞ!」
「なに!?本当か!」
「だが、あの連中は一体?」
「そんなのは後だ。それよりも今はアリス様だ!」

説明している内に門番さんがこちらに…というよりもアリスに気付いたようで勇輝達のもとへも駆け寄ってくる。
それを見た勇輝は自身のことをどう説明したらいいか、頭を悩ませるのだった。
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