病弱だったから異世界で元気に生活する。(仮)

椎茸大使

文字の大きさ
上 下
37 / 47

兵士の出番再び

しおりを挟む
そろそろ移動の時間とメイド達に知らされ、楽しくおしゃべりをしていた勇輝達は馬車へと乗り込み再びおしゃべりを始めた。
しゃべりすぎだろとも思うが、国の未来を決める大一番なのでその緊張をほぐそうとしているのかもしれない。
もしくは、リリアとそういう関係になり、葵とも、アリスとも結婚秒読みみたいな雰囲気にグレイフィア王国がなっているので、こういう時にお互いの事を知ろうとしているのかもしれない。
実際、話の内容はお互いの趣味やどんな生活をしていたか?  といったことなのだから。
そして、勇輝の話の時にリリアは勇輝を不憫に思い涙したりという一幕があったりしながら、盗賊等に襲われる事なく無事に一騎打ちの場へと到着した。

「頑張ってください、ユウキ様。」
「応援していますね、ユウキさん。」
「頑張ってね、ゆー君。」
「うん。頑張る!」

リリア達の声援に応えながら勇輝は一騎打ちの場へと赴く。
今回の試合開始の合図は昨日の初戦と同じく、日が真上に来たときである。
残念ながらガクブルとしていた可哀想な兵士ではない。
もう自分の能力は知られているしと思い勇輝は素の状態で立っている。
もちろん、一騎打ちの直前に式神憑依出来るように式符を準備している。
今は敵が出てくるのを待っている。
待つ。
待っている。
じっと待っている。
そうして待つ事15分。
太陽が真上を過ぎたというのに未だに対戦相手が現れない。
どうも遅刻のようである。
昨日の5対5ならば即不戦敗となっていたであろうが、流石にこの日ばかりは遅刻したね、はい不戦敗とはいかない。
かといって待ち続けるにも限度があるのでこの場合は開始から30分以内に現れなければ失格となり不戦敗となるルールだ。
というわけで勇輝は一旦本陣へと戻る事に。
そして……やったね、兵士さん!  また出番だよ!

「このまま来ないで不戦勝だと嬉しいんだけどなぁ。」
「流石にそれはないかと。間に合わなそうなら代わりの人間を出してくるでしょうから。」
「だよねぇ~。」

そんな事を婚約者一同と話しながら待つ事23分。
遂に対戦相手が現れた。
どうせ遅れるなら時間ギリギリに来いよ。それがテンプレだろ。と思うかもしれないが、そうしてやってくるのは大抵味方で間に合わないんじゃないかとハラハラさせる存在だ。
敵側なのだからそういうテンプレは期待しないでほしい。
だから勇輝君。
ちょっとガッカリしないで。

「じゃ、行ってくるね。」
「行ってらっ……「待ってくれ!」」

行ってらっしゃいと言おうとした葵の言葉を遮って叫んだのはドレアスだ。
その表情は強張りふざけている様子はない。
むしろふざけている方がおかしいが。

「どうしたんですか?  急に叫んで。」
「驚かせてすまない。しかし、今出てきた男。あいつはかなり危険なやつなのだ。」
「危険…?」
「うむ。奴の名はガルドと言い元SSランク冒険者の獣人だ。」
「SSランク!?」
「元、だがな。あいつは素行に問題がありギルドを追放された。その後は時に傭兵として、時に殺し屋として活動していると聞いた事がある。ガルドは戦い、傷つけ傷つくのを至福とする異常性癖の持ち主らしくその対象がモンスターから人に移るのにそう時間はかからなかった。そんな男が今この場にいる。最早油断や慢心といった次元ではなくなったのだ。初手から全力の中の全力で当たらねばならぬ程の、な。
私の実力ではあの男に傷一つ負わせることすらできぬであろう。それほどまでに強いのだ。」
「そんなに!?  ………  すー、はー。分かりました。全力で、行きます。」

一度深呼吸をして覚悟を決めた勇輝は雪羅を憑依させる。
当初の予定では雪羅ではなくレティアだったが、相手が強大で初手から全力で当たらねばならないと言われ、ならばこれまでに放った中で最も強い攻撃の出来る雪羅を選んだのだ。
現在の勇輝の頭の中ではどうすればあの一撃を当てられるのか、それだけを考えていた。

そして始まる代表戦。
例によって一般兵さんのご登場だ。
最終戦とあってその緊迫感はハンパではなく、もはや蒼白を通り越して土気色というか死体一歩手前と言えるような顔色をしており、俺、この仕事が終わったら田舎にいる幼馴染みと結婚するんだー、とアレな事を考え出す始末。
そんな状態ではあるが、なんとか失敗する事なく一般兵さんのコイントスによって戦いが始まった。

「式神召喚!  堅俉、輪墓!」

勇輝は始まった瞬間ぬりかべの堅俉と餓者髑髏の輪墓を召喚する。
突然現れた異形の存在と餓者髑髏の大きさに驚き、そして楽しそうな笑みを浮かべるガルド。
そんなのどうでもいいと言わんばかりに勇輝は堅俉と輪墓に足止めを任せる。

「ははっ!  随分とでかいスケルトンだな!  それになんだこの生き物!  初めて見たぜ!」

振り下ろされる輪墓の拳を避け、妨害するように堅俉が出現させた土壁を砕くガルド。
しかし勇輝は動じない。
ただ、自分と契約した式神達を信じてただひたすらに力を溜めていく。

少しずつ近づいてくるガルドと近付かせまいとする堅俉と輪墓。
その攻防はほんの数十秒ほどのものだったが、それでも観客達、そして堅俉と輪墓にとってはもっと長く濃密な時間のように感じられていた。
しかし、その時間も終わりを告げる。
溜めていた力が漏れ出したのか、勇輝を中心にあたり一帯に冷気が充満する。
それを感じとった堅俉と輪墓は射線を開けるため、自身が巻き込まれないようにするためにガルドから距離を取る。
当然それが何を意味するのか理解していたガルドだが、逃げない。
理由は単純。
殺し殺され合う事こそ至福と感じる男だ。
あたりを漂う冷気に勇輝から感じる力の奔流。
それを感じとっているからこそ、逃げない。

「いいぜ、来いよ!  お前の全力を俺に見せてみろ!」

勇輝の放つそれは物理攻撃でもなんでもなく、極限の温度変化をもたらすもの。
故に勇輝は防げるはずがないと、例え防御しようとも何か策があろうとも耐えられるはずがないと思い全力で力を放った。

「凍てつき終わる銀世界!」

勇輝の放ったそれは真っ白なドーム状となりガルドを閉じ込める。
前回放ったそれとは少々異なり、今回はガルドを中心として発動しており、なおかつ前回よりもサイズがふた回り小さくなっている。
つまりそれは前回よりも圧縮されているという事であり、もはや中の温度は凍りつくどころの話ではなくそれこそ生存を疑うどころか死を確信するレベルとなっている。

それから1分ほど経ち、勇輝の放った凍てつき終わる銀世界が解けていく。
そこにあったのは吹雪が固まり渦巻き状になり陽光を複雑に反射させる氷と、悠然と立っているガルドの姿だった。
本来ならば生きられないはずのガルドが生きている事に勇輝は驚き、そして自身と雪羅の最大の攻撃を耐えられた事に対する恐れから勇輝は咄嗟に憑依させる式神を雪羅からレティアに変更し空へと逃げる。
そう、逃げてしまったのだ。
まだ完全に晴れていない冷気の中に対して攻撃をすれば良かったのだが、空という只人では立ち入ることのできない領域へと逃げることを選んでしまったのだ。
ガルドがどうやって防いだのかを考える時間が欲しく、また警戒してのことなのかもしれないが、今回はそれが悪手であった。

ガルドの魔法属性は風。
自身にまとわせて移動速度を速めることも、敵を切り裂くことも、そして風を操り空気の層を作ることで敵の攻撃を防ぐこともできる。
今回は事前に聞いていた事もあり、自身の周りで竜巻を発生させる事で冷気を遮断したのだ。
もっとも、凍てつき終わる銀世界の効果が高すぎて完全には防げず、髪や尻尾の一部が凍りついている。
それでも戦闘を行うには問題がない。

「結構効いたぜー!  事前に聞いてなきゃ即死だったわ。つーわけで、今度はこっちの番だ!」

空へと向けた右手をガルドが振り降ろすと上から下へと向かう下降気流が発生し勇輝を地へと堕とす。
下降気流によってバランスを取ることすらできず、ただ地面に向かって堕ちる勇輝の真下へと移動したガルドは、天に向かって拳を突き上げた。
落下速度と自重、そして堅俉が作り上げた壁を軽々と砕く一撃を受けた勇輝は、痛みを感じる暇さえなく意識を手放した。




~????~

『どどど、どうする!  このままでは勇輝様が殺されてしまうぞ!』
『おおおお、落ち着け、お前達。まま、まだ、勇輝様が殺されたわけでは、なないぞ!』
『そういう貴様も落ちちゅかにゅか!』
『いや、お主も落ち着かぬか。揃いも揃って情けないのう。それでも悠久の時を生きる大妖か?  とはいえ、主人殿が死ぬのは妾も良しとせぬし、ここは妾が行かせてもらうぞ。お主らだとやりすぎるやもしれぬしのう。』
『流石は年の功といったところか。』
『歳は関係ないだろう!  お主らとそう変わらんだろうが!』
『おお、怖っ!  儂等はここらで退散するか』
『全く……さて、行くとするかの。』
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

必要なくなったと婚約破棄された聖女は、召喚されて元婚約者たちに仕返ししました

珠宮さくら
ファンタジー
派遣聖女として、ぞんざいに扱われてきたネリネだが、新しい聖女が見つかったとして、婚約者だったスカリ王子から必要ないと追い出されて喜んで帰国しようとした。 だが、ネリネは別の世界に聖女として召喚されてしまう。そこでは今までのぞんざいさの真逆な対応をされて、心が荒んでいた彼女は感激して滅びさせまいと奮闘する。 亀裂の先が、あの国と繋がっていることがわかり、元婚約者たちとぞんざいに扱ってきた国に仕返しをしつつ、ネリネは聖女として力を振るって世界を救うことになる。 ※全5話。予約投稿済。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

処理中です...