病弱だったから異世界で元気に生活する。(仮)

椎茸大使

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兵士の出番再び

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そろそろ移動の時間とメイド達に知らされ、楽しくおしゃべりをしていた勇輝達は馬車へと乗り込み再びおしゃべりを始めた。
しゃべりすぎだろとも思うが、国の未来を決める大一番なのでその緊張をほぐそうとしているのかもしれない。
もしくは、リリアとそういう関係になり、葵とも、アリスとも結婚秒読みみたいな雰囲気にグレイフィア王国がなっているので、こういう時にお互いの事を知ろうとしているのかもしれない。
実際、話の内容はお互いの趣味やどんな生活をしていたか?  といったことなのだから。
そして、勇輝の話の時にリリアは勇輝を不憫に思い涙したりという一幕があったりしながら、盗賊等に襲われる事なく無事に一騎打ちの場へと到着した。

「頑張ってください、ユウキ様。」
「応援していますね、ユウキさん。」
「頑張ってね、ゆー君。」
「うん。頑張る!」

リリア達の声援に応えながら勇輝は一騎打ちの場へと赴く。
今回の試合開始の合図は昨日の初戦と同じく、日が真上に来たときである。
残念ながらガクブルとしていた可哀想な兵士ではない。
もう自分の能力は知られているしと思い勇輝は素の状態で立っている。
もちろん、一騎打ちの直前に式神憑依出来るように式符を準備している。
今は敵が出てくるのを待っている。
待つ。
待っている。
じっと待っている。
そうして待つ事15分。
太陽が真上を過ぎたというのに未だに対戦相手が現れない。
どうも遅刻のようである。
昨日の5対5ならば即不戦敗となっていたであろうが、流石にこの日ばかりは遅刻したね、はい不戦敗とはいかない。
かといって待ち続けるにも限度があるのでこの場合は開始から30分以内に現れなければ失格となり不戦敗となるルールだ。
というわけで勇輝は一旦本陣へと戻る事に。
そして……やったね、兵士さん!  また出番だよ!

「このまま来ないで不戦勝だと嬉しいんだけどなぁ。」
「流石にそれはないかと。間に合わなそうなら代わりの人間を出してくるでしょうから。」
「だよねぇ~。」

そんな事を婚約者一同と話しながら待つ事23分。
遂に対戦相手が現れた。
どうせ遅れるなら時間ギリギリに来いよ。それがテンプレだろ。と思うかもしれないが、そうしてやってくるのは大抵味方で間に合わないんじゃないかとハラハラさせる存在だ。
敵側なのだからそういうテンプレは期待しないでほしい。
だから勇輝君。
ちょっとガッカリしないで。

「じゃ、行ってくるね。」
「行ってらっ……「待ってくれ!」」

行ってらっしゃいと言おうとした葵の言葉を遮って叫んだのはドレアスだ。
その表情は強張りふざけている様子はない。
むしろふざけている方がおかしいが。

「どうしたんですか?  急に叫んで。」
「驚かせてすまない。しかし、今出てきた男。あいつはかなり危険なやつなのだ。」
「危険…?」
「うむ。奴の名はガルドと言い元SSランク冒険者の獣人だ。」
「SSランク!?」
「元、だがな。あいつは素行に問題がありギルドを追放された。その後は時に傭兵として、時に殺し屋として活動していると聞いた事がある。ガルドは戦い、傷つけ傷つくのを至福とする異常性癖の持ち主らしくその対象がモンスターから人に移るのにそう時間はかからなかった。そんな男が今この場にいる。最早油断や慢心といった次元ではなくなったのだ。初手から全力の中の全力で当たらねばならぬ程の、な。
私の実力ではあの男に傷一つ負わせることすらできぬであろう。それほどまでに強いのだ。」
「そんなに!?  ………  すー、はー。分かりました。全力で、行きます。」

一度深呼吸をして覚悟を決めた勇輝は雪羅を憑依させる。
当初の予定では雪羅ではなくレティアだったが、相手が強大で初手から全力で当たらねばならないと言われ、ならばこれまでに放った中で最も強い攻撃の出来る雪羅を選んだのだ。
現在の勇輝の頭の中ではどうすればあの一撃を当てられるのか、それだけを考えていた。

そして始まる代表戦。
例によって一般兵さんのご登場だ。
最終戦とあってその緊迫感はハンパではなく、もはや蒼白を通り越して土気色というか死体一歩手前と言えるような顔色をしており、俺、この仕事が終わったら田舎にいる幼馴染みと結婚するんだー、とアレな事を考え出す始末。
そんな状態ではあるが、なんとか失敗する事なく一般兵さんのコイントスによって戦いが始まった。

「式神召喚!  堅俉、輪墓!」

勇輝は始まった瞬間ぬりかべの堅俉と餓者髑髏の輪墓を召喚する。
突然現れた異形の存在と餓者髑髏の大きさに驚き、そして楽しそうな笑みを浮かべるガルド。
そんなのどうでもいいと言わんばかりに勇輝は堅俉と輪墓に足止めを任せる。

「ははっ!  随分とでかいスケルトンだな!  それになんだこの生き物!  初めて見たぜ!」

振り下ろされる輪墓の拳を避け、妨害するように堅俉が出現させた土壁を砕くガルド。
しかし勇輝は動じない。
ただ、自分と契約した式神達を信じてただひたすらに力を溜めていく。

少しずつ近づいてくるガルドと近付かせまいとする堅俉と輪墓。
その攻防はほんの数十秒ほどのものだったが、それでも観客達、そして堅俉と輪墓にとってはもっと長く濃密な時間のように感じられていた。
しかし、その時間も終わりを告げる。
溜めていた力が漏れ出したのか、勇輝を中心にあたり一帯に冷気が充満する。
それを感じとった堅俉と輪墓は射線を開けるため、自身が巻き込まれないようにするためにガルドから距離を取る。
当然それが何を意味するのか理解していたガルドだが、逃げない。
理由は単純。
殺し殺され合う事こそ至福と感じる男だ。
あたりを漂う冷気に勇輝から感じる力の奔流。
それを感じとっているからこそ、逃げない。

「いいぜ、来いよ!  お前の全力を俺に見せてみろ!」

勇輝の放つそれは物理攻撃でもなんでもなく、極限の温度変化をもたらすもの。
故に勇輝は防げるはずがないと、例え防御しようとも何か策があろうとも耐えられるはずがないと思い全力で力を放った。

「凍てつき終わる銀世界!」

勇輝の放ったそれは真っ白なドーム状となりガルドを閉じ込める。
前回放ったそれとは少々異なり、今回はガルドを中心として発動しており、なおかつ前回よりもサイズがふた回り小さくなっている。
つまりそれは前回よりも圧縮されているという事であり、もはや中の温度は凍りつくどころの話ではなくそれこそ生存を疑うどころか死を確信するレベルとなっている。

それから1分ほど経ち、勇輝の放った凍てつき終わる銀世界が解けていく。
そこにあったのは吹雪が固まり渦巻き状になり陽光を複雑に反射させる氷と、悠然と立っているガルドの姿だった。
本来ならば生きられないはずのガルドが生きている事に勇輝は驚き、そして自身と雪羅の最大の攻撃を耐えられた事に対する恐れから勇輝は咄嗟に憑依させる式神を雪羅からレティアに変更し空へと逃げる。
そう、逃げてしまったのだ。
まだ完全に晴れていない冷気の中に対して攻撃をすれば良かったのだが、空という只人では立ち入ることのできない領域へと逃げることを選んでしまったのだ。
ガルドがどうやって防いだのかを考える時間が欲しく、また警戒してのことなのかもしれないが、今回はそれが悪手であった。

ガルドの魔法属性は風。
自身にまとわせて移動速度を速めることも、敵を切り裂くことも、そして風を操り空気の層を作ることで敵の攻撃を防ぐこともできる。
今回は事前に聞いていた事もあり、自身の周りで竜巻を発生させる事で冷気を遮断したのだ。
もっとも、凍てつき終わる銀世界の効果が高すぎて完全には防げず、髪や尻尾の一部が凍りついている。
それでも戦闘を行うには問題がない。

「結構効いたぜー!  事前に聞いてなきゃ即死だったわ。つーわけで、今度はこっちの番だ!」

空へと向けた右手をガルドが振り降ろすと上から下へと向かう下降気流が発生し勇輝を地へと堕とす。
下降気流によってバランスを取ることすらできず、ただ地面に向かって堕ちる勇輝の真下へと移動したガルドは、天に向かって拳を突き上げた。
落下速度と自重、そして堅俉が作り上げた壁を軽々と砕く一撃を受けた勇輝は、痛みを感じる暇さえなく意識を手放した。




~????~

『どどど、どうする!  このままでは勇輝様が殺されてしまうぞ!』
『おおおお、落ち着け、お前達。まま、まだ、勇輝様が殺されたわけでは、なないぞ!』
『そういう貴様も落ちちゅかにゅか!』
『いや、お主も落ち着かぬか。揃いも揃って情けないのう。それでも悠久の時を生きる大妖か?  とはいえ、主人殿が死ぬのは妾も良しとせぬし、ここは妾が行かせてもらうぞ。お主らだとやりすぎるやもしれぬしのう。』
『流石は年の功といったところか。』
『歳は関係ないだろう!  お主らとそう変わらんだろうが!』
『おお、怖っ!  儂等はここらで退散するか』
『全く……さて、行くとするかの。』
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