病弱だったから異世界で元気に生活する。(仮)

椎茸大使

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勇輝参戦

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あまりの呆気なさに少しの間静寂が場を支配するも、一勝したことを思い出したのか1人が歓声をあげるとそれにつられるようにグレイフィア軍から歓声の嵐が巻き起こる。
その歓声を浴びながら………というか全く気にすることなく葵は駆けていき本陣の中で自分の出番の準備をしていた勇輝へと飛びつく。

「やったよ、ゆー君!」
「痛っ!  う、うん。おめでとう、ゆーちゃん。」
「はわっ!  ゆー君の撫で撫でだ~。えへへ。」

飛びついてきた葵を受け止めきれずに尻餅をつくが、そんな事はお構いなしとばかりに抱きしめる葵を見て勇輝は苦笑を浮かべながら頭を撫でる。

「えへへ~………すぴ~。」

「「寝ちゃったよ!」」

グリフィスとライオが叫んだ。

何かある度に褒めてと強請りはしないが顏が撫でてと主張して、その度に撫でていた勇輝の撫でテクはかなりのものに達しており、葵はその心地よさと一撃で終わらせたとはいえ、緊迫した空気とこれまでの訓練による精神的疲労によって寝てしまったようだ。
ただし、この撫でテクは葵限定のものであり、心地いいと感じるツボや個人の弱点的ポイントを把握しているからできる事であり、他の者ではただ心地いいと感じる程度である。
だから、戦い方を相談するために呼んでいた雪羅が寝る時に撫でてもらおうかとブツブツ呟いていても、期待に応える事が出来ないので諦めて欲しいと、勇輝は冷や汗を垂らしながらそう思った。

「それでユウキ様、誰を憑依させて出陣するか決まりましたか?」
「あ、リリアさん。うん。予定通り雪羅でいこうかなって。レティアと白音はあっちにばれているから。」
「そうですか。また、新しい姿が見られるのですね。」
「あはは……ちょっと恥ずかしいんですけどね。雪羅、悪いんだけどゆーちゃんを運ぶの手伝ってくれる?  僕一人だとちょっと無理そうだから。」
「分かりました。」

そうして雪羅に協力してもらい葵を近くの椅子に座らせると式符に戻した雪羅を自身に憑依させた。

白い冷気によって勇輝の姿は隠されその間に勇輝の姿が変わる。
隠されていても影は見えるので服が弾ける魔法少女とは違い、裸になりはしないものの何やら見てはいけない雰囲気にアリスとリリアが頬を赤くして見ており、その間も変化は続き、無事に変化を終えた影が手を振り冷気を散らす。
ちなみに演出方法は個別に設定できるという妙に芸が細かい仕様になっていたりする。
アリシアさんの茶目っ気です。

そこに立っていたのは白を基調とし、所々に雪の結晶が描かれた着物を濃い水色の帯で締め、長く綺麗な青銀の髪を持ち大人な雰囲気を醸し出す“女性”がいた。

「またこれーーー!?」

妖怪の基本能力である変化だ。
これを使えば性別を変える事など造作もないのだ。

「ちょっ!  なんでまた女になってるの!?」
『私は雪女ですから。』
「模擬戦した時は普通に男だったじゃん!」
『似合うと思いまして。』
「いや、似合うとか似合わないとかそういう問題じゃないから!」
『でも、この姿で敵を魅了してその隙を突けば高確率で倒せるのでは?』
「倒せるのでは?  じゃないから!  そもそもそんな勝ち方したくないよ!」

勇輝が雪羅と会話しているがそれを見ている者達からは一人で喋って何をしている?  という視線は発生していない。
何故ならば、皆が初めて見る和服美人に魅了されポーッと熱に浮かされたような顔をしているからだ。
そしてもしも葵が見逃した事を知れば悔しがり、見せてくれと勇輝に詰め寄る事だろう。

「とにかく、早く普通にしてよ!」
『……分かりました。』

少々……いや、かなり残念そうな声を出しながら雪羅は模擬戦の時の姿である、白い着物に濃い水色の袴を履いた姿に戻した。
また、さっきと違う部分はもう一つあり、髪の色と長さは変わっていないが頭頂部にて括られる、所謂ポニーテールとなっている。

自分の姿を確認して勇輝はホッと胸をなでおろす。
憑依させていても式神が何を考えているかまでは分からないので、雪羅が今度ファッションショーや撮影会みたいな事をしたいなと考えていたとしても、勇輝は知る事がない。
そして、それを知らないというのはきっと幸運なのであろう。
たとえ、いずれ実行されるとしても。

最後に霞月を妖刀状態で召喚し腰に下げる事で準備が完了する。

突然男が女になって、その女が男?  になったりという衝撃の連続と、男に戻してと言ったが元々の中性的な顔立ちと小柄な体躯、そして長い髪によって未だ美少女に見える勇輝を見て本陣内にいた人間(ほぼ男)とリリア、アリスは魅了され言葉なく立ち尽くしていた。
どうしたものかと勇輝は思ったが、『雪羅の時間も近いでしょうし、そろそろ行きましょう。』という発言もあり、後ろ髪引かれつつも一言も発しない人達を置いて勇輝は出陣した。

一騎打ちの場には既に敵の大将である将軍が待ち構えていた。
身の丈ほどもある大剣を携え、帝国に勝利をもたらさんが為、と油断する事なく勇輝を睨みつけていた。
勇輝も葵が一勝を上げたとはいえ、未だ追い込まれているグレイフィア王国の為に臆することなく睨み返す。

緊迫感ある空気の中、緊張とプレッシャーから歯をカチカチ鳴らし、膝をガクガクと震わせる一般兵のコイントスによって、大将戦の幕が上げられた。

「氷雨!」

先に動くは勇輝。
まずは小手調べと雪羅の雪女としての能力を使って氷の弾丸を雨のように降らせる。
しかし、先の葵戦を見ていた将軍には通じない。

「同じ手が2度も通じるかーー!」

一気に踏み込み氷雨の範囲から出た将軍はそのまま勇輝に向けて大剣を振り下ろす。
しかし、これは想定内。
氷雨を受けた敵が取れる行動は三つ。
避けるか防ぐか食らうかのどれか。
防ぐか食らう場合はその場で足を止める事になるのでそのまま続ければいい。
そして避けた場合は前とそれ以外で次の行動が読める。
それ以外だと勇輝から離れるので攻撃するなら魔法攻撃となり、前ならば大剣を使っての攻撃となる。
ここまでなら簡単に想像でき、想像通りの行動に対して勇輝は予定通りの行動をする。

想像した通り大剣の重みを使った振り下ろしを左前方に踏み込みながら居合の要領で抜き放った霞月で逸らし、そのまま返す刀で一閃する。
しかし勇輝の放った一撃は敵の頬を軽く裂くだけで躱されそのまま距離を取られる。

勇輝としてはこの一撃で決めたかった。
喧嘩どころか運動すら碌にしたことのない勇輝にとって、戦闘経験豊富で鍛え抜かれた肉体を持つ敵を相手に長期戦は望むところではない。
長引けばスペック頼りの動きを読まれてしまうから。
もちろん、そうなった時の奥の手は一つ二つ三つ四つ五つ六つ七つ八つ九つ………と大量にあるが、短期で決められるに越した事はない。

だから、敵が自分の動きに慣れる前に決めようと霞月に黒いオーラを纏わせながら勇輝は駆け出した。
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