病弱だったから異世界で元気に生活する。(仮)

椎茸大使

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釘刺し

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王城に着いた2人と1匹はいつものように食堂となっている場所でお昼ご飯を食べる。
リリアとアリスはまだ忙しいようで一緒に食事を取る暇さえ無いようだ。
勇輝としては先程ジュノンから聞いたことについて説明を求めたいところだったのだけれど、会えないのだから仕方がない。

「それで主人殿、初めての依頼はどうだったのかの?」
「無事に達成したよ。」

この場には勇輝と葵、そして白音以外にもう2人居る。
九尾の妖狐である琥珀と雪女の雪羅の2人。
普段から出っ放しなこの2人も勇輝達と一緒に食事をしている。
あ、ちなみにメイドさん達は数えてませんよ。
メイドさん達で2桁超えちゃうので。

「依頼が終わった後にちょっと休憩していた時に5人組の冒険者……に、なるのかな?」
「なるのかな?  とは、どういうことですか?」
「彼等は上級学校の生徒なんだって。でも戦争の影響で休校になってて小遣い稼ぎの為にやってるって。」
「ふぅむ……退魔師の真似事を小遣い稼ぎとは……分かってはおったが、やはり異世界ということじゃの。」

興味深そうに言う琥珀だが、椅子のサイズが合わず台を併用している。
そのせいで格好がつかない。
残念。

「時に主人殿、何故(なにゆえ)そのような気分の晴れない顔をしておるのだ?」
「え、ああ、ちょっと、羨ましいなって思って……ほら、僕はずっと入院していたから通った事なかったからさ。」
「あ……そうであったな。」

琥珀は気まずいと思った。
だって元凶なんだもん。
勇輝が学校に通えなかったの、自分達のせいなんだもん。
何を言ったらいいかと、あたふたしていると、ふと、勇輝の表情の翳りが気になった。
学校に通えなかったから、その羨ましさも確かにあるだろうが、表情を支配しているのは羨望ではなく猜疑心だった。
その、羨ましさとは違う翳り方が琥珀は気になった。
決して、話題逸らしのネタ見つけたとか思ってない。
思ってなんかないし。

「それだけではなかろう?  主人殿のその表情の理由は。」
「っ!?  …………実は……」

勇輝が語ったのはジュノンから聞いたラベスタ帝国の話とそれから考えられる推測、そして、なぜそれを教えてくれなかったのかという疑問。

「まだ結ばれたばかりだというのに、主人殿はもう亭主関白気取りかえ?」
「え?」
「相手の秘密も何もかも知りたい、隠し事など許さない等という傲慢な人間なのかと、問うておるのだ。」
「そんな、僕はそんなつもりは……ただ、勇者として召喚したのなら、教えてくれてもいいじゃないかって、そう思っただけで……。」
「主人殿のそれはそういう類ではなく、何故隠し事をしたのかと喧嘩になったりする、恋仲にある者がよく行うそれじゃ。その根底にあるのは自信の無さや相手を信じきれない心。主人殿はまだ結ばれたばかり。なんでもかんでも教えてもらえるなどと自惚れるでない。」
「僕はそんな……」
「だが、そう悪いことでもあるまい。少し前の主人殿であれば自分の人生を諦めていてそのような事思うことも無かったであろうが、今のそれは男としての自然な独占欲だ。人として生きる事を諦めておった主人殿がそういう心を持てるようになって妾は誇らしいぞ。それに、案外アリス辺りが既に知らせておるだろうと思いあえて言わなかっただけやも知れぬ。そう気にする事でもなかろう?」
「それはそうだけど……。」
「それでも気になるというのであれば、その不安を解消してきてやろう。」
「え?」

シュタッと椅子から飛び降りて勇輝達に背を向ける琥珀。

「今から聞きに行ってきてやろうと言うておるのだ。心配せずともよい。自分達を救ってくれた勇者様の気がかりを無くす為というのであれば、向こうの連中もとやかく言うまいて。では、行ってくるでの。」
「あっ。」

掌をひらひらと振り、んしょ、んしょ、と頑張ってドアを開けて出て行く琥珀。
言葉だけなら、かっこいい。
頼りになるお姉さん感が溢れていてとてもかっこいい。
本来の姿であれば大層様になるであろう。
だが、忘れてはならない。
今の彼女はまごう事なき幼女。
端的に言って、とても微笑ましい光景です。



リリアの元へと向かった琥珀だが、リリアは現在絶賛会議中だ。
だが、琥珀はそんな事知ったことかと堂々と入りそのままリリアの元へ。
知ってる人は知ってるし知らない人は知らない。
なので突然モッフモフの尻尾を持った幼女が乱入してきた事に対して2つの反応があった。
知ってる人は最後の一騎打ちの時に出てきた琥珀様だと敬うような態度だが、知らない人、つまりは戦争に対して日和見を決め込んでいた一部の貴族達だ。
その一部の者達が大事な会議中に乱入するなど何事だと、騒ぎ出した。

「黙れ小僧!  妾の事を知らぬであろうから今回だけは見逃すが、次は無いから覚悟せよ。」

幼女から放たれる圧倒的威圧感、それは神威と呼ぶにふさわしきオーラ。
そのオーラに騒いでいた者達はもれなく平伏す事に。

「騒がしくてすまぬな、リリア。」
「い、いえ。」
「妾の事を知らぬ者もおる事だしここで1つ名乗っておこう。妾の名は琥珀。我が主人、勇輝の式神である。この中に我が主人に近付こうと考える者があるだろうが、そのような考えは捨てる事だ。我が主人はようやく真っ当に生きられるようになったのだ。それを邪魔する者を妾達は決して許さぬ。もしも邪魔をしようとするのであれば、一族郎党、皆死ぬ事を覚悟せよ。」

琥珀は今は幼女の姿だが、悠久の時を生きてきた大妖怪だ。
当然気遣いも出来る。
そんな琥珀が先触れもなく入って来たのはここで1つ釘を刺しておこうと考えたからだ。
彼女達はいつだって自身の主人の事が最優先なのだ。
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