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戦争中(1)

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~ラベスタ帝国陣営~

「あれは一体なんだ!?」
「落とし穴ではないかと。」
「そんなことは分かっている!  何故あれだけ巨大な落し穴が自然崩落するでもなく、大勢の人間が上に来たという絶妙なタイミングで落ちたのかと聞いている!?」
「それは……私には分かりかねます。それよりもまずは減ってしまった千人分の兵力をどのように補うのか、そして、他に落し穴が仕掛けられていないかの確認を最優先すべきかと。」
「ぐぬぬ。忌々しい奴らよ。おい。今すぐ斥候を放ち、速やかに落し穴の位置を確認させろ。いくら我が帝国軍が武勇に優れていようとこれ以上数を減らされては危険かもしれないしな。」
「はっ!」

あの落し穴の仕掛けとしては土魔法で大きな穴を作り、そこに足場を作成する。
しかしそれだけではそんなにたくさんの人は落ちはしないだろうと考えた勇輝がバラエティ番組をヒントにして近くに土魔法を使える者を配置して、その者達に足場を支える柱を作らせる。
後はタイミングを見計らって魔法を解除すれば大量に落ちてくれるというわけだ。
それにもしも敵に気づかれても直ぐに逃げれるように転移魔法が使える者を付けている。
転移魔法が使える者は基本的に攻撃手段が乏しい。
しかし、この作戦ならば僅かな人数で大きな功績を上げることができ、そこに貢献できる為に特別手当が支給される。
つまりはたった一度の転移でボロ儲けできるというわけで転移魔法が使える者達が我こそはと自薦してきた。
ただ、レディックに関しては残念と言わざるをえない。
彼は勇輝達を安全かつ面識のある者がいる場所としてカトレイア邸に送らなければならず、勇者二人を送るが危険もないということで特別手当もかなり安くなっている。

かわいそうに。

~グレイフィア王国陣営~

「報告します。勇者様の考えた落し穴作戦、大成功しています!」
「「「「おぉ。流石は勇者様。」」」」
「戦果はどれくらいですか?」
「約千人ほどかと。これにより現在、我が軍が優勢です。」
「報告ありがとうございます。それで、次の作戦の準備はどうなっていますか?」
「全て完了しています。」
「そうですか。では、次の作戦の準備が整っている。即座に行動できるよう構えていてくれと兵達に伝えてください。」
「はっ!」


「ふうっ。やはり慣れませんね。この独特の空気には。」
「初めてなのですから仕方ありませんよ。それに、立派に務められていますよ。」
「そうだといいのですが。」

リリアは臣下の言葉に苦笑混じりにそう返す。

「それよりも、兵が元気なうちに出来るだけ敵を減らしておかないと。兵の実力も経験も軍としての練度も実績も我が軍は劣っています。少なくとも三千は減らしておかないと。」
「そうですな。その為には混乱している今が頑張りどきですな。」
「はい。」

~戦場(ラベスタ斥候兵)~

「どうだ?」
「あっちに一つ掘り返されたような大きな跡があった。」
「こっちもだ。これで三つか。」
「どうする?」
「どうするとは?」
「もう少しサボ……探すか、それとも本陣に戻るかだ。」
「お前なぁ。流石にサボるのは良く無いだろう。今すぐ帰るべきだろ……敵に見つからないように出来るだけ慎重に、ゆっくりと。」
「よくわかってる~。」

斥候に出た者たちは多少被害が出たものの、自分たちの軍が負けるとはこれっぽっちも思っておらず、多少時間が掛かろうとも構わないだろうと考えている。
それが吉と出るか凶と出るか。

~戦場(グレイフィア軍)~

「奴らの動きはどうだ?」
「ダミーの落し穴跡を見つけたようですが、どうも帰還するのがゆっくりなようです。」
「うぅむ。理由がわからないのが少し怖いが、予定通り囲む準備を。」
「了解です。」

ダミーの落し穴と言っている通り、実際に仕掛けた落し穴は最初のたった一つのみだった。
そして残りの物は全てそれっぽく見せて動きを誘導するための物。
それを利用して罠を仕掛けてくるだろうというところまでを考えての布陣を敷く。
これもまた勇輝の提案だ。
暇で入院中は色々な本やラノベ、アニメなどを嗜んでいた勇輝はその知識を活用して軍師の真似事を行っていた。

~ラベスタ帝国陣営~

「そうか。三つか。」
「はっ!  しかしながらあからさまでしたのでおそらくはったりかと。」
「わかった。下がっていいぞ。」
「はっ!」


「おそらくタイミングを見計らって奴らは一旦撤退して追撃させる。そして落し穴を避けて移動したところを狙ってくるのだろう。この地形から見て隠れられる場所はこの辺りになるか。なのでまずは第一陣が落し穴を避けるように進軍する。するとそこを狙ってやって来たところですかさず第二陣が攻めて挟撃にしろ。それと、そう思わせて穴の中から……ということもあるやも知れぬし一応警戒しておけ。」
「分かりました。」

(ふぅむ。とりあえずはこれでいいだろう。見たところ勇者は居ないようだしおそらく後の一騎打ちにて出てくる。使い魔は看破されて能力の詳細は分からないと言われたし、この戦いのみで決着をつけたいものだ。)

ラベスタ帝国の大将である将軍ロムスは本国から来た情報を思い出しながらそう考えていた。

~カトレイア邸~

「そろそろ修行に移りましょう。」
「えっ?  あ、もうそんな時間か。二人は先に行ってて。僕はちょっとシルフィちゃん達に挨拶してくるから。」
「ちょっと待ってください。私も行きます。ユウキ様は以前も迷子になったのをお忘れですか?」
「うっ!  それを言われると……」
「そういう事なら私も行こうかな。一人で先に行っててもつまらないし。(シルフィちゃんって子のことも気になるし)」

話もまとまったので、リルカの先導の元勇者二人はシルフィ達が稽古しているところへと向かった。

「あ、お兄ちゃん!」
「久しぶり、シルフィちゃん。」
「どうしてここに?  用事の方はもう終わったの?」
「まだなんだけどね。でも少し時間が取れたから一旦帰ってきたんだ。今日は忙しいみたいだし、明日少し遊ぼうね。」
「うん!  みんなにも伝えてくるね。」
「うん。」

「ふーん。随分と可愛い子だね。」
「そうだね。あんなに元気な姿を見ると和むよね。」
「いや、そういう事じゃないんだけど……」

ちょっとした嫌味のつもりで言った葵だったが、勇輝はそう捉えず話が噛み合っていなかった。

「お兄ちゃん、これ。私達がこの前作ったの。食べてみて。」

戻ってきたシルフィはハンカチに包まれたクッキーのようなものを差し出してきて、勇輝はそれを食べる。
そのクッキーのようなものは若干焦げていたが、十分な甘みがあり美味しく仕上がっていた。

「うん。美味しいね。ただちょっと焦げているから次は気をつけようね。」
「次も食べてくれるの?」
「もちろん。」
「じゃあ、頑張って作るね。」
「期待してるよ。あ、それと僕達はこれから修行だから行くけど、シルフィちゃん達も頑張ってね。」
「うん。」

そうして勇輝達はシルフィ達と別れて、修行を行うのだった。
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