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第64話 わりとまともなロマンチスト

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 二人は結界内の黄金の空の下、ソールーナとリュクレスは、並んで中庭のベンチに座っていた。

 すでに双子の姿はない。リュクレスがソールーナに言いかけてすぐ、それを止めて気を利かせて去っていったのだ。
 もちろんその際、気絶したベルナールも連れて行った。

 ……まぁ、気を利かせたのと同時に得体の知れないソールーナから体よく逃げたわけであるが。

 だからここには正真正銘、ソールーナとリュクレスのたった二人しか存在していない。

 ソールーナはドキドキしながら隣に座るリュクレスの横顔を見ていた。
 なにせソールーナはリュクレスの秘密を知ってしまったのだから……。

 リュクレスは仮面を着けていた。縦半分に割れた仮面を、器用なことにうまいこと着けているのだ。

「リュクレス様」

「なんだ」

「あの、さっきの続きなんですけど」

「……ああ」

 彼は頷き、そして――

「ソールーナ、俺はお前を……」
「さっきはすみませんでした!」

 二人は同時に言葉を発していた。

「は?」

「いえ、あの」

 意外そうなリュクレスの声に、ソールーナは再度頭を下げる。

「すみませんでした。その……、見ちゃって……」

 そこでバッと顔を上げ、

「でもどうして。姫様にキスしなかったんですか! まだ間に合ったかもしれないのに」

「……それより、俺の顔を見てどう思った? 惚れたか?」

「さぁ……?」

 突然話を変えられ、戸惑いつつもソールーナはこたえる。

「確かにものすいごい超イケメンではありましたが、それだけで惚れる女性はあんまりいないと思います」

「くっ……。俺の存在意義を根底から覆すようなことを言いやがる……」

「す、すみません」

「まあいい。お前は俺を好きにはならなかった、ということか」

 ガックリと肩を落とし、彼は続けた。

「こんなことならもっと早く素顔を見せておくべきだった。そうすれば、お前は今頃俺にぞっこんラブになっていたはずなのに」

「どうしてそうなるんですか。多分、うわイケメン、ぐらいにしか思わなかったんじゃないですかね」

「違うんだ、そうじゃない。顔でダメなら他にもいろいろアピールするポイントはあるだろ」

 彼は黄金の空を見上げた。

「重い荷物を持ってやったりとか、高いところのものを取ってやったりとか、飲んでいる紅茶のお代わりを淹れてやったりとか」

「凄い……、リュクレス様からそんな常識的なアピール方法を聞くだなんて」

「探していた本を見つけて同時に手を出して手が触れあって『あっ……』と手を引っ込めたりとかも、シチュエーション的にアリだと思う」

「超ナルシストなのが治まったら案外まともなロマンティストになるんですね、リュクレス様って」

「俺はもとよりお前よりよっぽどまともだぞ」

「なんですかそれは。ナルシストにそんなこと言われるとか心外ですね。私のほうがあなたよりもまともですから!」

「変な奴ほど自分がまともだと言うんだ」

「それはリュクレス様だってそうでしょ」

「俺はほんの少し顔に自信があるだけだよ。お前ほど本格的に狂ってない」

「ひっど」

「とにかくだな、お前に顔のアドバンテージが効かないと分かっていれば、時間の積み重ねを利用できたずなんだ。だから……俺が馬鹿だった」

「あー。ええと……」

 ソールーナは苦笑した。

(リュクレス様、私に振られたと思ってるんだ)

 そしてふっと微笑む。

「私、別にリュクレス様のこと嫌いじゃありませんよ。一緒にいてうるさ、面白いし」

「いま『うるさい』と言いかけたな?」

「なんのことでしょうか?」

 ふふふ、と笑いながらソールーナは受け流した。


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