「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント

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第57話 結界の内側

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 だが、どこか浮ついたその空気は唐突に破られる。

 まるで水の膜に撫でられるような感触が、身体中を撫でていったのだ。

「っ!?」

 思わず身構えるソールーナは見てしまった。
 空が一面、金色の光に覆われていくのを……。

 と、そこにドサリという音が響いた。

「ベルナール殿下!」

 フィメリアの悲鳴が聞こえる。フィメリアの隣でベルナール王子が倒れたのだ。

「!」

 駆け出そうとするソールーナだったが、それを制したものがいた。ユミリオ王子である。

「あなたはここにいてください」

「で、でも」

「何があるか分かりません。大丈夫、姉上は僕が守りますから」

「ユミリオ様……!」

 ソールーナが止める間もなくユミリオは走り、ソールーナはその背中を見つめるしかできなかった。

「姉上!」

 ユミリオの声に、ベルナールの傍らにひざまずいたフィメリアが顔を上げる。

「ユミリオ……」

「大丈夫ですか、姉上!」

「私は大丈夫です。ですがベルナール殿下が」

「脈をとりましょう。失礼します」

 ユミリオはベルナール王子の首筋に手を当てた。

「……脈は正常。意識を失っているだけですね」

「そうですか……」

 フィメリアはほっとした様子を見せた後、険しい表情になった。

「一体、なにがどうなって……。まさか、あの男が……!?」

 そんな様子を草陰から見つつ、ソールーナは一人じっと息を潜めていた。

(フィメリア様、なにか心当たりがあるの……?)

 フィメリアが言った『あの男』とやらのことが気になる。
 しかし、隠れているソールーナには、それを言い出すことが出来ない。

 何が起こっているのか……、ソールーナには分からないことだらけであった。

 このままここに隠れ続けるのがいいのかどうかなのも分からない。

(リュクレス様……!)

 心細いソールーナは、夫のことを思った。

 リュクレス――今夜のパーティーにおいて、すぐにはぐれてしまったソールーナの夫。

 ……出版社の編集長ヨスターに褒められた絵のモデル。
 絵のリュクレスは、愛する妻を見つめる瞳をしていたという。そして、それを見守る乙女の視線――描き手であるソールーナの眼差し。自分ではいまいちピンとこないが、きっとそういうことなのだろう。

 そのリュクレスがここにいてくれたら、どれだけ心強いだろうか……。そんなことを、ソールーナは願うのだ。

「その優男なら、大丈夫だ」

 リュクレスを思うソールーナの気持ちがたかぶり過ぎたのか、そんなリュクレスの声が聞こえた気がした。

「命に別状はない。気絶しているだけだ」

 ……いや、違う。これは幻聴なんかじゃない。
 何故なら双子の王子と王女がハッと顔を上げたからだ。

「この結界には力なき者の意識を飛ばす力があるからな」

「力なき者、ですって……?」

 フィメリアの険のある呟きにリュクレスの声が答える。

「邪魔されたくないんでな。なにせ、これから始まるのは俺とあんたの最終決戦なんだから」

 空一面の金の光に照らされて向こうから歩いてきたのは、白い仮面のリュクレスだった……。


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