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第38話 溺愛演技、開始

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 腰を抱き寄せられて驚いたソールーナだったが、それはそれとして見上げたユミリオの顔に感心してしまった。

(こうしてじっくり見たことなかったから気づかなかったけど……、ユミリオ様ってイケメンなんだなぁ)

 輝くような金髪、そして切れ長の金色の瞳。甘く整った顔に浮かべた輝くような微笑みには隠れもしない気品が宿っていた。まさに王子様である。

(どこかの自称イケメンとは大違いだわ……)

 堂々と顔をさらしているイケメンと、仮面に隠して自分はイケメンだと言い張る男と。どちらがよりイケメン度がはっきりしているかといえば、当然こっちのイケメンである。

 ユミリオは微笑んだまま騎士団長との話を進めた。

「サイモン、リュクレスって知ってますか?」

「ええ、はい。リュクレスなら、最近入ってきた仮面の騎士ですが……」

「このソールーナさんはね、彼の奥様なのですよ」

「おや、そうなのですか。ご夫君にはかねがねお世話になっております」

 と頭を下げる騎士団長。

「え、いえ、こちらこそ」

 とソールーナも頭を下げたところで、またぐいっと腰をユミリオに引き寄せられる。

「僕たちはね、リュクレスに僕たちの仲を見せつけに来たんです」

「はぁ……?」

 騎士団長サイモンがぽかんとする前で、ソールーナも小首を傾げた。

「ユミリオ様、何を言ってらっしゃるんですか?」

「それはもちろん……」

 皆まで言わず、ユミリオは金眼を微笑ませる。
 そして、そっと耳打ちしてきた。

「話を合わせて下さい、ソールーナさん。姉上関連のことですよ」

「ああ、成る程。そういうことですか……」

 つまりこうして仲のいい振りをしてリュクレスを嫉妬させようとしているのだ。

「でも肝心のリュクレス様がいないんじゃ作戦の効果も半減じゃないですかねぇ」

 なんて感想を述べていると……。

「……失礼する」

 貴賓室のドアが開いて、白い仮面の男が入ってきたのだ。もちろん彼は、自称超イケメンの――、

「……? なんでお前がここにいるんだ?」

「リュクレス様……」

「やぁ、リュクレス。初めまして、ですね」

 また引き寄せられる細い腰。

「!?」

 ソールーナの顔からさっと血の気が引いた。

 夫の目の前で、他の男に腰を抱かれているって……、これってかなりの修羅場ではないか。

 慌てて腰からユミリオの手を剥がそうとするが、うまくいかない。

「ちょ、ユミリオ様、離して下さい」

「ソールーナさん」

 ユミリオはまた耳打ちしてくる。

「演技です、演技。演技をしてください。すべては姉上のためです」

「……!」

 演技は始まっている。つまりこれは、リュクレスを呼び出しておいて浮気現場(?)を見せつけて嫉妬を煽るという、ユミリオの作戦なのである。

 理解したソールーナはリュクレスに視線を送った。

 リュクレスには昨夜ちゃんと話して聞かせたのだ。だからこれがリュクレスを嫉妬させるための演技だ、ということくらい分かっているはず……。



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