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第36話 挿絵画家のスカウト
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ラルハン公爵との挨拶を終えたあと、一息つくためにソールーナとユミリオ王子はサロンにて紅茶を飲んでいた。
そこでユミリオ王子がしみじみという。
「いやあ、まさかあそこまで盛り上がるとは……。ソールーナさんは人心掌握術に長けているんですね」
「そ、そんな大したものではありません! ただお話を盛り上げようと思っただけですよ」
「それがすごいんです。盛り上げようと思って盛り上げられる人はなかなかいないものです」
「そうですかねぇ……」
「僕の見立てでは、ソールーナさんのトーク力はかなり高いですよ」
「え、そんなことないと思いますけど……」
「間違いないですね。あなたの盛り上げ力はかなりのものです」
そこでユミリオ王子はくすりと笑う。
「それにしても、まさかソールさんがラルハン公爵の絵師としてスカウトされるとは思ってもみませんでしたけどね」
「あれはリップサービスだと思いますよ。私の画力なんて大したもんじゃありませんし」
――どういう話の流れだったか忘れたが、何故かソールーナが絵を描くのが好きだ、という話題になったのである。
それで、ちょっと描いてみてくれないかな、と頼まれたソールーナは快諾し、その場でさらりとラルハン公爵の似顔絵を描き上げたのだった。
あまり時間を掛けるわけにもいかないから、じっくり描くのではなくて、思いっきりデフォルメを効かせて可愛らしいタッチにした。
それをラルハン公爵がいたく気に入り、なんとソールーナを専属絵師として雇いたいとまで言い出した――というようなことがあったのだ。
もちろん丁重にお断りしたし、そもそもラルハン公爵にしたって本気ではないだろう。ただのリップサービスだ。
しかし、ユミリオが感慨深げに呟いた。
「あなたの描いた公爵の似顔絵、ものすごくそっくりでした。ソールーナさんって人物画もいけるんですね、風景画だけかと思っていましたよ」
「ああ、あれは……。ここだけの話、似顔絵って似せるコツがあるんですよ。それができれば誰だって似てる似顔絵が描けるんです」
「なるほど……」
ユミリオは顎に手を当て、少々考え込むそぶりをしたあと、ついっと金の瞳でソールーナを見つめる。
「……ところでソールーナさん。挿絵画家に興味ありませんか?」
「挿絵画家……?」
「はい。実は僕、出版社に伝手があって。その出版社がいま、絵が描ける人材を探しているんですよ」
「え……ええ!?」
まさかのスカウトである。
「今まで挿絵を描いてくれていた方が急に引退してしまって……。代わりの画家を急いで探さなくてはならなくなったんです。それであなたのポートフォリオを――あなたが今まで描いてきた絵を見せてもらえると、僕も推薦のしがいがあるんですが……」
「えっと……。あの……。私なんかの絵でいいんでしょうか?」
「あなたの絵は一定の上手さは超えています。あとはどれだけ描けるのか確かめたいんです。特に小説の挿絵だから人物画のレベルを重点的に見たいんですが……。駄目ですか?」
「いえ、全然大丈夫です! むしろありがたいです!」
「良かった。じゃあ、描きためたスケッチとか、そういうのを今度僕に渡してくれますか。それを出版社の方に仲介します」
いやはや、これはものすごいチャンスである。相手は王子様だし、これが詐欺なんてことはないだろう。
ソールーナだって、絵でお金を稼ぐことができたら……なんて夢見たこともあったのだ。
でも実際問題、そんな才能が自分にあるとは思えなかった。だから趣味にしておこうと思っていたのだが……。
でもこうしてスカウトされたのだ、チャンスは最大限に活かしたいと思う!
しかしさすがは王子様である。出版社に伝手があるだなんて、顔が広くていいなぁ、と感心するソールーナだった。
「では、話がまとまったところで」
と、ユミリオは椅子から腰を上げた。
「行きましょうか、ソールーナさん」
「はい……って、今度はどこに行くんですか?」
「王宮騎士団本部ですよ」
「えっ……!?」
「姉上に頼まれたことをきちんと遂行しないとね」
ぱっちん、と。お茶目に金眼をウインクするユミリオ王子だった。
そこでユミリオ王子がしみじみという。
「いやあ、まさかあそこまで盛り上がるとは……。ソールーナさんは人心掌握術に長けているんですね」
「そ、そんな大したものではありません! ただお話を盛り上げようと思っただけですよ」
「それがすごいんです。盛り上げようと思って盛り上げられる人はなかなかいないものです」
「そうですかねぇ……」
「僕の見立てでは、ソールーナさんのトーク力はかなり高いですよ」
「え、そんなことないと思いますけど……」
「間違いないですね。あなたの盛り上げ力はかなりのものです」
そこでユミリオ王子はくすりと笑う。
「それにしても、まさかソールさんがラルハン公爵の絵師としてスカウトされるとは思ってもみませんでしたけどね」
「あれはリップサービスだと思いますよ。私の画力なんて大したもんじゃありませんし」
――どういう話の流れだったか忘れたが、何故かソールーナが絵を描くのが好きだ、という話題になったのである。
それで、ちょっと描いてみてくれないかな、と頼まれたソールーナは快諾し、その場でさらりとラルハン公爵の似顔絵を描き上げたのだった。
あまり時間を掛けるわけにもいかないから、じっくり描くのではなくて、思いっきりデフォルメを効かせて可愛らしいタッチにした。
それをラルハン公爵がいたく気に入り、なんとソールーナを専属絵師として雇いたいとまで言い出した――というようなことがあったのだ。
もちろん丁重にお断りしたし、そもそもラルハン公爵にしたって本気ではないだろう。ただのリップサービスだ。
しかし、ユミリオが感慨深げに呟いた。
「あなたの描いた公爵の似顔絵、ものすごくそっくりでした。ソールーナさんって人物画もいけるんですね、風景画だけかと思っていましたよ」
「ああ、あれは……。ここだけの話、似顔絵って似せるコツがあるんですよ。それができれば誰だって似てる似顔絵が描けるんです」
「なるほど……」
ユミリオは顎に手を当て、少々考え込むそぶりをしたあと、ついっと金の瞳でソールーナを見つめる。
「……ところでソールーナさん。挿絵画家に興味ありませんか?」
「挿絵画家……?」
「はい。実は僕、出版社に伝手があって。その出版社がいま、絵が描ける人材を探しているんですよ」
「え……ええ!?」
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「今まで挿絵を描いてくれていた方が急に引退してしまって……。代わりの画家を急いで探さなくてはならなくなったんです。それであなたのポートフォリオを――あなたが今まで描いてきた絵を見せてもらえると、僕も推薦のしがいがあるんですが……」
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「いえ、全然大丈夫です! むしろありがたいです!」
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