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第32話 キスの効能?
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夜、夫婦の寝室にて。
愛読書『姉騎士と僕の微妙な関係』をパタリと閉じ、ソールーナはリュクレスに向き直った。
「というわけで、エルミリオ様」
「誰がエルミリオだ」
ベッドに寝転がったまま、リュクレスがムスっと言い返す。もちろん白い仮面はつけたままである。
いけない、小説に入り込みすぎて頭の中がエルミリオ一色になっていた。
ソールーナは慌てて認識を現実世界にチューンナップした。
「すみませんリュクレス様。では改めて。というわけで、明日から三日間、ユミリオ様の側仕えをすることになりました」
「あっそ」
思ったほどの反応を得られず、ソールーナは小首を傾げた。
「それだけですか?」
「ああ」
「なんかつれないですね」
嫉妬しろとはいわないが、もう少しくらい感心は持って欲しかった。
「当たり前だろ。たったの三日間だぞ。これでフィメリアの婚約がなくなるっていうのなら話は別だが……」
「そこまでの影響力はないですよ。ただの出張ですし」
「だろ? ならこれ以上なんの反応をしたらいいっていうんだよ」
「もうちょっとこう、『俺は反対だ』『男に仕えるなど心配だ』『浮気するなよ』とかそういう心配があってもいいんじゃないでしょうか」
「なんだよ。嫉妬して欲しいのか?」
「ああ、それなんですが……」
ソールーナは少し口ごもった。
「これは姫様の作戦でして……」
「フィメリアの?」
「はい。なんでも、私をユミリオ様の側仕えにして、仲良くさせて、リュクレス様に嫉妬させようとしているのだとか」
「アホか」
「私もそう思います。ですが相手は王女様ですので……」
「宮仕えってほんと辛いんだな。アホな上司の思いつきに付き合わねばならんとは」
ここまで言われれば、さすがにソールーナもムッとなる。
「そんなアホアホ言わないでください。フィメリア様はご聡明なお方ですよ」
「お前もアホには同意しただろが」
「そ、それは。でもフィメリア様は本当に素晴らしいお人なんですよ。困っている人を放っておくことのないお人で、とても慈悲深くて……。まさに聖女と呼ばれるにふさわしいお人柄で――」
「一言でいうと『お節介』だな」
「……ま、まあ、行きすぎたところもあるにはありますし、それがお節介に見えてしまうこともあるでしょうね」
そのものズバッと言ってくるリュクレスに、ソールーナはなんとかフォローを入れようとする。
だがリュクレスは寝転がったまま手をひらひらと振ってそれを制した。
「お節介姫様のお相手は大変だな、ソールーナ」
「……し、仕事ですから」
「まぁ、それでももしユミリオになにかされそうになったら俺の名を呼べよ。すぐに駆けつけて助けるから」
「え?」
意外なことをいう彼に、ソールーナは思わずドキリとしてしまった。
「やっぱり私のこと心配して……」
「違う。神与の英雄力を持つ英雄としての義務みたいなもんだ。お前には俺の加護がついているから、何かあればすぐにわかる」
「……加護?」
「キスしただろ」
「……っ」
ソールーナの心臓が跳ねた。
あの異空間の花園でしたキスのこと。それから、その日の夜にのしかかってきた彼の体重のこと……。それらを思い出してしまったのだ。
「キ、キスがなんだっていうんですか。キスくらいで私の心が動くとでも思ったら大違いなんですからねっ」
「ああ、お前は気づいてないのか。あのキスからこっち、どうも変な感覚があってな……」
言いながら、彼は仰向けになって、手を上に突き出した。まるで何かをつかみ取るように拳を握る。
「お前の気配をビンビン感じるんだ。力がみなぎってくる感じがするっていうか……」
「それはいったい……?」
「分からん。ただそういう感じがする、というだけだ」
愛読書『姉騎士と僕の微妙な関係』をパタリと閉じ、ソールーナはリュクレスに向き直った。
「というわけで、エルミリオ様」
「誰がエルミリオだ」
ベッドに寝転がったまま、リュクレスがムスっと言い返す。もちろん白い仮面はつけたままである。
いけない、小説に入り込みすぎて頭の中がエルミリオ一色になっていた。
ソールーナは慌てて認識を現実世界にチューンナップした。
「すみませんリュクレス様。では改めて。というわけで、明日から三日間、ユミリオ様の側仕えをすることになりました」
「あっそ」
思ったほどの反応を得られず、ソールーナは小首を傾げた。
「それだけですか?」
「ああ」
「なんかつれないですね」
嫉妬しろとはいわないが、もう少しくらい感心は持って欲しかった。
「当たり前だろ。たったの三日間だぞ。これでフィメリアの婚約がなくなるっていうのなら話は別だが……」
「そこまでの影響力はないですよ。ただの出張ですし」
「だろ? ならこれ以上なんの反応をしたらいいっていうんだよ」
「もうちょっとこう、『俺は反対だ』『男に仕えるなど心配だ』『浮気するなよ』とかそういう心配があってもいいんじゃないでしょうか」
「なんだよ。嫉妬して欲しいのか?」
「ああ、それなんですが……」
ソールーナは少し口ごもった。
「これは姫様の作戦でして……」
「フィメリアの?」
「はい。なんでも、私をユミリオ様の側仕えにして、仲良くさせて、リュクレス様に嫉妬させようとしているのだとか」
「アホか」
「私もそう思います。ですが相手は王女様ですので……」
「宮仕えってほんと辛いんだな。アホな上司の思いつきに付き合わねばならんとは」
ここまで言われれば、さすがにソールーナもムッとなる。
「そんなアホアホ言わないでください。フィメリア様はご聡明なお方ですよ」
「お前もアホには同意しただろが」
「そ、それは。でもフィメリア様は本当に素晴らしいお人なんですよ。困っている人を放っておくことのないお人で、とても慈悲深くて……。まさに聖女と呼ばれるにふさわしいお人柄で――」
「一言でいうと『お節介』だな」
「……ま、まあ、行きすぎたところもあるにはありますし、それがお節介に見えてしまうこともあるでしょうね」
そのものズバッと言ってくるリュクレスに、ソールーナはなんとかフォローを入れようとする。
だがリュクレスは寝転がったまま手をひらひらと振ってそれを制した。
「お節介姫様のお相手は大変だな、ソールーナ」
「……し、仕事ですから」
「まぁ、それでももしユミリオになにかされそうになったら俺の名を呼べよ。すぐに駆けつけて助けるから」
「え?」
意外なことをいう彼に、ソールーナは思わずドキリとしてしまった。
「やっぱり私のこと心配して……」
「違う。神与の英雄力を持つ英雄としての義務みたいなもんだ。お前には俺の加護がついているから、何かあればすぐにわかる」
「……加護?」
「キスしただろ」
「……っ」
ソールーナの心臓が跳ねた。
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「キ、キスがなんだっていうんですか。キスくらいで私の心が動くとでも思ったら大違いなんですからねっ」
「ああ、お前は気づいてないのか。あのキスからこっち、どうも変な感覚があってな……」
言いながら、彼は仰向けになって、手を上に突き出した。まるで何かをつかみ取るように拳を握る。
「お前の気配をビンビン感じるんだ。力がみなぎってくる感じがするっていうか……」
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