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第28話 不思議な暖かさ(リュクレス視点)
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姫を助けたというのにこの仕打ちはなんだよ! ……と、リュクレスは当然ながら憤った。
もちろん、差し向けられるであろう暗殺者の撃退などリュクレスにとってはお茶の子さいさいである。
だが嫁にしたい王女の国にそんなことをされるということは、つまりは最後通牒を突きつけられるということだ。
そこまでなったらもう王女を嫁にするしないの話ではなくなってしまうことくらい、リュクレスにも分かっていた。
では国外追放がいいかというと、これはもってのほかだ。せっかく知り合った王女と別れることになるし、国を出てしまったらもう二度と会うことはできないだろうから。
いっそこのことフィメリア王女を攫ってしまうか? とも思ったが、それをしたら後がない。さすがにそれは最終手段にしておきたいと思う。
それまでは、リュクレスは王国に留まる必要がある。
結局、リュクレスに残された道はただ一つだった。
王家が差し出してきた女と結婚するのだ。聞けば、その女は王女の側仕えだという。
フィメリア王女に近しい女である。
まだ目はある、とリュクレスは思った。妻がフィメリア王女の側仕えなら、リュクレス自身がフィメリア王女と触れあう機会もあるだろう。
そうすれば、なんとかなるのではないか? そんな期待があった。
だからリュクレスはソールーナとの結婚に合意した。
愛するつもりはなかったし、妻のことなどフィメリアへの足がかり程度にしか思っていなかったが……。
それでも、ソールーナと共に過ごす時間は楽しいものだった。
極めつけは昨日のキスだ。
あの空間はフィメリアが作ったものだから、どこから見られているか分かった物ではない……そんな緊張感のなかでしたキス。
柔らかい唇だった……。
理性が「あ、これ無理だわ。俺もっとキスしたい」と早々に白旗を揚げるのをなんとかなだめすかして唇を離したが……。
思い出しただけでも、またあの唇に触れたくなってくる。こんど触れることとなったら、もっと長く。そして、もっと深く触れたい――。
――この気持ちは、なんだ? 俺はソールーナをどうしたいっていうんだ?
それは、自分から愛するということを知らないリュクレスにとっては未知の感覚であった。
手を伸ばせば霞のように霧散してしまう、薔薇色の何かである。
昨夜などつい悪ノリがすぎて、あと少しでソールーナを襲うところだった。
……今思えば、好きだろうが好きじゃなかろうが、襲うだけなら襲えたはずだ。『仮面をつけていてもできること』の幅はわりと広い。いくらフィメリアに告げ口されようとも、そんなの知ったことじゃない。
それでも途中で止めたのは、ソールーナの了承を得たかったからである。どうせならソールーナから求められたかった。
だが素顔を見せたわけでもないソールーナの反応に、リュクレスはいまいち自信が持てないでいた。
(ソールーナ……、お前には俺の素顔を見てもらいたい。そのために俺はフィメリアに愛を誓わせなくてはならない……)
そうしたら、言ってくれ。とリュクレスは思う。
リュクレス様大好き、と。寝言ではなく、ちゃんとこのイケメン顔を見つめて、はっきりと……。
……それに。
昨日、あの花畑でキスをしてから妙な感覚が身体にあるのだ。
身体の奥深くから力が湧いてくるような、芯がポカポカするような……感じたこともなかった感覚。とにかくソールーナとの繋がりを深く感じる、というか。
それが何を意味するのか。リュクレスには、分からない。
もちろん、差し向けられるであろう暗殺者の撃退などリュクレスにとってはお茶の子さいさいである。
だが嫁にしたい王女の国にそんなことをされるということは、つまりは最後通牒を突きつけられるということだ。
そこまでなったらもう王女を嫁にするしないの話ではなくなってしまうことくらい、リュクレスにも分かっていた。
では国外追放がいいかというと、これはもってのほかだ。せっかく知り合った王女と別れることになるし、国を出てしまったらもう二度と会うことはできないだろうから。
いっそこのことフィメリア王女を攫ってしまうか? とも思ったが、それをしたら後がない。さすがにそれは最終手段にしておきたいと思う。
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フィメリア王女に近しい女である。
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そうすれば、なんとかなるのではないか? そんな期待があった。
だからリュクレスはソールーナとの結婚に合意した。
愛するつもりはなかったし、妻のことなどフィメリアへの足がかり程度にしか思っていなかったが……。
それでも、ソールーナと共に過ごす時間は楽しいものだった。
極めつけは昨日のキスだ。
あの空間はフィメリアが作ったものだから、どこから見られているか分かった物ではない……そんな緊張感のなかでしたキス。
柔らかい唇だった……。
理性が「あ、これ無理だわ。俺もっとキスしたい」と早々に白旗を揚げるのをなんとかなだめすかして唇を離したが……。
思い出しただけでも、またあの唇に触れたくなってくる。こんど触れることとなったら、もっと長く。そして、もっと深く触れたい――。
――この気持ちは、なんだ? 俺はソールーナをどうしたいっていうんだ?
それは、自分から愛するということを知らないリュクレスにとっては未知の感覚であった。
手を伸ばせば霞のように霧散してしまう、薔薇色の何かである。
昨夜などつい悪ノリがすぎて、あと少しでソールーナを襲うところだった。
……今思えば、好きだろうが好きじゃなかろうが、襲うだけなら襲えたはずだ。『仮面をつけていてもできること』の幅はわりと広い。いくらフィメリアに告げ口されようとも、そんなの知ったことじゃない。
それでも途中で止めたのは、ソールーナの了承を得たかったからである。どうせならソールーナから求められたかった。
だが素顔を見せたわけでもないソールーナの反応に、リュクレスはいまいち自信が持てないでいた。
(ソールーナ……、お前には俺の素顔を見てもらいたい。そのために俺はフィメリアに愛を誓わせなくてはならない……)
そうしたら、言ってくれ。とリュクレスは思う。
リュクレス様大好き、と。寝言ではなく、ちゃんとこのイケメン顔を見つめて、はっきりと……。
……それに。
昨日、あの花畑でキスをしてから妙な感覚が身体にあるのだ。
身体の奥深くから力が湧いてくるような、芯がポカポカするような……感じたこともなかった感覚。とにかくソールーナとの繋がりを深く感じる、というか。
それが何を意味するのか。リュクレスには、分からない。
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