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第26話 大富豪(カードゲーム)のルールをよく知らない令嬢
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「な、なにするんですか!?」
「仮面つけててもできることって、なーんだ?」
「……っ」
いきなりそんなことを言われて、考えついたことをそのまま話すのも恥ずかしい。
「と……、トランプゲームとか?」
「この状態でする大富豪はさぞかし面白いだろうな……ってんなわけあるか! 革命起こすぞこら」
「革命返ししてやりますよ」
「やり手だな、お前」
言ったきり、彼は無言になる。しばしそのままの体制でいたが、やがてソールーナの身体の上からどく。
「やめた」
「え?」
「やっぱり、お前が俺に惚れてると確信を持ってからのほうがいい」
「はぁ?」
なにを言っているのだろう、この仮面の騎士様は。
「すべてはフィメリアに愛を誓わせ、その唇を奪ってからだ。そうしたら俺はお前に素顔を見せられるし、お前は俺に惚れる。絶対に」
「何度聞いても凄い自信ですね」
そして理解できたこともある。
つまりは、フィメリアにキスされたら仮面を外して素顔を晒してもいいとリュクレスが考えている、ということだ。
「でも。あなたは私のことを愛するつもりはないんでしょ?」
「俺がお前を愛するのではない、お前が俺を愛するのだ」
「哲学ですか?」
「俺にとっての人生教訓だ。まぁそういうわけだから安心しろ。お前のその可愛い嫉妬は必ず成就してやるからな」
「嫉妬してませんってば!」
「おやすみ」
くるん、と背を向けてベッドに横になるリュクレス。
「あの、まだ話は終わって……」
「寝ろ。明日だって城勤めがあるんだろ?」
「うぅ……」
どうやら今日はこれ以上話をしてくれるつもりがないらしい。
勝手に先に寝ようとするのは初夜のときと同じである。
仕方なしに、ソールーナも毛布を被って眠りについた。
それでも、今夜分かったことは大きい。
リュクレスがあの仮面を好きでつけているわけではないということ。それから、どうやらフィメリアとキスしたら取っていいということになっているらしいこと。
それから……、前々から分かっていたことだが、リュクレスが自分の素顔に相当自信をもっているということ。
自分の素顔を見た人はみな自分に惚れると思い込んでいること……。
そして、ソールーナに素顔を見せて、自分に惚れさせようとしていること。
お前を愛するつもりはない、と宣言したくせに。
いや、ある意味その通りなのだ。愛するつもりはないが、愛されるつもりは満載なのだろう。
(改めて考えてみると、すっごい自信……!)
とはいえ結局のところ、リュクレスはソールーナに自分のことを惚れさせようとしているだけなのだ。
それってもう……、リュクレスこそソールーナに惚れてないか? と思う。
そう思った途端、
ぼっ
とソールーナの顔が赤くなった。
一度意識すると止めどもなく思い出されてしまう。
唇に触れた、あの優しい感触を。ソールーナの唇を食み、名残惜しそうに離れた彼の唇を……。
(馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!)
ソールーナは一人、ぶんぶんと首を振る。
そのリュクレスに、さきほど襲われかけたことも……。
(で、でも良かった)
ソールーナはドキドキする胸を押さえ、落ち着こうとする。
(勝負が始まらなくて本当に良かった。本当はあんまり大富豪のルールって知らないのよね……)
『革命』が必殺技だということくらいなら知っているのだが。
だがこの程度の知識では、もしさっき押し倒されたまま大富豪をすることになっていたら確実に負けていたことだろう。
もし負けていたら、『仮面をつけていてもできること』が本当に始まっていたかもしれない。
勝負が始まらなくて、よかった。
しかしそこでソールーナはハッとする。
(大富豪じゃなくて神経衰弱なら得意だわ!)
神経衰弱――つまり、絵合わせである。
普段から景色を暗記しようと気を配っているソールーナは、そのあたりの感覚が鍛えられているのだ。
(もしこんどトランプの勝負を挑まれたら神経衰弱を提案してみよう)
だが相手の得意分野にのってくれるだろうか、あのリュクレスが。
そのことにもドキドキしつつ、ソールーナはしばらく眠れなかった。
「仮面つけててもできることって、なーんだ?」
「……っ」
いきなりそんなことを言われて、考えついたことをそのまま話すのも恥ずかしい。
「と……、トランプゲームとか?」
「この状態でする大富豪はさぞかし面白いだろうな……ってんなわけあるか! 革命起こすぞこら」
「革命返ししてやりますよ」
「やり手だな、お前」
言ったきり、彼は無言になる。しばしそのままの体制でいたが、やがてソールーナの身体の上からどく。
「やめた」
「え?」
「やっぱり、お前が俺に惚れてると確信を持ってからのほうがいい」
「はぁ?」
なにを言っているのだろう、この仮面の騎士様は。
「すべてはフィメリアに愛を誓わせ、その唇を奪ってからだ。そうしたら俺はお前に素顔を見せられるし、お前は俺に惚れる。絶対に」
「何度聞いても凄い自信ですね」
そして理解できたこともある。
つまりは、フィメリアにキスされたら仮面を外して素顔を晒してもいいとリュクレスが考えている、ということだ。
「でも。あなたは私のことを愛するつもりはないんでしょ?」
「俺がお前を愛するのではない、お前が俺を愛するのだ」
「哲学ですか?」
「俺にとっての人生教訓だ。まぁそういうわけだから安心しろ。お前のその可愛い嫉妬は必ず成就してやるからな」
「嫉妬してませんってば!」
「おやすみ」
くるん、と背を向けてベッドに横になるリュクレス。
「あの、まだ話は終わって……」
「寝ろ。明日だって城勤めがあるんだろ?」
「うぅ……」
どうやら今日はこれ以上話をしてくれるつもりがないらしい。
勝手に先に寝ようとするのは初夜のときと同じである。
仕方なしに、ソールーナも毛布を被って眠りについた。
それでも、今夜分かったことは大きい。
リュクレスがあの仮面を好きでつけているわけではないということ。それから、どうやらフィメリアとキスしたら取っていいということになっているらしいこと。
それから……、前々から分かっていたことだが、リュクレスが自分の素顔に相当自信をもっているということ。
自分の素顔を見た人はみな自分に惚れると思い込んでいること……。
そして、ソールーナに素顔を見せて、自分に惚れさせようとしていること。
お前を愛するつもりはない、と宣言したくせに。
いや、ある意味その通りなのだ。愛するつもりはないが、愛されるつもりは満載なのだろう。
(改めて考えてみると、すっごい自信……!)
とはいえ結局のところ、リュクレスはソールーナに自分のことを惚れさせようとしているだけなのだ。
それってもう……、リュクレスこそソールーナに惚れてないか? と思う。
そう思った途端、
ぼっ
とソールーナの顔が赤くなった。
一度意識すると止めどもなく思い出されてしまう。
唇に触れた、あの優しい感触を。ソールーナの唇を食み、名残惜しそうに離れた彼の唇を……。
(馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!)
ソールーナは一人、ぶんぶんと首を振る。
そのリュクレスに、さきほど襲われかけたことも……。
(で、でも良かった)
ソールーナはドキドキする胸を押さえ、落ち着こうとする。
(勝負が始まらなくて本当に良かった。本当はあんまり大富豪のルールって知らないのよね……)
『革命』が必殺技だということくらいなら知っているのだが。
だがこの程度の知識では、もしさっき押し倒されたまま大富豪をすることになっていたら確実に負けていたことだろう。
もし負けていたら、『仮面をつけていてもできること』が本当に始まっていたかもしれない。
勝負が始まらなくて、よかった。
しかしそこでソールーナはハッとする。
(大富豪じゃなくて神経衰弱なら得意だわ!)
神経衰弱――つまり、絵合わせである。
普段から景色を暗記しようと気を配っているソールーナは、そのあたりの感覚が鍛えられているのだ。
(もしこんどトランプの勝負を挑まれたら神経衰弱を提案してみよう)
だが相手の得意分野にのってくれるだろうか、あのリュクレスが。
そのことにもドキドキしつつ、ソールーナはしばらく眠れなかった。
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