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第20話 スケッチブック!

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 ソールーナとリュクレス、二人が手を取り合って扉を抜けると、そこには――。

 豪華な調度品に、見覚えのある華奢なテーブル……。
 ここはフィメリア王女の私室だと、ソールーナはすぐに悟った。

 テーブルにつき水晶玉を見つめていたフィメリア王女が声をあげる。

「あら、お帰りなさい」

「姫様!」

「水晶玉が曇ってしまってよく見えなかったんですけど……、出てこられたということはキスできたのね」

 フィメリアは嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「おめでとう、お二人とも。これで神もあなたがたを祝福して下さることでしょう。聖域認定聖女たるこのフィメリア・アントセルモが保証いたしますわ」

「姫様! ひどいです!」

 ソールーナはフィメリアの元へ駆け寄ると、その肩を掴み詰め寄った。

「スケッチブックを下さい! そして速やかに花園に戻して下さい!」

 ガクガクガクガクガクガクガクガク! とフィメリアの肩を小刻みに揺するソールーナ。

 しかし、残像を残しながらもフィメリアは涼しい顔である。

「なんの話かしら?」

「もちろん鉛筆もください! あの絶景をスケッチしたいんです!」

「違うだろソールーナ。無理矢理キスさせられたことにお前は怒ってるんだろ!」

「……くっ。私は……!」

 いろいろとショックキングなことが多すぎて、自分で自分が分からない。

 だが頭の中のイメージには勝てなかった。幻想の花園がソールーナの帰りを待っているのだ……!

「とにかくスケブと鉛筆を!」

「そっちか。お前は俺とのキスよりそっちが重要なんだな」

「そういうこともなきにしもあらず!」

「否定しろよさすがに傷つくわ」

「ああ……、あのね、ごめんなさいソールーナ。あの花園は消してしまったわ」

「え……?」

 ピタ、と止まるソールーナ。

 消した……?

「だってもう用が済んだんですもの。あの空間を維持するのも魔力が大変だったのよ?」

「そ、そんな……」

 わなわなと震え、ソールーナはその場にぺたんと座り込んだ。

 戻ってスケッチするんだ、あの理想的な花園を思う存分描きまくるんだ。そうしたらきっと最高に幸せになれる。……だからあの花園からでてきたのに。なのに、なのに。

 信じていたものがガラガラと音をたてて崩れていく……。

「そんな、嘘……、嘘です、そんなの……」

 鼻の奥がつんとしてくる。ソールーナは泣き出す寸前だ。

 地平まで続く色とりどりの花々。抜けるような雲一つない青空……、そしてさわやかで柔らかい花の香り。風が吹けばまるで波のようにさざ波が走る花園。そのなかに一基だけ備え付けられたいい感じのモチーフ、天蓋付きのベッド……。

 最初から幻の花園だっとはいえ、あれが全部、本当に幻となってしまうだなんて。

「う……、もうあの絶景がないなんて……」

「なんだかごめんなさいね、ソールーナ。そこまで気に入ってもらえていただなんて……」

「くっ……、せめて……、せめて鉛筆を持っていれば……!」

 ぐずっ、と涙ぐむソールーナ。

 こんどからスケッチブックと鉛筆は必ず携帯しよう、とソールーナは決意した。もう二度と、こんな想いなどしたくない。

「さてと。そっちの話は済んだな。……済んだよな? じゃあこんどは俺の番だ」

 すらりと剣を抜き、リュクレスはフィメリアに向かって剣を構えたのだ。

 びっくりししたソールーナは、涙をぬぐいながらもリュクレスを見上げた。

「リュクレス様!? スケッチできなかったからってさすがにそれはちょっとどうかと……」

「俺を勝手に絵描き仲間にするんじゃない。俺はな……」

 声を落とし、リュクレスは静かに言い放つ。

「フィメリア王女、あんたの愛が欲しいんだよ」



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