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第2話 閑話:お前を愛してはいけない1(リュクレス視点)
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新妻が寝静まったのを見計らい、はぁ……とリュクレスはため息をついた。
困ったことに、ベッドの端と端で寝ている新妻のソールーナはリュクレスのタイプど真ん中だったのだ。
艶やかな黒髪も、ぱっちりした水色の瞳も、可愛らしいほっぺも。本に熱中するその表情すらも全てが可愛いわけで。
(……これはダメだ)
ウェディングドレスの似合い方もヤバかった。
彼女のためにあつらえられた真っ白いドレスはまるで天使か妖精のような雰囲気だったし、繊細なレースのベールは神秘性を増させていたし、純白のフリルが彼女をより一層輝かせていた。
こんな子が自分の妻となるのかと思うと心が踊った。正直、タイプだ。
想像してみて欲しい……手を伸ばせばすぐ届くところにタイプな子がいて、しかも今日結婚したばかりで、今は初夜で、そのうえ無防備な寝姿をさらしているのだ。
理性が試されている。
だが絶対無理!
速攻で負けそうになるリュクレスの理性。それでもリュクレスは必死で自分を抑える。
(カタチだけの夫婦、カタチだけの夫婦……)
白い結婚、といったっけ? とにかくそういう相手なのだ。リュクレスは呼吸を整える。
――落ち着け。
――落ち着いて考えろ。
この女は聖女に愛を誓わせキスをもらうための駒に過ぎない。
リュクレスはそう自分に言い聞かせる。
そう、リュクレスは従来通り、聖女一筋の英雄騎士なのである。
いくらソールーナというタイプど真ん中の女性と結婚したとはいえ、それを変えるつもりはない。
それに、だ。聖女と愛を交わしてこの仮面を取ることができるようになれば、そのときはきっとソールーナだってリュクレスの美貌の前にひれ伏すに決まっているのだ。
そうなれば、リュクレスはすべてを手に入れることができる。
今はとにかく聖女の愛を勝ちとることが先だ――リュクレスがそう自分を納得させた、まさにそのとき。
ソールーナが寝返りを打つ気配があった。
「ん……」
少しだけ開いた唇から漏れたのは吐息だったのか、それとも言葉だったのか……。
どちらにしても、それはリュクレスとって刺激が強い。
思わずびくっと身体が震えてしまったではないか。
「りゅくれす……さまぁ……」
今度ははっきりと言葉が聞こえた。
しかも、
(俺の夢を見ている……!?)
「あん、そんなに……」
(え?)
「私、もうだめぇ」
(どんな夢を見ているんだ?)
というかソールーナってこんなにデレデレした声をだす女だったか? もっとこう、ツンツンしている印象だったが……。
「そんなに食べられません~……」
食べる? なにかを食べている夢? 食べてるってなんだろう? 食べ物のことか? でも、食べるってことは……そういう意味じゃないよな? ああ、ダメだ。これ以上考えたら本当にやばいことになる。
リュクレスは慌てて思考を切り替えることにした。
…………うん。そうだ。こういう時は、別のことを考えよう。例えば、明日の予定はどうなっているだろうか、とか。夕食は何が出るのかなー、とか。
「んふふ、おっきぃ~」
「………………」
なんか変なこと言ったな、今?
いかんいかん、考えるな。考えるなよ、リュクレス。
「こんなに大きかったらお口に入らないですぅ~」
……うわあ。なんだこれ。すごいぞ、ほんとに何の夢を見ているだ?
「あんっ、もう、強引なんだから……ん、むむむ……」
……食べ、た?
「さすがリュクレス様! とっても美味しいです!」
待ってくれ。こんなところで褒められても嬉しくない。むしろ恥ずかしくて顔が熱くなる。
「ごちそうさまでした」
終わった? これで終わりなのか?
「ありがとうございました、リュクレ……」
そこで声は途切れてしまった。
夢はここで終わってしまったのだろうか。
しかし続きがあった。
「大好きです、リュクレス様……」
それから本当に、彼女は静かになった。
(………………え?)
あまりのことに、リュクレスは思考が止まった。
いま、好きって………………???
どう考えればいいのだろう。
ただの寝言……ではあるのだが……。
遅れて、仮面の下の素顔がカアアアッと真っ赤になる。
心臓が痛いくらいにドキドキと跳ねまくった。
好みのタイプにこんなことを寝言とはいえ言われたら、そりゃあ意識もしてしまうだろう。
だが、特に意味の無い寝言である可能性もある。というかこっちのほうが可能性としては高い。所詮は寝ている人間が無意識に放った寝言でしかないのだから。
それでも、今すぐ叩き起こして確かめるべきという気はする……。
だが。
カタチだけの夫婦をしよう、と互いに約束するような相手だ。きっと本心ではなんとも思っていないだろう。
リュクレスは、仮面の下できつく歯を食い縛った。
早くこの忌々しい仮面の脱ぎ捨てたい。
そうすればソールーナは自分に惚れてくれる。必ず惚れる。なぜなら俺は超イケメンだから。その絶対の自信がリュクレスにはあるのだ。
そのときには。天使再臨と唄われたこの美貌を堂々とさらすことができるようになった、その暁には。
まず真っ先にソールーナに素顔を見せて、そして、絶対に俺のことを好きと言わせてみせる。
それまで、どんな色香にだって屈するものか。
「覚悟しろよ、ソールーナ。俺は諦めが悪いんだ」
自分に言い聞かせるように、リュクレスは小さく呟いてみたのだった。
困ったことに、ベッドの端と端で寝ている新妻のソールーナはリュクレスのタイプど真ん中だったのだ。
艶やかな黒髪も、ぱっちりした水色の瞳も、可愛らしいほっぺも。本に熱中するその表情すらも全てが可愛いわけで。
(……これはダメだ)
ウェディングドレスの似合い方もヤバかった。
彼女のためにあつらえられた真っ白いドレスはまるで天使か妖精のような雰囲気だったし、繊細なレースのベールは神秘性を増させていたし、純白のフリルが彼女をより一層輝かせていた。
こんな子が自分の妻となるのかと思うと心が踊った。正直、タイプだ。
想像してみて欲しい……手を伸ばせばすぐ届くところにタイプな子がいて、しかも今日結婚したばかりで、今は初夜で、そのうえ無防備な寝姿をさらしているのだ。
理性が試されている。
だが絶対無理!
速攻で負けそうになるリュクレスの理性。それでもリュクレスは必死で自分を抑える。
(カタチだけの夫婦、カタチだけの夫婦……)
白い結婚、といったっけ? とにかくそういう相手なのだ。リュクレスは呼吸を整える。
――落ち着け。
――落ち着いて考えろ。
この女は聖女に愛を誓わせキスをもらうための駒に過ぎない。
リュクレスはそう自分に言い聞かせる。
そう、リュクレスは従来通り、聖女一筋の英雄騎士なのである。
いくらソールーナというタイプど真ん中の女性と結婚したとはいえ、それを変えるつもりはない。
それに、だ。聖女と愛を交わしてこの仮面を取ることができるようになれば、そのときはきっとソールーナだってリュクレスの美貌の前にひれ伏すに決まっているのだ。
そうなれば、リュクレスはすべてを手に入れることができる。
今はとにかく聖女の愛を勝ちとることが先だ――リュクレスがそう自分を納得させた、まさにそのとき。
ソールーナが寝返りを打つ気配があった。
「ん……」
少しだけ開いた唇から漏れたのは吐息だったのか、それとも言葉だったのか……。
どちらにしても、それはリュクレスとって刺激が強い。
思わずびくっと身体が震えてしまったではないか。
「りゅくれす……さまぁ……」
今度ははっきりと言葉が聞こえた。
しかも、
(俺の夢を見ている……!?)
「あん、そんなに……」
(え?)
「私、もうだめぇ」
(どんな夢を見ているんだ?)
というかソールーナってこんなにデレデレした声をだす女だったか? もっとこう、ツンツンしている印象だったが……。
「そんなに食べられません~……」
食べる? なにかを食べている夢? 食べてるってなんだろう? 食べ物のことか? でも、食べるってことは……そういう意味じゃないよな? ああ、ダメだ。これ以上考えたら本当にやばいことになる。
リュクレスは慌てて思考を切り替えることにした。
…………うん。そうだ。こういう時は、別のことを考えよう。例えば、明日の予定はどうなっているだろうか、とか。夕食は何が出るのかなー、とか。
「んふふ、おっきぃ~」
「………………」
なんか変なこと言ったな、今?
いかんいかん、考えるな。考えるなよ、リュクレス。
「こんなに大きかったらお口に入らないですぅ~」
……うわあ。なんだこれ。すごいぞ、ほんとに何の夢を見ているだ?
「あんっ、もう、強引なんだから……ん、むむむ……」
……食べ、た?
「さすがリュクレス様! とっても美味しいです!」
待ってくれ。こんなところで褒められても嬉しくない。むしろ恥ずかしくて顔が熱くなる。
「ごちそうさまでした」
終わった? これで終わりなのか?
「ありがとうございました、リュクレ……」
そこで声は途切れてしまった。
夢はここで終わってしまったのだろうか。
しかし続きがあった。
「大好きです、リュクレス様……」
それから本当に、彼女は静かになった。
(………………え?)
あまりのことに、リュクレスは思考が止まった。
いま、好きって………………???
どう考えればいいのだろう。
ただの寝言……ではあるのだが……。
遅れて、仮面の下の素顔がカアアアッと真っ赤になる。
心臓が痛いくらいにドキドキと跳ねまくった。
好みのタイプにこんなことを寝言とはいえ言われたら、そりゃあ意識もしてしまうだろう。
だが、特に意味の無い寝言である可能性もある。というかこっちのほうが可能性としては高い。所詮は寝ている人間が無意識に放った寝言でしかないのだから。
それでも、今すぐ叩き起こして確かめるべきという気はする……。
だが。
カタチだけの夫婦をしよう、と互いに約束するような相手だ。きっと本心ではなんとも思っていないだろう。
リュクレスは、仮面の下できつく歯を食い縛った。
早くこの忌々しい仮面の脱ぎ捨てたい。
そうすればソールーナは自分に惚れてくれる。必ず惚れる。なぜなら俺は超イケメンだから。その絶対の自信がリュクレスにはあるのだ。
そのときには。天使再臨と唄われたこの美貌を堂々とさらすことができるようになった、その暁には。
まず真っ先にソールーナに素顔を見せて、そして、絶対に俺のことを好きと言わせてみせる。
それまで、どんな色香にだって屈するものか。
「覚悟しろよ、ソールーナ。俺は諦めが悪いんだ」
自分に言い聞かせるように、リュクレスは小さく呟いてみたのだった。
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