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1巻

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 私への手紙を、握りつぶす? 誰が――って決まってる、私の上司が、だ。つまりはダドリー所長が……。でもなんで、私に来た手紙を握りつぶしてたっていうのよ?

「いやいや、この仕事を引き受けてよかったわい。こんな老いぼれがわこうどの架け橋になれるとは、長生きしてみるもんじゃ」

 ひとしきりうなずいてから、ルーヴァス教授は軽くしゃくをした。

「ではな、アデライザさんや。確かに手紙はお渡ししましたからの。ほっほっほ……」

 朗らかに笑いながらルーヴァス教授は去っていってしまった。
 そうして、私の手には王家の紋章が入った一通の手紙が残されたのだ。


 独身寮に帰ってからその手紙をじっくり読んで、あまりの内容に、私はベッドに寝転がっていた。
 明かりもつけていない暗い天井を見上げながら、手紙の内容をはんすうする。
 まず、今まで何度も何度も手紙を送ったこと、それに対する返信がまったくないことをたずねる文言があり、次に、シンプルな本文が記されていた。

『アデライザ・オレリーをノイルブルク王国の第三王子、ルベルド・ノイルブルクの家庭教師として迎え入れたい』

 最後に、この手紙を読んでその気になったらノイルブルク城まで来てくれと書かれてあった。
 そう、私をヘッドハンティングしたいという申し入れだったのだ。これを私に知らせもせずに握りつぶしてたってことは……ダドリー所長、一応私の研究者としての成果は買ってくれてたってことよね……。それが今じゃ、婚約解消するわ研究所を追い出そうとしてるわで、正反対になっちゃったけど。

「……」

 私は寝転がったまま暗い天井を見つめた。
 今までの私なら、握りつぶされるまでもなく、こんな話には耳も貸さなかったはずだ。だってこの王立魔術研究所で好きなことを研究するのは楽しかったんですもの。しかもヘッドハンティング先の仕事は家庭教師ですって? ルベルド王子ってのがどんな人かも知らないけど、私は誰かにモノを教えるより、研究に打ち込んでるほうが性に合ってるんだから。
 でも今の私は、ダドリー所長に研究所を追い出されようとしている身であり、どうせ追い出されるなら! ってダドリー所長にこっちから辞表を提出した身であり……

「うん」

 私は起き上がって便びんせんを取り出し、もう一度丁寧に読んだ。
 そして封筒に入れると、かばんにしまう。
 チャンスなんだと思った。研究所を辞めて行くあてのない私なんだから、このチャンスを逃す手はないんだと。王家に雇われるのならお給金だっていいはずだしね。
 どこか遠くに行きたいと思ってたとこじゃないの。
 退路がないのなら、示された道を進めばいいんだ。いけいけ、アデライザ!


   *****


 決断してからの私は早かった。
 翌日には王立魔術研究所の独身寮から退所し、荷物を持って――といっても大した荷物じゃなかったけど――隣国ノイルブルクへ向かったのだ。
 そして王城にたどりつき、手紙を門番に渡したら血相を変えられて、応接室に通されて、あとはお決まりの『担当の者をお呼びしますので少々お待ちくださいませ』の台詞せりふ
 そこからひたすら豪華な応接室で待たされて、そして私は今に至る、というわけ。
 息をつき、手紙をもう一度改めて、封筒にしまう。

「はぁ――……、っ!?」

 再びため息をついた私だけど、その息は途中で引っ込んでしまった。
 応接室の扉がガチャリと開いたのだ。
 現れたのは二十代半ばらしき青年だった。金髪碧眼で、顔立ちが整った美青年である。

「すみません、アデライザさん。お待たせいたしました」

 私は立ち上がりながら首を振る。

「あ、いえいえ、お気になさらず。どうしたら今よりもっと食肉にうまく脂肪を差し込めるか考えいたらあっという間でしたわ」

 すごーく待ったわよ! なんて失礼なことは言えず、適当なことを言ってごまかす。

「はは、アデライザさんはすごいですね、さすが研究者さんです」

 美青年はにっこりさわやかに笑って、それから私に向かって席を勧めた。

「どうぞ、お座りください。あ、その前に手紙を拝見してもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」

 手紙を渡し、私はもう一度ソファーに腰掛けた。
 金髪碧眼の美青年は、渡した手紙をしげしげと読んでいる。彼は家庭教師案件の担当者なわけだけど、第三王子の教育係かなにかだろうか。

(面接ってことよね、これ……)

 家庭教師になる気満々だった私だけに、その事実が重くのしかかってくる。
 だってさ、あんな手紙でヘッドハンティングされたのよ? 面接なんかすっ飛ばして採用されると思うじゃない?
 まあ、落ち着いて考えてみれば第三王子の家庭教師なんていう結構なお仕事なのだ。そりゃあ面接くらいあるだろう。
 でも、この手紙があれば、きっとなんとかなるはずだ。なんてったって向こうからヘッドハンティングしてきたんだからね。
 ……そうであってほしい。

「ふむ……」

 さっと手紙に目を通した担当者――金髪碧眼の美青年はその青い目を上げる。

「なるほど、わかりました。あなたを歓迎いたします、アデライザ・オレリーさん。いえ、アデライザ先生」
「え、は――」

 思わず呼吸が止まるかと思った。先生、ですって?
 つまり――、
 やった、採用!!
 ふぅ、一時はどうなるかと思ったけど……、よかった、よかった。
 ほっと胸を撫で下ろす私に、美男子はさわやかな笑顔を見せてくれた。

「紹介が遅れました、先生。私はノイルブルク王国第一王子のマティアス・ノイルブルクと申します。ようこそ我がノイルブルク王国へお越しくださいました」
「え……、お、王子様!?」

 王子様自らが弟の家庭教師の面接官をしたっていうの?
 そういえば着ているものが妙に豪華だわ……!

「すみません、てっきり第三王子殿下の教育係の方だとばかり………」
「弟がお世話になる方を決めるのです。兄である私が直接会ってお話をうかがうのは、なんらおかしいことではないでしょう。違いますか?」
「い、いえ、そんな。おかしいことなどこれっぽっちもありませんわ!」

 うわぁ。弟思いのお兄さんって、本当に現実にいるんだ!
 なんだか絵本の中の仲良し兄弟みたいで、いやされるぅ~。
 私なんて、父にはいらない子扱いされ、母には『失敗令嬢』とののしられる始末なのに……。妹はいうまでもなくアレだし。使用人たちにすら白い目で見られてきたし。
 なのにこの王子様ときたら!

(ああ、素敵すぎる……!)

 私は感激して胸の前で手を組んだ。

「ああ、素敵すぎる……!」

 口から出てしまった。

「え?」
「あ、いえ。王子様の家庭教師なんて、なんて素敵なんでしょう……! ぐふふっ」

 思わず含み笑いが出てしまう……笑い方がキモいのは自覚済みである。
 とにかく採用だ、ありがたい! これで無職の期間は可能な限り短くなったわ!

「素敵かどうかは……先生の働き次第、ですね……」

 と含みを持たせるマティアス王子だった。

「先生には少し、弟のことを話しておきたいと思うのですが……」
「はい」

 そうよね。
 私の新しい仕事は第三王子の住み込み女家庭教師ガヴァネスだもの。仕事相手である第三王子のことは知っておきたいわ。
 ……かくいう私も、マティアス殿下に聞きたいことがあるしね。
 マティアス殿下は一つうなずくと、青い瞳を伏せながら、静かに口を開いた。

「話を聞いた上で、先生には最終的なご判断をしていただきたいと。あとでこんなはずじゃなかった、となっても我々も困りますので……」

 慎重な人ねぇ、マティアス王子って。

「……そうですか。実は私としてもうかがっておきたいことがありまして……」
「なんでしょうか?」
「第三王子の家庭教師という仕事そのものについてです」

 一刻も早くイリーナから離れたい……裏切り者の元婚約者が所長の座についている研究所から飛び出したい……あんな国にいるのも嫌だ……そんな時に目の前にぶら下がってきたニンジンに飛びついてしまったわけであるが、落ち着いてみると怪しさ大爆発な仕事ではある。

「少し調べさせていただいたんです。ノイルブルク王国第三王子、ルベルド殿下のこと」
「……ほう。なにか気になることでもありましたか」
「十九歳の青年だそうですわね、ルベルド殿下は。しかも王都から遠く離れた静かな森の館に引きこもっていらっしゃるとか」

 引き抜きの手紙を読んだ時には、もっと幼い、たとえば五歳くらいの少年かと思っていたんだけど……
 住み込みの家庭教師をつけると言われて思いつく子供の年齢といえばそれくらいだしね。
 でも少し気になってここに来る途中に調べられるだけ調べてみたら、ノイルブルク王国の第三王子って十九歳の青年だっていうじゃない。
 そんな青年に女家庭教師(しかも住み込みの)をつけるなど、異例中の異例である。
 いや、パッと思いつくことはある。

「その第三王子殿下に……自分でいうのもなんですが適齢期の私をあてがう、というのは……」

 私はマティアス王子の青い瞳をじっと見つめながら言った。今から話すことで彼がどんな反応をするのか、見逃さないために。

「あなたは私のことを、森の別荘に引きこもった十代の若者を社交界に引っ張り出すための『お手つきのための練習女』にするおつもりなのではないでしょうか?」
「……まぁ、考えられないことではないですね」

 マティアス王子は肩をすくめてふぅっと息を吐いた。

「弟のことを思えばこそ、そういった女性を用意するのもありうる話です。ですがそうだとしても、わざわざ隣国のあなたに声をかけることもありますまい。国内の適当な――と、言葉は悪いですが、我が国内にも適齢期の女性はいくらでもいるのですから」
「第三王子ともなれば相手の女性にもある程度の身持ちの堅さや身分も必要となるでしょう。となれば、後腐れのない年上の、隣国の貴族はちょうどいいのではないでしょうか? しかも女家庭教師という口実があれば、大手を振って第三王子殿下にあてがうことができます」

 するとマティアス王子は目を丸くした。

「……少しびっくりしました。先生という方はずいぶんはっきり物事をおっしゃるのですね」
「研究者ですから」

 正確には研究者、だけどね。
 とはいえ王子の情婦になるつもりはないのよ。
 疲れたのよね、男女の仲のアレコレっていうのは。妹も元婚約者の所長も……、もう、あっちはあっちで勝手にどうぞ! って感じだし。
 もうああいうのはいいのよ、しばらくお休みしたいの。
 だからって仕事を辞退するってわけでもない。
 情婦候補として採用されたのならその逆をいってやろうと思っているの。
 つまり、第三王子に女として見られないよう最大限の努力をするつもりなのよ。
 だから、マティアス王子にははっきりとした情報をもらいたかった。私は情婦候補として第三王子の女家庭教師に選ばれたんだってね。

「研究者さんらしい、すばらしい推察だとは思います。ですが、違います」

 あらそうなの。肩透かしだわね。でも本当に?
 そこで、マティアス王子殿下は形のいい唇の端を上げて微笑みを作った。

「……先生には、どうやらきちんとした交渉をするのがよさそうですね」

 その青い瞳で私を真正面から見つめてくる。

「先生に期待するのは、本当に家庭教師としての仕事と、それから……スパイの仕事なんです」
「スパイ……?」

 スパイって、敵の情報を秘密裏に探る人のことよね?
 情婦候補よりうさんくさくて罪深そうな仕事を仕込んでるじゃないの、この王子様。
 ていうか、引きこもり青年のなにをスパイしろっていうのよ?

「弟は……」

 マティアス王子殿下は私を見つめたまま話しはじめた。

「弟はよくわからない魔術研究にのめり込んでいて、もうしばらく別荘から出てこないような生活をしているんです」
「魔術研究?」

 その情報は存じ上げなかったわ。
 私が調べられたのは、ルベルド殿下が十九歳であることと、森の館に引きこもっているということだけだったから。
 王族にしてはずいぶん噂話が少ないと思っていたけど……どうも第三王子についてはある程度の情報操作がされているようだ。

「食事や睡眠など最低限の生活はしているようですが、それ以外はずっと部屋にこもりっぱなしだという話です。部屋から一歩も出てきません。使用人も近寄らせないそうで、ここ数年、弟の顔をまともに見たことがある人間はごくわずかだとか」

 ああ、よく研究者にいる研究にのめり込むやつね。
 私も研究で引きこもる時期があるからわかるわ。

「……それで、スパイとは? 第三王子のその研究内容を探れ、ということですか?」
「そういうことです」

 と、マティアス王子はうなずいた。

「私は弟が心配なのです、先生。このままではルベルドはいずれ壊れてしまうでしょう。そうなる前に、弟がなにをしているのか……それを知りたいのです」
「でもおかしいですわねぇ」

 私は少しわざとらしいくらいに首をかしげる。

「弟さんがなにを研究しているのかなんて、そんなのご自分でお聞きになればよろしいじゃないですか。ご兄弟なのですし」

 しかも家族仲のいい、絵本の登場人物みたいな理想的な兄弟のはずである。
 直接聞いちゃえばいいじゃない。お前が心配だから研究内容を教えてくれって。
 だがマティアス王子は悲しげに首を振ったのだった。

「……私ではダメなんです。私は王家の魔力を継いで生まれてきました。魔力のある私には、弟は心を開いてくれないのです……」
「どういうことですか?」
「弟は……、魔術の研究なんてものをしてはおりますが、魔力自体は持っていないのです」
「魔力が、ない……」

 どこかで聞いたことのある話だ。
 魔力もないのに魔術研究をしていて、『魔力持たぬ魔術師』なんて異名を与えられるような変わり者の研究者の話……

「そうです。ゆえに、弟は『魔力持たぬ魔術師』と呼ばれております」
「それは……」
「はい。先生の異名も同じであると……、そうお聞きしました」
「なるほど。それで私ってワケですか。同じ異名、同じ境遇だから共感しやすく心も許しやすいだろう、と」
「はい、そういうことです。スパイについては家庭教師代とは別にあなたの望む額をほうしゅうとしてご用意いたします」

 おお、すごい。言い値か。
 それだけの価値が弟の研究にあると、この王子様は判断しているのだ。
 ただ心配ってだけじゃないでしょ、絶対……

「それから家庭教師として先生に求めることですが」

 そこまで言って、マティアス王子はふぅっと息をついた。

「……弟は本当に魔術以外のことをなにも知らないんです。あれでは将来引きこもるのをやめて社交界に出てきたとしても、うまく立ち回ることなど、とてもじゃないができません」

 なるほど。王族ならではの問題がそこにある……ということね。

「それを私に教えろと? それこそ難しいですね。自慢じゃないですが私も社交界の経験はほとんどありませんし、人に教えるほどマナーに詳しいわけでもありませんわ」

 十二歳で寄宿学校に入ってからこっち、数えるくらいしか実家に寄りつかなかったから……。そんな私の社交界経験といえば、社交界デビューの舞踏会デビュタントとそれからほんの数回、嫌々パーティに参加したくらい。社交界の入り口に立った経験がある、くらいのものである。こんな私になにを教えろっていうのよ?

「先生に教えていただきたいのは、たとえば国の歴史や文学などの常識的なこと――言ってみれば、魔術以外の雑学です」

 それは、つまり……

「……第三王子殿下に、社会復帰のための常識的な知識を与えろ、ということですか」
「ハッキリ言ってしまえばそうなります」
「その上で第三王子殿下の研究結果を探れ、と……」
「先生ならできると、私は信じております」

 スパイと家庭教師……、その二つを同時にしろというのだ。なんとも盛りだくさんな仕事内容である。

「弟は孤独なのです、先生。ですが同じ境遇のあなたにならきっと心を許すでしょう。ですからどうか……、どうか弟の研究がなんであるかだけでも、探っていただけませんか」

 そっちが本題か、と思う。そりゃそうだ、なにせ言い値の仕事なのだ。

「………………」

 私は思わず黙り込んでしまった。
 この仕事――いや、このマティアス王子殿下、さわやかな笑顔に反比例するかの如く、どうにもうさんくさい。
 思い切って王立魔術研究所に戻ったほうがいいんじゃないか、という気さえした。
 辞表を元婚約者であるダドリー所長の机の上に叩きつけたっきり、事後処理は知らんぷりして出てきてしまったけれど……。それでも頭を下げてもう一度雇用してもらうとか……。すみません、あの辞表を取り下げさせてください、って。
 実家に帰ることは最初から考えていない。私を厄介者扱いするのが目に見えているもの。特に今は妹が妊娠してダドリー所長と幸せにやろうってところだから、ほんとに、元婚約者の私はただのお邪魔虫よ。
 ――が。
 困ったことに、好奇心があった。
 魔力を持たぬ若者が引きこもってする魔術研究……。それを探れという彼のお兄さん。
 しかも、若者は第三王子様、お兄さんは第一王子様だ。
 魔術研究に携わってきた身としては気になっちゃう。第一王子殿下が知りたがる、第三王子殿下の研究内容ってなによ。しかも直接聞くことができないようなものって……?
 研究者を言い値でスパイとして雇うほどの研究なのよ。いったいなにを研究しているっていうのよ、第三王子ルベルド殿下は。
 この仕事を受ければ、私もその研究に一枚噛むことができるのだ。
 情婦候補でもスパイでも家庭教師でもなく、研究者としての本能がささやいている。
 ――アデライザ、気になるんだろう? 仕事を請け負って研究を見届けてみては? なにか気になるままだなんて、身体に悪いじゃないか。気になって気になって、きっとそのうちコーヒーだっておいしく飲めなくなっちゃうぞ。
 その声がマティアス王子への不信感に勝ってしまう自分に心の中で苦笑しながら、私はうなずいた。

「……わかりました。私でよければお引き受けいたしましょう」
「ありがとうございます、先生!」

 ぱっと顔を輝かす第一王子。おお、気が早いこと。でもね王子様、こっちにも考えがあるのよ。

「でも一つ条件があります」
「……なんでしょうか?」

 言葉少なく微笑みながら、慎重に私の出方を見定めようとする王子様。思うところもあるだろうに、腹になにかを納めておくのがなかなかにお上手な方だ。だからうさんくささが出てきちゃうんだろうな。

「この件、私に一任していただきたいのです」
「それはどういうことですか?」
「ルベルド殿下へのスパイのやり方も、知り得た情報の報告のタイミングも、もちろん家庭教師としての指導内容も、すべて私に決めさせていただきたいのです」
「先生もなかなか厳しいことをおっしゃいますね……」

 ……ここが取引のしどころみたいね。

「嫌ならこの話はなかったことにしてくださいませ、殿下。さようなら」
「まっ、待って。待ってください、先生……」

 腰を浮かした私をマティアス王子は慌てて止めた。整った表情に、見るからに焦りが浮かんでいる。おやおや、ビックリしたのを腹に納めきれなかったみたいね。私の言動が予想外すぎたのかしら?
 マティアス王子はコホンと咳払いを一つして仕切り直した。

「……失礼いたしました。こちらからいくつか提案させていただいてもよろしいですか? できるだけ先生の希望を取り入れますので……」
「えぇ、もちろんですわ」

 なんとか王子のきょうは引き出せたようだ。
 ま、ざっとこんなもんよ。




   第二章 新たなる日常


 というわけで、マティアス王子との面会から二日後。
 私は馬車に三時間ほど揺られ、うっそうとした森の奥にたたずむ館へやってきた。
 玄関ホールは、森の中の館にしては豪華なものだった。大きなシャンデリアが天井につり下げられていて、大階段が二階へ続いている。
 その大階段の前にずらりと並んで、私を出迎えてくれたのはこの館の使用人のみなさんだった。ざっと見た感じ二十人前後ってところかな。なんか――妙に人数が多くない? いくら王族の世話をするためとはいえ、王子一人に対して二十人の使用人って……、ちょっと多い気がするんだけど。
 まあとにかく、私は早速彼らに挨拶することにした。
 実家のオレリー伯爵家では使用人たちにすら白い目で見られていた私である。新しい職場であるここではそんなことがないように、できるだけ印象のいい挨拶を一発かましておきたいと思ったのだ。
 って、実はもう台本は頭の中でできてるのよね~。
 私はパッと笑顔になって、使用人のみなさんに挨拶をはじめた。


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