46 / 48
番外編
書籍化記念SS*ピアノの調べは誰のため2(アデライザ11歳とイリーナ5歳)
しおりを挟む
時間ぴったりピアノのドロシー先生がやってきて、さっそくピアノのレッスンが始まった。
「イリーナ様、この前オペラに行って、楽しかったっておっしゃっていましたでしょう?」
ドロシー先生は神経質そうな顔を柔らかく微笑ませて、イリーナに優しく言う。
イリーナは顔を輝かせてうんっと嬉しそうに頷いた。
「はい! とっても楽しい劇でしたわ! ほんと、おねえさまにもお見せしたかったくらいですわ~!」
楽しげに言うイリーナに、私はムスッとしてしまう。
「……別に、興味ないし」
オペラ、一緒に観に行く? なんて誰からも声をかけられなかった私は、家の図書室でひっそりと魔術書を読んで、時間を潰していたのである。
まあいいわよ別に、イリーナがお父様とお母様と一緒に観に行ったのって子供向けのオペラだし。私には魔術書のほうが面白いのよ。
「女の子が! 変身して! 悪い奴をバシッとこらしめるんですのー!」
イリーナが腕を振り回しながらオペラの内容を説明すれば、ドロシー先生は口の端を引きつらせつつ腕でイリーナとの距離をとる。
「とっても楽しげなお話ですわね。私も観てみたいものですわ」
「よろしかったら今度ごいっしょしましょう!」
「そうですわねぇ」
顔を輝かせてイリーナがお誘いすると、ドロシー先生は苦笑交じりで相づちを打つ。
……私には「ご一緒しましょう」の「ご」の字も言わないくせに、ピアノの先生には言っちゃうんだ、ふーん……。まぁ、いいけどね別に。
何度でもいうけど、私はオペラを観るより一人で本読む方が好きだし。
「それでですね、イリーナ様」
ドロシー先生は鞄から楽譜を取り出し、イリーナに向かってにっこりと微笑んだ。
「そのオペラの曲を取り寄せたのです。これならイリーナ様もお弾きになられるでしょう?」
「まぁ、本当ですの? ぜひ弾いてみたいですわ!」
楽譜を見ながら、イリーナは興奮したように頬を紅潮させていく。
なるほど、イリーナのやる気を少しでも引き出すために、イリーナが好きそうな曲を用意してきたってわけか。先生も苦労するなぁ。
「ではまず私がお手本を弾きますわね」
と、先生は楽譜をグランドピアノの譜面置きに置いて、椅子に座ってピアノを弾き始めた。
音の数は少ないながらもアップテンポな明るい曲で、転がるように音が駆け上がったり、かと思ったら駆け下りたりする。
曲を弾く先生をイリーナが食い入るように見つめているのが、こんな妹だけど……可愛かった。いやほんと、イリーナは外見だけなら天使のような可愛らしさなのだ。
メイドに編んでもらった銀色の髪には可愛い青色のリボンが揺れているし、宝石のような青い瞳は好奇心に輝いて、頬はいつも薔薇色で……。
生意気で当たりが強い妹だけど、見てくれだけは本当に可愛らしいんだ、これが。
……なんて思っていたら、イリーナが急に銀色の可愛らしい眉を思いっきりしかめた。
「ちょちょちょちょっ! 先生、ちがいますわ!」
「え?」
先生が手を止めると、直前まであれだけ流暢に弾かれていた曲が嘘みたいに途切れ、ピアノの残響が耳につく。
「そこは『ラララララー』ではなくて、『ララミララー』ですわ!」
鼻歌を歌って先生に訴えるイリーナ。
「あら、そうでしたか。ではもう一度……」
とそこを弾き直す先生だったが、イリーナはまたかぶりを振った。
「ですから、違いますってば! 『ラララララー』じゃなくて『ララミララー』ですっ!」
「……ではもう一度……」
先生が再度弾き、イリーナが「違う」と指摘する。そんなことを何度か繰り返していくうちに、みるみるイリーナの機嫌が悪くなっていった。
「ですからっ、違うっていってますでしょ!? 何度いえばわかるんですのっ!」
「でも楽譜ではこうなっているのですよ、イリーナ様。曲調からいってもこれで間違いではないはずです」
「でも違うんですの! そこは『ララミララー』なのっ!」
イリーナは顔を真っ赤にし、ついに――。
「ヘタクソ! 先生のヘタクソ!」
と、言ってしまったのだ。
「イリーナ様、この前オペラに行って、楽しかったっておっしゃっていましたでしょう?」
ドロシー先生は神経質そうな顔を柔らかく微笑ませて、イリーナに優しく言う。
イリーナは顔を輝かせてうんっと嬉しそうに頷いた。
「はい! とっても楽しい劇でしたわ! ほんと、おねえさまにもお見せしたかったくらいですわ~!」
楽しげに言うイリーナに、私はムスッとしてしまう。
「……別に、興味ないし」
オペラ、一緒に観に行く? なんて誰からも声をかけられなかった私は、家の図書室でひっそりと魔術書を読んで、時間を潰していたのである。
まあいいわよ別に、イリーナがお父様とお母様と一緒に観に行ったのって子供向けのオペラだし。私には魔術書のほうが面白いのよ。
「女の子が! 変身して! 悪い奴をバシッとこらしめるんですのー!」
イリーナが腕を振り回しながらオペラの内容を説明すれば、ドロシー先生は口の端を引きつらせつつ腕でイリーナとの距離をとる。
「とっても楽しげなお話ですわね。私も観てみたいものですわ」
「よろしかったら今度ごいっしょしましょう!」
「そうですわねぇ」
顔を輝かせてイリーナがお誘いすると、ドロシー先生は苦笑交じりで相づちを打つ。
……私には「ご一緒しましょう」の「ご」の字も言わないくせに、ピアノの先生には言っちゃうんだ、ふーん……。まぁ、いいけどね別に。
何度でもいうけど、私はオペラを観るより一人で本読む方が好きだし。
「それでですね、イリーナ様」
ドロシー先生は鞄から楽譜を取り出し、イリーナに向かってにっこりと微笑んだ。
「そのオペラの曲を取り寄せたのです。これならイリーナ様もお弾きになられるでしょう?」
「まぁ、本当ですの? ぜひ弾いてみたいですわ!」
楽譜を見ながら、イリーナは興奮したように頬を紅潮させていく。
なるほど、イリーナのやる気を少しでも引き出すために、イリーナが好きそうな曲を用意してきたってわけか。先生も苦労するなぁ。
「ではまず私がお手本を弾きますわね」
と、先生は楽譜をグランドピアノの譜面置きに置いて、椅子に座ってピアノを弾き始めた。
音の数は少ないながらもアップテンポな明るい曲で、転がるように音が駆け上がったり、かと思ったら駆け下りたりする。
曲を弾く先生をイリーナが食い入るように見つめているのが、こんな妹だけど……可愛かった。いやほんと、イリーナは外見だけなら天使のような可愛らしさなのだ。
メイドに編んでもらった銀色の髪には可愛い青色のリボンが揺れているし、宝石のような青い瞳は好奇心に輝いて、頬はいつも薔薇色で……。
生意気で当たりが強い妹だけど、見てくれだけは本当に可愛らしいんだ、これが。
……なんて思っていたら、イリーナが急に銀色の可愛らしい眉を思いっきりしかめた。
「ちょちょちょちょっ! 先生、ちがいますわ!」
「え?」
先生が手を止めると、直前まであれだけ流暢に弾かれていた曲が嘘みたいに途切れ、ピアノの残響が耳につく。
「そこは『ラララララー』ではなくて、『ララミララー』ですわ!」
鼻歌を歌って先生に訴えるイリーナ。
「あら、そうでしたか。ではもう一度……」
とそこを弾き直す先生だったが、イリーナはまたかぶりを振った。
「ですから、違いますってば! 『ラララララー』じゃなくて『ララミララー』ですっ!」
「……ではもう一度……」
先生が再度弾き、イリーナが「違う」と指摘する。そんなことを何度か繰り返していくうちに、みるみるイリーナの機嫌が悪くなっていった。
「ですからっ、違うっていってますでしょ!? 何度いえばわかるんですのっ!」
「でも楽譜ではこうなっているのですよ、イリーナ様。曲調からいってもこれで間違いではないはずです」
「でも違うんですの! そこは『ララミララー』なのっ!」
イリーナは顔を真っ赤にし、ついに――。
「ヘタクソ! 先生のヘタクソ!」
と、言ってしまったのだ。
0
お気に入りに追加
1,937
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。