43 / 48
*WEB連載版
第61話 ありがとう
しおりを挟む
部屋に戻った私は、すぐにベッドに入った。
それから、仰向けになって、涙が流れるままに泣いた。
でも、これでようやく解放される。明日から新しい生活が始まるのだ。
まずはイリーナを追い出さなくては。イリーナのことはオレリー家が責任を持って対処してくれるだろう。ダドリー様という伴侶だっているのだ。イリーナの、お腹の子のお父さん。だから大丈夫。きっとうまくいく。
そして私は、これからはアデライザ・ノイルブルクとして生きていくんだ。
そう思ったらなんだか胸が締め付けられた。
……悲しくは、ないんだけどな。私にはルベルド殿下がいるのに。なのになんで涙が出るんだろう。
悲しくはないんだけど、やっぱり悲しいのかな。自分の心がよく分からない。
ふと気がづくと、いつの間にか眠っていたらしい。
真っ暗な室内……、あれから何時間経ったのだろうか。まだ日が昇る気配はない。
目を擦る。泣きながら眠ってしまったから目が腫れぼったいわ。
少し頭が痛むけれど、気分は悪くなかった。むしろスッキリしているくらいだ。
私は起き上がろうとして――隣にルベルド殿下が寝ていることに気づいた。
「きゃっ」
思わず小さく声を上げてしまった。
「ん……」
ルベルド殿下は小さく身じろぎして、ゆっくりと瞼を開く。
ルベルド殿下の紅い瞳はまるで宝石みたいに闇夜に煌めいて見えた。なんて綺麗なんだろう……。
「ああ、アデライザ。おはよう。……って、まだ夜は明けてないか」
ルベルド殿下の声音はとても穏やかで優しかった。
「もう少し寝ようぜ。俺は疲れた」
と言って私の身体を引き寄せるルベルド殿下。その体温を感じてついドキドキしてしまうけれど、殿下は本当にぐったりしているようで、ふぁ~っと大きなあくびをしたのだった。
「……大変だったんだよ、イリーナを追い出すのは」
「え……」
「妊娠してるわけだし、手荒なまねはできないからな。なだめてすかしてさ。でも面白かったぜ、最後はダドリーによる演劇っぽい愛の告白タイムになって。最後はなんとか納得してたよ」
「それじゃあ……」
「ああ。この館にはもう、イリーナはいない」
ルベルド殿下のその言葉を聞いた途端、私は肩の荷が下りたのを感じた。
「そうですか、ようやく……」
それからハッとして言う。
「殿下、すみませんでした」
「ん?」
「私、本当にご迷惑をおかけして……」
「久しぶりだな、あんたにそうやって自分自身のことで謝られるのは」
ニヤリ、と暗闇のなかで彼は笑う。……ああ。今までってイリーナのことで頭を下げてばかりだったものね……。
「す、すみません、殿下……」
私が恐縮するとルベルド殿下はまた笑った。
「いいよ、別に」
ちゅっ、と額にキスが落とされる。
「とにかく、お互いご苦労さまでした」
「はい……」
「で。次は俺らの結婚の準備だぞ」
「はい」
そうだ。私はこれからルベルド殿下と結婚するのだ。イリーナのことで頭がいっぱいになっていて、その話も滞ってしまっていたけれど……。
「……あの、今更ですけど……私なんかでよろしいのでしょうか? その、ルベルド殿下にはもっと相応しい方がたくさんいると思いますが……」
自分で言っておいてちょっとへこんでしまう。でもいままで妹を優先していたような女、殿下には不釣り合いなんじゃないか、と……。
「あんたじゃなきゃ駄目なんだよ」
「え……?」
「俺はアデライザが好きなんだ。アデライザ以外いらない。だから結婚してくれ。俺の妻となってくれ」
真剣な表情のルベルド殿下。そんな彼の瞳に見つめられて、私は頬を染めずにはいられなかった。
「は、はい……」
「それから。二人っきりの時は、ルベルド、だろ?」
「あ、そうでしたね。ルベルド」
「うん、それでよし。夫婦になるんだから遠慮はいらないさ。ああ、それにしても疲れた……。あいつ体力あるよな、イリーナって」
「はい……、すみ……」
イリーナのことで謝りそうになり、私は笑った。
「ふふっ、そうですわね。イリーナったらほんとに、我が儘にかけてはすごい体力があるんですから」
「そうそう、その調子」
私達は顔を見合わせて笑い合う。こんなふうにルベルドと笑って過ごすのなんていつ以来だろう。
……そして、私達はキスをした。とはいえ、ちゅっ、と音を立てるだけの軽いキスだったが。
「ふぁ~あ。そんじゃま、寝るか」
「はい」
毛布のなかで、ルベルドの腕が私の身体を優しく包んでくれる。
「ルベルド……」
「んー?」
ああ。なんだかいつも以上に恥ずかしい。でも、言いたい。
「大好き……」
「俺もだよ」
ぎゅっ、と抱きしめられる。温かくて優しい感触。
ルベルドの胸に顔を押し付けるような体勢のまま、私は満ち足りた気持ちで眠りについた……。
それから、仰向けになって、涙が流れるままに泣いた。
でも、これでようやく解放される。明日から新しい生活が始まるのだ。
まずはイリーナを追い出さなくては。イリーナのことはオレリー家が責任を持って対処してくれるだろう。ダドリー様という伴侶だっているのだ。イリーナの、お腹の子のお父さん。だから大丈夫。きっとうまくいく。
そして私は、これからはアデライザ・ノイルブルクとして生きていくんだ。
そう思ったらなんだか胸が締め付けられた。
……悲しくは、ないんだけどな。私にはルベルド殿下がいるのに。なのになんで涙が出るんだろう。
悲しくはないんだけど、やっぱり悲しいのかな。自分の心がよく分からない。
ふと気がづくと、いつの間にか眠っていたらしい。
真っ暗な室内……、あれから何時間経ったのだろうか。まだ日が昇る気配はない。
目を擦る。泣きながら眠ってしまったから目が腫れぼったいわ。
少し頭が痛むけれど、気分は悪くなかった。むしろスッキリしているくらいだ。
私は起き上がろうとして――隣にルベルド殿下が寝ていることに気づいた。
「きゃっ」
思わず小さく声を上げてしまった。
「ん……」
ルベルド殿下は小さく身じろぎして、ゆっくりと瞼を開く。
ルベルド殿下の紅い瞳はまるで宝石みたいに闇夜に煌めいて見えた。なんて綺麗なんだろう……。
「ああ、アデライザ。おはよう。……って、まだ夜は明けてないか」
ルベルド殿下の声音はとても穏やかで優しかった。
「もう少し寝ようぜ。俺は疲れた」
と言って私の身体を引き寄せるルベルド殿下。その体温を感じてついドキドキしてしまうけれど、殿下は本当にぐったりしているようで、ふぁ~っと大きなあくびをしたのだった。
「……大変だったんだよ、イリーナを追い出すのは」
「え……」
「妊娠してるわけだし、手荒なまねはできないからな。なだめてすかしてさ。でも面白かったぜ、最後はダドリーによる演劇っぽい愛の告白タイムになって。最後はなんとか納得してたよ」
「それじゃあ……」
「ああ。この館にはもう、イリーナはいない」
ルベルド殿下のその言葉を聞いた途端、私は肩の荷が下りたのを感じた。
「そうですか、ようやく……」
それからハッとして言う。
「殿下、すみませんでした」
「ん?」
「私、本当にご迷惑をおかけして……」
「久しぶりだな、あんたにそうやって自分自身のことで謝られるのは」
ニヤリ、と暗闇のなかで彼は笑う。……ああ。今までってイリーナのことで頭を下げてばかりだったものね……。
「す、すみません、殿下……」
私が恐縮するとルベルド殿下はまた笑った。
「いいよ、別に」
ちゅっ、と額にキスが落とされる。
「とにかく、お互いご苦労さまでした」
「はい……」
「で。次は俺らの結婚の準備だぞ」
「はい」
そうだ。私はこれからルベルド殿下と結婚するのだ。イリーナのことで頭がいっぱいになっていて、その話も滞ってしまっていたけれど……。
「……あの、今更ですけど……私なんかでよろしいのでしょうか? その、ルベルド殿下にはもっと相応しい方がたくさんいると思いますが……」
自分で言っておいてちょっとへこんでしまう。でもいままで妹を優先していたような女、殿下には不釣り合いなんじゃないか、と……。
「あんたじゃなきゃ駄目なんだよ」
「え……?」
「俺はアデライザが好きなんだ。アデライザ以外いらない。だから結婚してくれ。俺の妻となってくれ」
真剣な表情のルベルド殿下。そんな彼の瞳に見つめられて、私は頬を染めずにはいられなかった。
「は、はい……」
「それから。二人っきりの時は、ルベルド、だろ?」
「あ、そうでしたね。ルベルド」
「うん、それでよし。夫婦になるんだから遠慮はいらないさ。ああ、それにしても疲れた……。あいつ体力あるよな、イリーナって」
「はい……、すみ……」
イリーナのことで謝りそうになり、私は笑った。
「ふふっ、そうですわね。イリーナったらほんとに、我が儘にかけてはすごい体力があるんですから」
「そうそう、その調子」
私達は顔を見合わせて笑い合う。こんなふうにルベルドと笑って過ごすのなんていつ以来だろう。
……そして、私達はキスをした。とはいえ、ちゅっ、と音を立てるだけの軽いキスだったが。
「ふぁ~あ。そんじゃま、寝るか」
「はい」
毛布のなかで、ルベルドの腕が私の身体を優しく包んでくれる。
「ルベルド……」
「んー?」
ああ。なんだかいつも以上に恥ずかしい。でも、言いたい。
「大好き……」
「俺もだよ」
ぎゅっ、と抱きしめられる。温かくて優しい感触。
ルベルドの胸に顔を押し付けるような体勢のまま、私は満ち足りた気持ちで眠りについた……。
0
お気に入りに追加
1,938
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る
束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました
ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。
幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。
シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。
そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。
ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。
そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。
邪魔なのなら、いなくなろうと思った。
そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。
そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。
無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。