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*WEB連載版
第45話 暗殺のご用命はロゼッタまで
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「お言葉ですが」
黙って前を歩いていたロゼッタさんが口を開いた。
「ルベルド様をとるとかとらないとか以前に、イリーナ様はルベルド様にまったく相手にされてなかったようにお見受け致しますが」
「メイド風情は黙ってなさいよ!」
「……かしこまりました」
あ、いまちょっとムスっとした。
あんまり表情を変えない彼女だけど、長く付き合ってるとその表情の微細な変化を読み取れるようになるのね。面白いわ。
私たち三人はそれからしばらく無言で歩いていたけれど、ふいにロゼッタさんが立ち止まった。
「こちらがお客様のお部屋でございます」
とドアを指し示す。
「ふんっ、案内ご苦労。あなたは荷物を広げるのを手伝ってちょうだい」
「いえ、それは私の仕事ではございません。ミレナがお客様のお手伝いをさせていただきますので、私はミレナを連れて参ります」
「分かったわ。早く連れてくるのよ!」
バタン! と目の前で閉まるドア。
「……ごめんなさいね、ロゼッタさん。イリーナに悪気は……」
「悪気だらけですね。ワガママ娘」
「はい、おっしゃるとおりで……」
これはフォローのしようがないわ、さすがに。
「ですがご安心ください、アデライザ様。いくら失礼なお客様でも、お客様はお客様です。イリーナ様がお客様である限りは手は出しません」
「手を出す、て……」
「足も出しません」
「え……は、はい。そこのところ、よろしくお願いします」
武闘派……!
もしロゼッタさんが本気になったらイリーナなんていとも簡単に腕の骨くらい折られちゃうしね。
ああ、イリーナ、大人しくしてるほうが身のためなんだけど……無理か……。
「それからダドリー様……という方ですが」
「はい」
「暗殺しておきますか?」
「何故そうなるんですかっ」
「私の知り合いに暗殺専門の専属メイドがいるので……。私から頼めばディスカウント価格で請け負ってもらえますわ」
「いやそういうことじゃなくて、なんでいきなりダドリー様を暗殺するという話に……」
するとロゼッタさんは小首を傾げた。
「お客様ではありませんから、ダドリー様は」
「あ、なるほど」
思わず感心してしまった。
そう言われれば確かにそうだ。お客様には手を出さないけどお客様じゃなければ手は出す。ロゼッタさんの考えは一貫している……。
……って。
「やめてください! 本当に! いくらなんでも暗殺するほどじゃないです、ダドリー様は!」
思わず叫んでしまった。
そりゃ、一方的に妹に手を出して婚約破棄してきて、そう思ったら性懲りもなく浮気して妹のこと捨てて……、まあこれはイリーナの自業自得の面は大いにあるけど。
ダドリー様は誰がどうみたってクズだけどさ。
でも命を取るほどじゃないわよね!?
「冗談です。そんな顔しないでください」
「……」
「大丈夫です。アデライザ様の嫌がることは絶対にいたしません。ご安心を」
「ありがとうございます!」
「ですがもしお気が変わられましたら是非お声をおかけくださいませ。そういう汚れ仕事も我ら専属メイドの仕事ですので」
「……お、覚えておきます」
怖いこと言う人だなぁもう。
ていうか専属メイドって、いったい……。
ロゼッタさんは私に向かって淑女の礼をすると、静かに去っていった。
部屋の前で一人になってしまった私。
荷解の手伝いをするつもりもないし、部屋に戻ってコーヒーでも飲んで一息つくとするか。
でも、なんだかほんと……、イリーナは来るわ、ダドリー様まで来そうだわで。
これから先、どうなることやら……。
黙って前を歩いていたロゼッタさんが口を開いた。
「ルベルド様をとるとかとらないとか以前に、イリーナ様はルベルド様にまったく相手にされてなかったようにお見受け致しますが」
「メイド風情は黙ってなさいよ!」
「……かしこまりました」
あ、いまちょっとムスっとした。
あんまり表情を変えない彼女だけど、長く付き合ってるとその表情の微細な変化を読み取れるようになるのね。面白いわ。
私たち三人はそれからしばらく無言で歩いていたけれど、ふいにロゼッタさんが立ち止まった。
「こちらがお客様のお部屋でございます」
とドアを指し示す。
「ふんっ、案内ご苦労。あなたは荷物を広げるのを手伝ってちょうだい」
「いえ、それは私の仕事ではございません。ミレナがお客様のお手伝いをさせていただきますので、私はミレナを連れて参ります」
「分かったわ。早く連れてくるのよ!」
バタン! と目の前で閉まるドア。
「……ごめんなさいね、ロゼッタさん。イリーナに悪気は……」
「悪気だらけですね。ワガママ娘」
「はい、おっしゃるとおりで……」
これはフォローのしようがないわ、さすがに。
「ですがご安心ください、アデライザ様。いくら失礼なお客様でも、お客様はお客様です。イリーナ様がお客様である限りは手は出しません」
「手を出す、て……」
「足も出しません」
「え……は、はい。そこのところ、よろしくお願いします」
武闘派……!
もしロゼッタさんが本気になったらイリーナなんていとも簡単に腕の骨くらい折られちゃうしね。
ああ、イリーナ、大人しくしてるほうが身のためなんだけど……無理か……。
「それからダドリー様……という方ですが」
「はい」
「暗殺しておきますか?」
「何故そうなるんですかっ」
「私の知り合いに暗殺専門の専属メイドがいるので……。私から頼めばディスカウント価格で請け負ってもらえますわ」
「いやそういうことじゃなくて、なんでいきなりダドリー様を暗殺するという話に……」
するとロゼッタさんは小首を傾げた。
「お客様ではありませんから、ダドリー様は」
「あ、なるほど」
思わず感心してしまった。
そう言われれば確かにそうだ。お客様には手を出さないけどお客様じゃなければ手は出す。ロゼッタさんの考えは一貫している……。
……って。
「やめてください! 本当に! いくらなんでも暗殺するほどじゃないです、ダドリー様は!」
思わず叫んでしまった。
そりゃ、一方的に妹に手を出して婚約破棄してきて、そう思ったら性懲りもなく浮気して妹のこと捨てて……、まあこれはイリーナの自業自得の面は大いにあるけど。
ダドリー様は誰がどうみたってクズだけどさ。
でも命を取るほどじゃないわよね!?
「冗談です。そんな顔しないでください」
「……」
「大丈夫です。アデライザ様の嫌がることは絶対にいたしません。ご安心を」
「ありがとうございます!」
「ですがもしお気が変わられましたら是非お声をおかけくださいませ。そういう汚れ仕事も我ら専属メイドの仕事ですので」
「……お、覚えておきます」
怖いこと言う人だなぁもう。
ていうか専属メイドって、いったい……。
ロゼッタさんは私に向かって淑女の礼をすると、静かに去っていった。
部屋の前で一人になってしまった私。
荷解の手伝いをするつもりもないし、部屋に戻ってコーヒーでも飲んで一息つくとするか。
でも、なんだかほんと……、イリーナは来るわ、ダドリー様まで来そうだわで。
これから先、どうなることやら……。
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