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番外編
【番外編】騎士団の交流会1
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ロジェとユベルティナが結婚式を挙げてから、一月ほど経過したころ――。
(さすが、人が多い……!)
ユベルティナは、縁の大きい帽子の陰から並んだ列の先頭を覗き見る。ユベルティナの番は、まだまだ先のようだ。
――王立賛翼騎士団の臨時サイン会場でのことである。
王立賛翼騎士団は巨大組織だ。それと同時に、王都民からは親しまれた組織でもあった。
王族の警護をしたり、他国との折衝をしたり、街の治安を守ったりと、騎士団の仕事は多岐にわたる。
数多くのイケメン騎士が所属しており、特に女性からの人気が高いのが特徴である。
そんな騎士団ファンが楽しみにしている一年に一度の行事が、本日行われていた。
それが、騎士団による、この交流会だ。
騎士団本部内、大練習場。そこは現在、大勢の人々が溢れかえっていた。
集まった者達は皆一様に着飾っていたが、なかでも気合いの入った女性たちが目立つ。
それもそのはずで、今日はイベントの一環として、騎士のサイン会があるのだ。
いくつかの天幕が建てられており、そこに一人一人イケメン騎士が配置されていて、そこで二人っきりの空間でサインをしてもらえる、というのが今回の交流会の目玉企画だった。初のこころみで、発案者はロジェの姉、四女アンヌであるという。
騎士によっては握手もしてもらえるし、なかにはサービスでハグしてくれる騎士もいるということであった。
(まぁ、ロジェ様はそういうのないと思うけど……)
交流会でサイン会に出ることになった――とすごく嫌そうに報告してくれたロジェを思い出し、ユベルティナは苦笑した。
女嫌いな彼がサイン会に参加するのは、もちろんカール団長の勅命だからである。真面目な彼は、仕事として与えられた任務はたとえ気乗りがしなくともこなすのだ。まぁ、当たり前なことだが。
『つい先日結婚したばかりだというのに、何故他の女にいい顔をしなければならないんだ……』
とぶつぶつ呟いていた彼の顔を思い出し、くすりと笑ってしまうユベルティナ。
既婚だろうがなんだろうが、サイン会は騎士団のイメージアップに繋がる立派な仕事だ。
頑張ってるかな~、と思いつつ差し入れ片手に様子を見に来てみれば、大盛況だったというわけである。
「ロジェ様、格好良かったね~!」
「うんうん。ほんとイケメン! しかもちゃんとサイン貰えてよかったわよね!」
と、そんな会話がふと耳に入った。
見れば、着飾った女性が二人、サイン色紙を手に歩いていた。
「もの凄い距離感を醸し出していたものね。サインしてくれないんじゃないかって思っちゃった~!」
「ロジェ様の女嫌いって有名ですものね……。なのにファンの私たちには気を遣って我慢してくれてるっていう、その気遣いが最高よね!」
……ロジェはどうやら相当忍耐しながら交流の仕事をこなしているようである。
「でもあんなに女性と距離を取る方なのに、奥様とはベッタベタって噂よ!」
「はぁ~、羨ましいわ~。私だってロジェ様からの心からの笑顔とか向けられてみたい~。ほんと、奥様が羨ましいわ~!」
「なんでも奥様って補佐官様の実のお姉さんらしいわよ! そういうところで縁を繋いだんでしょうね。羨ましい~!」
(簡単に言ってくれちゃって。大変だったんだからね~)
と苦笑するユベルティナ。ロジェにこき使われたり、男装がバレそうになったり、実際バレたり、スライムに食べられそうになったり、ロジェとの仲が微妙になったりと、これでも結構波瀾万丈な人生を歩んできている自覚がある。
苦笑するユベルティナの横を女性たちは立ち去っていった。
女性たちの話だと、ロジェは女性との距離をとってはいるが、いつものように極寒オーラは放ってはいないようだった。ロジェなりに努力しているのだ。
(大人になったわね、ロジェ様。新婚効果かしら)
しみじみとそう思いながら前を見つめて並んでいると、すぐに順番が回ってきた。
列が、他の騎士のサイン列よりも明らかに早いのだ。おそらくロジェが最低限のことしかしないから回転が速いのだろう。
(さすが、人が多い……!)
ユベルティナは、縁の大きい帽子の陰から並んだ列の先頭を覗き見る。ユベルティナの番は、まだまだ先のようだ。
――王立賛翼騎士団の臨時サイン会場でのことである。
王立賛翼騎士団は巨大組織だ。それと同時に、王都民からは親しまれた組織でもあった。
王族の警護をしたり、他国との折衝をしたり、街の治安を守ったりと、騎士団の仕事は多岐にわたる。
数多くのイケメン騎士が所属しており、特に女性からの人気が高いのが特徴である。
そんな騎士団ファンが楽しみにしている一年に一度の行事が、本日行われていた。
それが、騎士団による、この交流会だ。
騎士団本部内、大練習場。そこは現在、大勢の人々が溢れかえっていた。
集まった者達は皆一様に着飾っていたが、なかでも気合いの入った女性たちが目立つ。
それもそのはずで、今日はイベントの一環として、騎士のサイン会があるのだ。
いくつかの天幕が建てられており、そこに一人一人イケメン騎士が配置されていて、そこで二人っきりの空間でサインをしてもらえる、というのが今回の交流会の目玉企画だった。初のこころみで、発案者はロジェの姉、四女アンヌであるという。
騎士によっては握手もしてもらえるし、なかにはサービスでハグしてくれる騎士もいるということであった。
(まぁ、ロジェ様はそういうのないと思うけど……)
交流会でサイン会に出ることになった――とすごく嫌そうに報告してくれたロジェを思い出し、ユベルティナは苦笑した。
女嫌いな彼がサイン会に参加するのは、もちろんカール団長の勅命だからである。真面目な彼は、仕事として与えられた任務はたとえ気乗りがしなくともこなすのだ。まぁ、当たり前なことだが。
『つい先日結婚したばかりだというのに、何故他の女にいい顔をしなければならないんだ……』
とぶつぶつ呟いていた彼の顔を思い出し、くすりと笑ってしまうユベルティナ。
既婚だろうがなんだろうが、サイン会は騎士団のイメージアップに繋がる立派な仕事だ。
頑張ってるかな~、と思いつつ差し入れ片手に様子を見に来てみれば、大盛況だったというわけである。
「ロジェ様、格好良かったね~!」
「うんうん。ほんとイケメン! しかもちゃんとサイン貰えてよかったわよね!」
と、そんな会話がふと耳に入った。
見れば、着飾った女性が二人、サイン色紙を手に歩いていた。
「もの凄い距離感を醸し出していたものね。サインしてくれないんじゃないかって思っちゃった~!」
「ロジェ様の女嫌いって有名ですものね……。なのにファンの私たちには気を遣って我慢してくれてるっていう、その気遣いが最高よね!」
……ロジェはどうやら相当忍耐しながら交流の仕事をこなしているようである。
「でもあんなに女性と距離を取る方なのに、奥様とはベッタベタって噂よ!」
「はぁ~、羨ましいわ~。私だってロジェ様からの心からの笑顔とか向けられてみたい~。ほんと、奥様が羨ましいわ~!」
「なんでも奥様って補佐官様の実のお姉さんらしいわよ! そういうところで縁を繋いだんでしょうね。羨ましい~!」
(簡単に言ってくれちゃって。大変だったんだからね~)
と苦笑するユベルティナ。ロジェにこき使われたり、男装がバレそうになったり、実際バレたり、スライムに食べられそうになったり、ロジェとの仲が微妙になったりと、これでも結構波瀾万丈な人生を歩んできている自覚がある。
苦笑するユベルティナの横を女性たちは立ち去っていった。
女性たちの話だと、ロジェは女性との距離をとってはいるが、いつものように極寒オーラは放ってはいないようだった。ロジェなりに努力しているのだ。
(大人になったわね、ロジェ様。新婚効果かしら)
しみじみとそう思いながら前を見つめて並んでいると、すぐに順番が回ってきた。
列が、他の騎士のサイン列よりも明らかに早いのだ。おそらくロジェが最低限のことしかしないから回転が速いのだろう。
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