23 / 32
番外編
【番外編】あの日の決意:後編(ユビナティオ視点)
しおりを挟む
「……よしっ、と!」
己の無力さにうちひしがれるユビナティオの上から、姉の元気な声が振ってきた。
「やった! わたし、ヒナを助けたわ! ティオ! わたし、強い男になったわよ!」
「分かりました……、姉上、気をつけて降りてきて下さい……」
「分かったー」
返事が聞こえて、しばらくした後。
トン、と両脚が揃ってユビナティオの前に立った。
「にんむかんりょーっ!」
「ご、ご苦労様です……」
ユビナティオは頭を上げて、偉業を成し遂げたユベルティナの顔を見上げた。
姉は満面の笑みを浮かべていた。キラキラと生気に輝くその明るい紫の瞳は、まさに偉業を成し遂げた騎士のようで――。
だがユビナティオの顔色を見た途端、姉はその笑みを引っ込めて慌ててしゃがみ込んだ。
「どうしたの、ティオ! お顔が真っ赤よ!!」
「す、すみません。なんだか……頭がくらくらしてきて……」
「大変だわ! 早くお医者様に診てもらわないと!」
「あ、姉上……」
慌てる彼女に、ユビナティオは思わず口を開いた。
「なぁに?」
「あの……」
反対されるかもしれない……、だけど、言いたい。ユビナティオは勇気を振り絞った。
「ぼく、強くなりたいです……」
「え?」
「姉上みたいに、強く。弱い存在のために、自分の身も顧みず行動できる、そんな強い男に……」
きっと、反対される。ユビナティオは目をぎゅっと瞑った。
こんなにも身体が弱い自分が、強い男になろうとするだなんて無理だ……そんなの自分でも分かっている。
だが、姉は――
「うん、なろう、なろう!」
ハッとして弾かれるように姉を見上げると、ユベルティナは嬉しそうに頷いていた。
「絵本の騎士様みたいに、強い男になるの!」
「騎士様に……?」
「そうよ! 絵本みたいな騎士様にねっ!」
この国には、騎士団が二つある。男性のみの騎士団『王立賛翼騎士団』と、女性のみの騎士団『王立紅鹿騎士団』である。
つまりユビナティオが騎士になるのだとしたら、王立賛翼騎士団に入る、ということだ。
ユビナティオは、深く頷いた。
「……そうですね。ぼく……、賛翼騎士団に入って騎士になります。それで、姉上みたいに強く……なりたい……」
「うんうん、頑張ろ! 一緒に強い男に――騎士になろう!」
「はい、姉上……」
ユビナティオはユベルティナの瞳を見つめた。自分とそっくりな、それでも活き活きと輝く紫の瞳を。
「僕、頑張ります」
「うん!」
姉は、ぽってりと熱っぽいユビナティオの手をとり、ぎゅっと握り締めてくれた。
それからすぐに侍女が庭師を伴って戻ってきたが、ユビナティオが熱を出しているのを見て、慌てて部屋に連れて行かれた。
ヒナはユベルティナが巣に戻したのだというと、侍女は軽く悲鳴を上げていた。が、それよりはユビナティオの方が心配だったらしく、姉の事はなあなあに済まされてしまった。
それから数日も経つと、移り気な姉は強い男になるのに飽きてしまったが――。
ユビナティオは騎士になる夢を胸に秘め、淡々と自分を鍛え始めた。
あの日を境に、ユビナティオは変わったのだ。
有事に何も出来ずに熱でうずくまるだけではない、自分から行動できるような、弱い存在を守れるような、強い男になるべく……。
己を鍛えて、鍛えて、鍛えて。沢山食べて、身体を動かして。少しずつでも体力を付けていく。すぐに暴走する身体の熱を、体力で抑え付けるために。
少しずつを続けていけば、いつか必ず大きな壁だって越えられる。――というか、それしか方法がないのだから。やれることをしよう。
あと、それから。木を登れるようになろう。
それが、当座の目標だ。
己の無力さにうちひしがれるユビナティオの上から、姉の元気な声が振ってきた。
「やった! わたし、ヒナを助けたわ! ティオ! わたし、強い男になったわよ!」
「分かりました……、姉上、気をつけて降りてきて下さい……」
「分かったー」
返事が聞こえて、しばらくした後。
トン、と両脚が揃ってユビナティオの前に立った。
「にんむかんりょーっ!」
「ご、ご苦労様です……」
ユビナティオは頭を上げて、偉業を成し遂げたユベルティナの顔を見上げた。
姉は満面の笑みを浮かべていた。キラキラと生気に輝くその明るい紫の瞳は、まさに偉業を成し遂げた騎士のようで――。
だがユビナティオの顔色を見た途端、姉はその笑みを引っ込めて慌ててしゃがみ込んだ。
「どうしたの、ティオ! お顔が真っ赤よ!!」
「す、すみません。なんだか……頭がくらくらしてきて……」
「大変だわ! 早くお医者様に診てもらわないと!」
「あ、姉上……」
慌てる彼女に、ユビナティオは思わず口を開いた。
「なぁに?」
「あの……」
反対されるかもしれない……、だけど、言いたい。ユビナティオは勇気を振り絞った。
「ぼく、強くなりたいです……」
「え?」
「姉上みたいに、強く。弱い存在のために、自分の身も顧みず行動できる、そんな強い男に……」
きっと、反対される。ユビナティオは目をぎゅっと瞑った。
こんなにも身体が弱い自分が、強い男になろうとするだなんて無理だ……そんなの自分でも分かっている。
だが、姉は――
「うん、なろう、なろう!」
ハッとして弾かれるように姉を見上げると、ユベルティナは嬉しそうに頷いていた。
「絵本の騎士様みたいに、強い男になるの!」
「騎士様に……?」
「そうよ! 絵本みたいな騎士様にねっ!」
この国には、騎士団が二つある。男性のみの騎士団『王立賛翼騎士団』と、女性のみの騎士団『王立紅鹿騎士団』である。
つまりユビナティオが騎士になるのだとしたら、王立賛翼騎士団に入る、ということだ。
ユビナティオは、深く頷いた。
「……そうですね。ぼく……、賛翼騎士団に入って騎士になります。それで、姉上みたいに強く……なりたい……」
「うんうん、頑張ろ! 一緒に強い男に――騎士になろう!」
「はい、姉上……」
ユビナティオはユベルティナの瞳を見つめた。自分とそっくりな、それでも活き活きと輝く紫の瞳を。
「僕、頑張ります」
「うん!」
姉は、ぽってりと熱っぽいユビナティオの手をとり、ぎゅっと握り締めてくれた。
それからすぐに侍女が庭師を伴って戻ってきたが、ユビナティオが熱を出しているのを見て、慌てて部屋に連れて行かれた。
ヒナはユベルティナが巣に戻したのだというと、侍女は軽く悲鳴を上げていた。が、それよりはユビナティオの方が心配だったらしく、姉の事はなあなあに済まされてしまった。
それから数日も経つと、移り気な姉は強い男になるのに飽きてしまったが――。
ユビナティオは騎士になる夢を胸に秘め、淡々と自分を鍛え始めた。
あの日を境に、ユビナティオは変わったのだ。
有事に何も出来ずに熱でうずくまるだけではない、自分から行動できるような、弱い存在を守れるような、強い男になるべく……。
己を鍛えて、鍛えて、鍛えて。沢山食べて、身体を動かして。少しずつでも体力を付けていく。すぐに暴走する身体の熱を、体力で抑え付けるために。
少しずつを続けていけば、いつか必ず大きな壁だって越えられる。――というか、それしか方法がないのだから。やれることをしよう。
あと、それから。木を登れるようになろう。
それが、当座の目標だ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,994
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。