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番外編

【番外編】あの日の決意:後編(ユビナティオ視点)

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「……よしっ、と!」

 己の無力さにうちひしがれるユビナティオの上から、姉の元気な声が振ってきた。

「やった! わたし、ヒナを助けたわ! ティオ! わたし、強い男になったわよ!」

「分かりました……、姉上、気をつけて降りてきて下さい……」

「分かったー」

 返事が聞こえて、しばらくした後。
 トン、と両脚が揃ってユビナティオの前に立った。

「にんむかんりょーっ!」

「ご、ご苦労様です……」

 ユビナティオは頭を上げて、偉業を成し遂げたユベルティナの顔を見上げた。
 姉は満面の笑みを浮かべていた。キラキラと生気に輝くその明るい紫の瞳は、まさに偉業を成し遂げた騎士のようで――。

 だがユビナティオの顔色を見た途端、姉はその笑みを引っ込めて慌ててしゃがみ込んだ。

「どうしたの、ティオ! お顔が真っ赤よ!!」

「す、すみません。なんだか……頭がくらくらしてきて……」

「大変だわ! 早くお医者様に診てもらわないと!」

「あ、姉上……」

 慌てる彼女に、ユビナティオは思わず口を開いた。

「なぁに?」

「あの……」

 反対されるかもしれない……、だけど、言いたい。ユビナティオは勇気を振り絞った。

「ぼく、強くなりたいです……」

「え?」

「姉上みたいに、強く。弱い存在のために、自分の身も顧みず行動できる、そんな強い男に……」

 きっと、反対される。ユビナティオは目をぎゅっと瞑った。
 こんなにも身体が弱い自分が、強い男になろうとするだなんて無理だ……そんなの自分でも分かっている。

 だが、姉は――

「うん、なろう、なろう!」

 ハッとして弾かれるように姉を見上げると、ユベルティナは嬉しそうに頷いていた。

「絵本の騎士様みたいに、強い男になるの!」

「騎士様に……?」

「そうよ! 絵本みたいな騎士様にねっ!」

 この国には、騎士団が二つある。男性のみの騎士団『王立賛翼騎士団』と、女性のみの騎士団『王立紅鹿騎士団』である。
 つまりユビナティオが騎士になるのだとしたら、王立賛翼騎士団に入る、ということだ。

 ユビナティオは、深く頷いた。

「……そうですね。ぼく……、賛翼騎士団に入って騎士になります。それで、姉上みたいに強く……なりたい……」

「うんうん、頑張ろ! 一緒に強い男に――騎士になろう!」

「はい、姉上……」

 ユビナティオはユベルティナの瞳を見つめた。自分とそっくりな、それでも活き活きと輝く紫の瞳を。

「僕、頑張ります」

「うん!」

 姉は、ぽってりと熱っぽいユビナティオの手をとり、ぎゅっと握り締めてくれた。

 それからすぐに侍女が庭師を伴って戻ってきたが、ユビナティオが熱を出しているのを見て、慌てて部屋に連れて行かれた。
 ヒナはユベルティナが巣に戻したのだというと、侍女は軽く悲鳴を上げていた。が、それよりはユビナティオの方が心配だったらしく、姉の事はなあなあに済まされてしまった。

 それから数日も経つと、移り気な姉は強い男になるのに飽きてしまったが――。
 ユビナティオは騎士になる夢を胸に秘め、淡々と自分を鍛え始めた。

 あの日を境に、ユビナティオは変わったのだ。

 有事に何も出来ずに熱でうずくまるだけではない、自分から行動できるような、弱い存在を守れるような、強い男になるべく……。
 己を鍛えて、鍛えて、鍛えて。沢山食べて、身体を動かして。少しずつでも体力を付けていく。すぐに暴走する身体の熱を、体力で抑え付けるために。

 少しずつを続けていけば、いつか必ず大きな壁だって越えられる。――というか、それしか方法がないのだから。やれることをしよう。

 あと、それから。木を登れるようになろう。
 それが、当座の目標だ。

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