18 / 32
番外編
【番外編】ロジェのクマ1(ユビナティオ視点)
しおりを挟む
騎士候補生としてユビナティオが王立賛翼騎士団にて働き出してから、1ヶ月ほどが経過したころ――。
彼は姉から教わった通りに紅茶を淹れていた。
ポットとカップに熱湯を注ぎ、温め、その湯はいったん取り除いて。細心の注意をはらって分量どおりの茶葉を入れ、沸騰したてのお湯を入れ、そして蓋をして茶葉を蒸らし――。
「……よし」
出来上がった紅茶をトレイに乗せ、ロジェの執務机まで運ぶ。
「失礼します。お茶をお持ちしました」
「……ああ、ありがとう」
書類から目を離さず返事をするロジェに、
「あっ、時間です」
茶葉の蒸らし時間が終わり――、ユビナティオは紅茶をカップに注いだ。
ふわりと華やかな香りが広がる。
「いい匂いだ」
「ありがとうございます!」
微かに微笑むロジェに、ユビナティオはほっと胸をなで下ろした。
ユビナティオは目下、騎士団の仕事に慣れている最中だった。
姉が記してくれた仕事ノートやロジェの指導もあり、めきめきと仕事を覚えている。
騎士団の仕事は、楽ではなかった。やることが沢山あり覚えることが多いし、噂通りロジェの仕事の割り振りはキツい。
けれど、ユビナティオは毎日が充実していた。
たった一つのことを覗いては――。
「……?」
熱烈な視線を感じ、その視線を辿ると……。
ロジェがじーっとユビナティオの顔を見ていた。その目の下にうっすらとしたクマがある。
「あ、あの……」
たった一つの気になることとは、これである。どうもこの上司としっくり来ていないのだ。正直言って、嫌われていると思う。
戸惑うユビナティオに構わず、じっと見つめ続けるロジェ。
やがて、
「君は本当にユベルティナにそっくりだな」
ぽそりと言った。
「は、はい! ありがとうございます!」
ユビナティオは元気よく返事をした。
――姉とそっくり、と言われるのは嬉しいことだ。元気で明るい姉は、ユビナティオにとっては自慢の姉であったから。
「だが……」
ロジェが呟いた。
「やはり、違うな」
「え?」
「……………」
不思議そうな顔のユビナティオに、ロジェは何も言わず視線をソファーへと向ける。
「君の姉上は、瞳の色が君よりほんの少し明るい紫だった」
「え……」
そんなことを言われたのは初めてである。
よく見ているなぁと思うと同時に、だから何、という感想も持つ。
「それに……」
ロジェの目線がユビナティオの顔から首筋へと移り――、
「首筋にホクロがあったが、君にはない」
――眠そうな視線で言われた言葉に、ユビナティオは一瞬固まり、それから弾かれたように首筋を手で覆った。
「っ!?」
「……………」
ロジェは再び書類に目を落とすと、何も言わずに仕事を再会した。
一方ユビナティオは――、しばらく呆然としたあと、真っ赤になって固まっていた……。
彼は姉から教わった通りに紅茶を淹れていた。
ポットとカップに熱湯を注ぎ、温め、その湯はいったん取り除いて。細心の注意をはらって分量どおりの茶葉を入れ、沸騰したてのお湯を入れ、そして蓋をして茶葉を蒸らし――。
「……よし」
出来上がった紅茶をトレイに乗せ、ロジェの執務机まで運ぶ。
「失礼します。お茶をお持ちしました」
「……ああ、ありがとう」
書類から目を離さず返事をするロジェに、
「あっ、時間です」
茶葉の蒸らし時間が終わり――、ユビナティオは紅茶をカップに注いだ。
ふわりと華やかな香りが広がる。
「いい匂いだ」
「ありがとうございます!」
微かに微笑むロジェに、ユビナティオはほっと胸をなで下ろした。
ユビナティオは目下、騎士団の仕事に慣れている最中だった。
姉が記してくれた仕事ノートやロジェの指導もあり、めきめきと仕事を覚えている。
騎士団の仕事は、楽ではなかった。やることが沢山あり覚えることが多いし、噂通りロジェの仕事の割り振りはキツい。
けれど、ユビナティオは毎日が充実していた。
たった一つのことを覗いては――。
「……?」
熱烈な視線を感じ、その視線を辿ると……。
ロジェがじーっとユビナティオの顔を見ていた。その目の下にうっすらとしたクマがある。
「あ、あの……」
たった一つの気になることとは、これである。どうもこの上司としっくり来ていないのだ。正直言って、嫌われていると思う。
戸惑うユビナティオに構わず、じっと見つめ続けるロジェ。
やがて、
「君は本当にユベルティナにそっくりだな」
ぽそりと言った。
「は、はい! ありがとうございます!」
ユビナティオは元気よく返事をした。
――姉とそっくり、と言われるのは嬉しいことだ。元気で明るい姉は、ユビナティオにとっては自慢の姉であったから。
「だが……」
ロジェが呟いた。
「やはり、違うな」
「え?」
「……………」
不思議そうな顔のユビナティオに、ロジェは何も言わず視線をソファーへと向ける。
「君の姉上は、瞳の色が君よりほんの少し明るい紫だった」
「え……」
そんなことを言われたのは初めてである。
よく見ているなぁと思うと同時に、だから何、という感想も持つ。
「それに……」
ロジェの目線がユビナティオの顔から首筋へと移り――、
「首筋にホクロがあったが、君にはない」
――眠そうな視線で言われた言葉に、ユビナティオは一瞬固まり、それから弾かれたように首筋を手で覆った。
「っ!?」
「……………」
ロジェは再び書類に目を落とすと、何も言わずに仕事を再会した。
一方ユビナティオは――、しばらく呆然としたあと、真っ赤になって固まっていた……。
0
お気に入りに追加
1,977
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る
束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました
ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。
幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。
シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。
そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。
ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。
そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。
邪魔なのなら、いなくなろうと思った。
そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。
そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。
無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
[R18]引きこもりの男爵令嬢〜美貌公爵様の溺愛っぷりについていけません〜
くみ
恋愛
R18作品です。
18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。
男爵家の令嬢エリーナ・ネーディブは身体が弱くほとんどを屋敷の中で過ごす引きこもり令嬢だ。
そのせいか極度の人見知り。
ある時父からいきなりカール・フォード公爵が婚姻をご所望だと聞かされる。
あっという間に婚約話が進み、フォード家へ嫁ぐことに。
内気で初心な令嬢は、美貌の公爵に甘く激しく愛されてー?
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。