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71話 そして。
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――それから。
私と航くんの生活は、特に変わることもなく続いていった。
毎朝迎えに来てくれるし、お昼は一緒だし、帰りだって一緒だ。ほんと、付き合う前から付き合ってるみたいなもんであった。
あ、でも一つ変わったことがある。昼休みに、響くんが生徒会室に来なくなった。
さすがに振られた相手とその彼氏と一緒にお弁当を食べるつもりにはなれないのだろう。当たり前だけど。
響くんが来なくなったことを、航くんも察するものがあったのだろう――特になにも言わず受け入れていた。
生徒会が特に揉め事もなく運営されているのは颯人くんのフォローがあったのを感じさせるが、実際にそんなことを颯人くんがしたのかどうか、あったとして何をしたのかは、私には分からない。
航くんと二人っきりでデートをしてみたりもした。水族館に行ったんである。
私はその水族館のホームページを事前にチェックし、展示されている魚の情報を予習してからデートに臨んだ。
水族館で魚を見ながらうんちくを語る私の横で、航くんは興味深げに魚に目を輝かせていた。
私は知識を披露できて良い気分だし、隣にいるのが航くんだということで、とても楽しいデートだった。
航くんはどうだったかと聞いたところ、「楽しかったよ。けど正直言うと、君と一緒ならどこでも楽しいよ」と照れながら言った。……いやほんと、私の方が照れるわ。
その水族館にあったプリクラで、写真を撮ってみたりもした。
この前の反省を生かし、ぎこちないけど笑ってみた。……ちょっとキモいけど、この前よりはだいぶマシなプリクラになった。やっぱり写真を撮るときは笑顔だと思った。
帰ってから、『式根』と書いた張り紙の隅に貼ってあったプリクラの横に、その日撮ったプリクラを貼った。イケメンと眼鏡少女の私が二人っきりで並んで立つプリクラは、なんだか4人で撮ったものよりキラキラして見えた。キラキラ系エフェクトを使ったわけでもないのに。
そんなことをしながら期末試験前となり、私は航くんと一緒に私の部屋で勉強をしたりもした。
その期末試験で、奇跡が起きた。なんと、漢字で点数をとれたのである。航くんに漢字の覚え方を教えてもらったのが効いた。
「魅力の『魅』って字は、つくりに『未』って入ってるでしょ? だから『み』って読むんだよ。あ、右だから『み』って覚えてみてね」
と。たったそれだけのことだが、私にとっては青天の霹靂だった。
漢字ってそうやって覚えるんだ! と感動した。我ながら小学生みたいである。
とはいえ書けた漢字の量は少なく、やっぱり学年二位だった。一位はもちろんあいつ、二木颯人だ。
でもいいんだ、航くんに教えてもらって漢字書けたんだから! 私にとってはそれが一番である。その……、口はばったいことをいうと、愛の勝利だ、なんて思ったりした。
遅刻癖に関しては、付き合う前と変わらなかった。
たまに航くんを巻き込んで遅刻するが、概ねちゃんと行けている。……巻き込んで遅刻するのがよくないことは重々承知の上だ。
ところで、例の『朝寝ぼけながら航くんに告白とプロポーズをする問題』だが、どうやらそのままらしい。
とはいえそれも、以前とは様相が変わっていた。航くんが『今朝こんなこと言ってたよ』と、意識のハッキリした私に報告してくれるようになったのである。
なんていうかもう、聞く度に顔を赤くして、それ以上言うな、やめてくれぇ……と頼むのだが、航くんはそんな私の反応を、可愛い可愛いといって楽しんでいた。
案外航くんもいい性格をしている。
あの三人女子は、結局あれ以来学校に来なくなってしまった。もしかしたら、このまま停学になるか、転校するのかもしれない。
とかやってるうちに、もう夏休み前である。
夏休みになったら海に行こう、プールもいいな、と航くんが張り切っているが、私は一つ心に決めたことがあった。
夏休みに入ったら、病院に行こうと思っているのだ。……響くんの覚悟を考慮してひびきクリニックに行こうかと思ったが、やめておいた。
やっぱり、遠慮しちゃうよね。
どこか別の心療内科に行ってみようと思っている。
私の漢字が書けなかったり遅刻癖だったりが、もしかしたら医学的な問題かもしれない……ということは、やっぱり私にとっては重大な問題であった。
そして、それを航くんにいつ言うか。
これも極めて重要な問題である。
もしかしたら、それが原因で振られる可能性だってあるのだから。
航くんならそれ込みで私を受け入れてくれそうな気はするけど、人間だから私の想像通りに行くとは限らない。
そのときは、私は諦めようと思う。だって私はずっと漢字が書けなかったり、遅刻癖だって治らなかったりしたのだ。それが私なのである。
医学の力を借りてそれが治るのかどうかも分からないし、そんな私に航くんを付き合いたくないと言われてしまえば、それまでである。去って行く人を追うようなことはしない。
彼に言う言わないも含めて、はっきりさせておきたかった。自分が本当にディスグラフィアなのか、そして起立性調節障害なのかを。
まあ、とにかく。
なんだか忙しくなりそうな夏が、すぐそこまで来ている。
私と航くんの生活は、特に変わることもなく続いていった。
毎朝迎えに来てくれるし、お昼は一緒だし、帰りだって一緒だ。ほんと、付き合う前から付き合ってるみたいなもんであった。
あ、でも一つ変わったことがある。昼休みに、響くんが生徒会室に来なくなった。
さすがに振られた相手とその彼氏と一緒にお弁当を食べるつもりにはなれないのだろう。当たり前だけど。
響くんが来なくなったことを、航くんも察するものがあったのだろう――特になにも言わず受け入れていた。
生徒会が特に揉め事もなく運営されているのは颯人くんのフォローがあったのを感じさせるが、実際にそんなことを颯人くんがしたのかどうか、あったとして何をしたのかは、私には分からない。
航くんと二人っきりでデートをしてみたりもした。水族館に行ったんである。
私はその水族館のホームページを事前にチェックし、展示されている魚の情報を予習してからデートに臨んだ。
水族館で魚を見ながらうんちくを語る私の横で、航くんは興味深げに魚に目を輝かせていた。
私は知識を披露できて良い気分だし、隣にいるのが航くんだということで、とても楽しいデートだった。
航くんはどうだったかと聞いたところ、「楽しかったよ。けど正直言うと、君と一緒ならどこでも楽しいよ」と照れながら言った。……いやほんと、私の方が照れるわ。
その水族館にあったプリクラで、写真を撮ってみたりもした。
この前の反省を生かし、ぎこちないけど笑ってみた。……ちょっとキモいけど、この前よりはだいぶマシなプリクラになった。やっぱり写真を撮るときは笑顔だと思った。
帰ってから、『式根』と書いた張り紙の隅に貼ってあったプリクラの横に、その日撮ったプリクラを貼った。イケメンと眼鏡少女の私が二人っきりで並んで立つプリクラは、なんだか4人で撮ったものよりキラキラして見えた。キラキラ系エフェクトを使ったわけでもないのに。
そんなことをしながら期末試験前となり、私は航くんと一緒に私の部屋で勉強をしたりもした。
その期末試験で、奇跡が起きた。なんと、漢字で点数をとれたのである。航くんに漢字の覚え方を教えてもらったのが効いた。
「魅力の『魅』って字は、つくりに『未』って入ってるでしょ? だから『み』って読むんだよ。あ、右だから『み』って覚えてみてね」
と。たったそれだけのことだが、私にとっては青天の霹靂だった。
漢字ってそうやって覚えるんだ! と感動した。我ながら小学生みたいである。
とはいえ書けた漢字の量は少なく、やっぱり学年二位だった。一位はもちろんあいつ、二木颯人だ。
でもいいんだ、航くんに教えてもらって漢字書けたんだから! 私にとってはそれが一番である。その……、口はばったいことをいうと、愛の勝利だ、なんて思ったりした。
遅刻癖に関しては、付き合う前と変わらなかった。
たまに航くんを巻き込んで遅刻するが、概ねちゃんと行けている。……巻き込んで遅刻するのがよくないことは重々承知の上だ。
ところで、例の『朝寝ぼけながら航くんに告白とプロポーズをする問題』だが、どうやらそのままらしい。
とはいえそれも、以前とは様相が変わっていた。航くんが『今朝こんなこと言ってたよ』と、意識のハッキリした私に報告してくれるようになったのである。
なんていうかもう、聞く度に顔を赤くして、それ以上言うな、やめてくれぇ……と頼むのだが、航くんはそんな私の反応を、可愛い可愛いといって楽しんでいた。
案外航くんもいい性格をしている。
あの三人女子は、結局あれ以来学校に来なくなってしまった。もしかしたら、このまま停学になるか、転校するのかもしれない。
とかやってるうちに、もう夏休み前である。
夏休みになったら海に行こう、プールもいいな、と航くんが張り切っているが、私は一つ心に決めたことがあった。
夏休みに入ったら、病院に行こうと思っているのだ。……響くんの覚悟を考慮してひびきクリニックに行こうかと思ったが、やめておいた。
やっぱり、遠慮しちゃうよね。
どこか別の心療内科に行ってみようと思っている。
私の漢字が書けなかったり遅刻癖だったりが、もしかしたら医学的な問題かもしれない……ということは、やっぱり私にとっては重大な問題であった。
そして、それを航くんにいつ言うか。
これも極めて重要な問題である。
もしかしたら、それが原因で振られる可能性だってあるのだから。
航くんならそれ込みで私を受け入れてくれそうな気はするけど、人間だから私の想像通りに行くとは限らない。
そのときは、私は諦めようと思う。だって私はずっと漢字が書けなかったり、遅刻癖だって治らなかったりしたのだ。それが私なのである。
医学の力を借りてそれが治るのかどうかも分からないし、そんな私に航くんを付き合いたくないと言われてしまえば、それまでである。去って行く人を追うようなことはしない。
彼に言う言わないも含めて、はっきりさせておきたかった。自分が本当にディスグラフィアなのか、そして起立性調節障害なのかを。
まあ、とにかく。
なんだか忙しくなりそうな夏が、すぐそこまで来ている。
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